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妖精のたくらみ
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1
ノール一行は魔王神殿を出、東に進路を取っていた。東には水神アクアードの支配する天水峡、その手前には妖精の城アルフヘイムがある。
アルフヘイムに住む妖精は「湖の妖精」と呼ばれアクアマリンレイクの清浄な水を用いて武器を作ることで知られていた。
ノールはひとまずアルフヘイムに赴き、手になじむ武器がないかあたってみるつもりであった。
だが、アルフヘイムは遠い。湿原を抜けて先にある街で小休止、そして森を抜けてようやくたどり着く。
ノールたちは湿原で最初の野営をしていた。
火を焚き、食事をとり、小休止を取る。フォルネアは火のそばに腰を下ろし、両膝を抱えるように座っていた。
「もうよいのか」
顔を上げればノールが立っていた。
「はい。もう大丈夫です」
フォルネアは薄く微笑んでノールを見上げた。
「聖域が貴様の体に良くないことは分かっていたが、いささか配慮が足りなかったな」
ノールの言葉にフォルネアは目を丸くした。騎士魔王様がこんなお優しい言葉をかけて下さるなんて・・・?
ヴァンノールに仕えて初めてであるかもしれない。
騎士魔王様は寛大なお方だが、決してやさしいお方ではない。いつもならもっと強くなれ、そうおっしゃるのに。
ああ、お気を使わせてしまうなんて反省しなければ!
「云われてみればまだ苦しい気がします。騎士魔王様が今夜抱き枕になって下されば元気になるかもしれません!」
勢いよく両手を広げて云ったので二つのふくらみが大きく揺れた。
「たわけ」
ノールはフォルネアの無軌道をたしなめたがそのまま隣に座った。
「あの・・・?」
「今日はわしの失態だ。貴様の望みを叶えよう」
云われて、フォルネアの顔に真っ赤に血が上る。
「いえ! 申し訳ありません! 本気にしないでくださると・・・ 助かります・・・」
フォルネアは真っ赤になった顔を見られないようにうつむき、小さな声でつぶやいた。
内心、なんで断ったんだろう?という思いがかすめたが、それよりも今は顔を見られたくなかった。
「ならば、今日はもう休め」
ノールは立ち上がって云った。そのまま長剣を手にし暗闇に消えていった。日課の鍛錬に向かったのだろう。
そのノールをぼんやりと見送りながらフォルネアは熱の上った頬を両手で抑え、考えていた。
今までの騎士魔王様と、何か違う―
ツィグリス湿原は広大な湿原だ。通り抜けるだけでも何日もかかる。そのうえ、フレイスライムやローパーなど湿原の沼や藪に擬態して襲い掛かる魔物が多く、旅の難所として知られている。
しかしながら、かれらには関係のないことだった。今のノールや、ゴフダーク、フォルネアには下級の魔物など問題にならぬ。
襲い掛かってくるならば切り伏せ、踏みつぶすだけ。障害にすらならぬ。だがそれは、かれらにとっては、だ。
一切の歩みを止めず進み続ける彼らの耳に魂消るような悲鳴が届いた。
見ると、しばらく先にフレイスライムに襲われる娘の姿が見えた。
娘は必死に逃げようと抵抗するが、スライムの溶解液を浴び衣服はボロボロになり、肌は強酸に火傷したように変色していた。
「あの娘、ニンゲンのようです」
どうやら歩みの速度を変えずに進む3人の進路上にあの娘が喰われる現場がぶつかりそうだった。
「お助けになりますか?」
フォルネアは主の命令があれば臨戦態勢に入れるよう軽く矢に手を添えた。無論、命令がなければ矢は放たれることはない。
「スライムどもが騎士魔王の行く手をふさぐならば蹴散らすことになる」
淡々とノールは答えた。
その間娘は溶解液をさらに浴び肌は赤黒くまだらになり、もはや身を守るもの一つ身に着けていない有様であった。
フォルネアは主の意を受けてスライムに矢を放った。矢には魔力が載せてあり当たると同時にスライムは粉々にはじけ飛んだ。
ゴフダークは裂帛の気合とともにスライムを一撃粉砕し、もう一匹はノールが近づくだけでみなぎる魔力に灼かれ蒸発した。
娘は茫然と成り行きを見守っていたが、われに返って(大切なものなのだろう)手荷物を引き寄せると、大きく開いてしまっていた足を閉じてうずくまった。
その娘の前に、ノール、フォルネア、ゴフダークが立った。
娘はおびえた目をゴフダークに向けている。
「・・・ひどい姿です。この外套を羽織りなさい」
フォルネアは娘に肩で留めていた外套を外して投げ渡した。
娘は外套を受け取るとその体をくるみ、外套に残るフォルネアの体温に安心したのかポロポロと涙を流した。
「ありがとう・・・ ございます・・・」
それはまだ若い人間の娘だった。眉と肩で水平に切りそろえた白く輝く髪、黒目がちな大きな瞳。白い肌はあちこち焼けただれていたが、小柄で細い体はなだらかで美しい。
「あなた、ニンゲンですね。なぜこのようなところにいるのです?」
フォルネアが声をかけた。疑問はもっともでこのような娘がツィグリス湿原のこんな奥まで来ることはまず不可能だし、なによりニンゲンが魔界にいること自体がおかしい。
娘は、おずおずと口を開いた。
「私にも・・・ よくわかりません。 村の近くの森を歩いていたら、木の根に足を取られてしまい穴に落ちました。気が付いたらさっきのスライムたちに・・・」
云って娘はぶるぶると体を震わせた。
「フェアリーホールね・・・ 騎士魔王様、たまにあるんです。妖精たちが魔界と人間界を行き来するのにフェアリーホールを作るんですけど、入り口を始末しないで開けっ放しにしておいたり・・・」
「あの・・・ ここはどこなんでしょう・・・?」
娘が至極当然の疑問をやっと口に出した。
「ここは魔界。魔王の支配する大地だ」
ノールの答えに、娘は茫然とした。
「魔界・・・ なんで・・・」
「娘。貴様は妖精どもの不始末に巻き込まれただけのようだな。貴様が望めば、妖精どもの住処まで同道を許そう」
「あの・・・ いいんでしょうか・・・?」
ノールの言葉におずおずと問い返す娘に、あえてフォルネアは少し棘のある言葉をかぶせた。
「断ればここで死ぬだけです。湿原にはフレイスライムだけでなく、ローパーやオークもいますし、みんな湿ったところや柔らかいお肉が大好きですから」
「ヒッ・・・」
さっきの恐怖がよみがえったのか、娘は青い顔をしてガタガタ震えだした。
「どうする」
ノールが問いを重ねる。
「よ・・・ よろしくお願いいたします。わたくしリドレーと申します。あなた様はどうお呼びすればよろしいでしょうか・・・?」
おずおずと答えるリドレーにノールは触れ、魔力を放出した。赤黒く変色していた肌がみるみるなめらかな輝きを取り戻した。
「わしの名はノールだ。好きに呼べ」
リドレーは己の傷が一瞬で癒えたことに驚きと恐怖を感じながら答えた。
「では、ノール様と・・・」
「・・・気やすいです。騎士魔王様とお呼びなさい。私だってノール様なんてお呼びしたこと無いのに」
どこかすねたようにフォルネアは訂正した。
リドレーはノールとフォルネアをそれぞれ見て途方に暮れたような顔をした。
ノールはそんなフォルネアに向き直った。
「フォルネア、貴様も好きに呼べばよいのだぞ」
「・・・ノール君や、ノールちゃんでも?」
「構わぬ」
ノールから視線をそらし、髪先をいじりながら唇を尖らせ云うフォルネアに、ノールは明快に答えた。
その答えにフォルネアは花がほころぶように微笑んだ。
「嬉しいですけど、やめておきます。 私は、騎士魔王様にお仕えできる。それだけで幸せなのですから・・・ それ以上は望みません」
リドレーを助け気遣うような様子に思わず湧き上がっていたイライラがすっと溶けていくような感じがした。
2
妖精の城アルフヘイムはまだ遠く、湿原を越えたノールたちは途中ユフラテの街で休息をとることにした。
ひとまず素肌を外套一枚で隠している状態のリドレーに服を購い、食料と水の補給を行う。街の最奥に差し掛かった時異様な魔力を感知し、いざなわれるように教会のような建物に立ち入った。
そこに祀られていたのは一本の大鎌であった。
この鎌こそ、かつて魔界最高の武器職人メルヒオールが鍛え上げた魔器で銘を「スライダー」という。
威力は魔界に現存する伝説の武器の中でも屈指、その分扱うのが難しく並の魔力では触れることもままならぬ。
そんな「スライダー」をノールは無造作に手に取った。そして、目にも止まらぬ速度で縦横に操った。
「スライダー」も応えるように輝く。銀一色の鎌だが精緻な細工が施されてい、刀身にきざまれた十三の文字は魔力を込めるとそれぞれ幻想的に輝く。ノールがその気になれば「スライダー」の威力を十全に引き出すことが出来よう。
騎士魔王のあまりの戦技にフォルネアは思わず見惚れた
「出てくるがよい」
ノールは「スライダー」を台座に戻し、裏口の扉の影に隠れる何者かに声をかけた。
ゴフダークがノールたちを守るように一歩前に出たがノールは手でそれを制した。
ほどなく扉が開き、現れたのは一人の少女騎士だった。
まだ幼いといっていい顔立ちで、菫色がかった銀髪を赤珊瑚の髪留めでツインテールに結わえ、意志の強そうに輝く金色の瞳。桜色の唇と頬。小柄で細い体を包むのはぴったりとした薄金の鎧に、腰には小剣を佩いている。下半身は白い革の脚絆に獣革の具足を身に着けている。
まだまだ幼いがそれなりの修練を積んでいるのは分かる。
扉の前で少女騎士は片膝を立てて跪いた。
「お会いできて光栄です!」
「わしがわかるのか」
「はい。騎士の名を持つものであなた様を見違うものはおりませぬ。失礼ながら騎士魔王様の戦技、扉の裏から拝見させていただきました!」
云って、少女騎士はまっすぐ顔を上げた。
その眼は騎士魔王とはじめて邂逅する喜びに爛々と輝き、「スライダー」を難なく扱って見せた騎士魔王の戦技の、その一切を見逃すまいという姿勢。この小娘は強くなる。騎士魔王をしてそう思わせた。
「今まで誰も気づかなかったですけどね」
フォルネアがぽそっと云うのへ、少女騎士は困惑したように「まさかそんな・・・」とつぶやいた。
「名を聞こうか」
ノールが少女騎士に名乗りを許した。少女騎士はぱあっと顔を輝かせた。
「わたくしはブーケファルスと申します! 騎士魔王様にお会いでき、光栄です!」
少女騎士、ブーケファルスはそう云って再度頭を垂れた。
「立て。こちらへ参れ」
「はいっ」
ノールの許可を得てブーケファルスはノールの近くまで来、再び跪いた。
「して、騎士魔王様はなぜユフラテに参られたのでしょうか」
「さて、この<鎌>の魔力に呼ばれたのかもしれぬ」
云って、ノールは台座に納めた「スライダー」を見た。
「貴様はどうなのだ。かの「スライダー」、我が手にしたいとは思わぬのか」
ノールはまっすぐブーケファルスの眼を見た。
この少女にしては珍しく、わずかに視線をそらし恥じ入るようにうつむく。
「それは・・・ いつか扱ってみたいとは憧れますが・・・」
「スライダー」は私には応えてくれません、と小さな声でつぶやいた。
それを見れば、ブーケファルスが「スライダー」を我が手にせんと挑み続けていることが分かった。
ノールの見たところ、鍛錬を続ければ「スライダー」が応える日もそう遠くはあるまい。
「いいだろう。騎士魔王の名のもとに、「スライダー」を貴様に賜わす。わしが呼んだら「スライダー」を手に馳せ参じよ」
それまでに扱えるようになっておけ、という意味を込めてノールは「スライダー」を手に取りブーケファルスに差し出した。
「騎士魔王様・・・ それではわたくしをあなた様の麾下に・・・⁉」
ブーケファルスは感動で涙でにじんだ目で茫然とつぶやく。
「励めよ。騎士ブーケファルス。わしは常々貴様のような騎士を揃え、近衛騎士隊を創りたいと思っていたのだ。
貴様は我が近衛騎士『グリムリーパー』の最初の一人だ」
ブーケファルスは跪いて両手で支えるように「スライダー」を押戴いた。
腕にかかるスライダーの重みにブーケファルスの胸が熱くなって行く。いつしかブーケファルスはその大きな金色の瞳からとめどなく涙を流していた。
「グリム・・・リーパー・・・ うれしゅう・・・ ございます・・・」
ノールはそんなブーケファルスに深く頷いた。
「では、わしは行く。グリムリーパーの名を汚すまいぞ」
ノールはもう振り返らず教会を後にする。ブーケファルスは「スライダー」を押戴いたまま両膝をついて平伏していた。
「騎士魔王様、最近お優しすぎますね」
教会を出て開口一番、フォルネアがそう言った。
ヴァンパレスにおいては、騎士魔王ヴァンノールに軽口を叩いたり体に触れたりできるのは自分だけだった自負がフォルネアにはある。
だが、騎士魔王ヴァンノールは美少年ノールとなり、ゴフダークに慈悲を与え(まあ、それはいいとしても)、リドレーを救い、今日はまたブーケファルスに目をかけた。
フォルネアとしては何か面白くない。どうももやもやむかむかする。
「そう思うか」
いつものように鷹揚にノールが応えた。
「はい。ゴフダーク様の事もそうでした。それに、リドレーのことも、今の騎士のことも。騎士魔王様はまな板がお好きなのですね。
お胸が理由でないとしたら、まさかお力を失われたことで気弱になっておられるのでは?」
「フォルネア、コトバガスギヨウゾ」
あんまりな言葉にさすがにゴフダークがフォルネアをいさめる。
「よい」
ノールは気にした風もなく歩いて行った。
フォルネアは胸の前で右のこぶしを左で覆うように握って、そのノールの姿を目で追った。
(騎士魔王様・・・黒くて、逞しくて大きなおかた・・・ 私は、あなた様がもっと猛々しくそそり立つ凶暴なお姿をまた見たいのです・・・)
腕のひと薙ぎで幾多の敵を屠り、豪槍の突撃で破れぬ守りはない。暴風のごとき騎士魔王の圧倒的な力が思い起こされる。戦場の騎士魔王には慈悲などなく、敵対する者にはただ圧倒的な絶望だけがそこにあった。
「フォルネア」
「はっ・・・ はひ!」
騎士魔王の暴虐に思いを馳せていたフォルネアは声をかけられ思わず声が裏返る。
「アクアマリンレイクは東だったな」
「はい。まだしばらくありますが、東南東に」
「久々に妖精王の顔でも見てやろう。道行きは任す。案内せよ」
「はい!」
騎士魔王ヴァンノールの口調そのままで、舌っ足らずな声でいうノールに頬が緩んでしまう。
(うーん・・・狂暴もいいですけど、これはこれでやっぱり可愛いです・・・ 困っちゃいますね)
いつの間にか上機嫌に戻っていたフォルネアは自分のことながら単純だな、と思いつつその日一日ご機嫌だった。
3
「なにか・・・ 甘いにおい・・・」
ユフラテから東には大森林が広がっていた。アルフヘイムはこの大森林と、アクアマリンレイクと呼ばれる清浄な湖に守られている。
妖精の城を守る森がただの森であるわけもなく魔族を惑わせる仕掛けがあり、フォルネアが嗅ぎとった甘いにおいがまさにそれだった。
「ゴフッ。ヤスザケノヨウダナ・・・」
ゴフダークも妖精の酒の甘いにおいを嗅ぎとったようだった。
「お酒・・・ですか・・・? わたしは感じませんけど・・・」
リドレーが小首をかしげた。
「ここは魔酔の森と云い、妖精どもが魔族を寄せ付けぬよう妖力を込めた酒を造っているのだ」
「こどもにお酒はダメですっ!」
ケラケラ笑いながらフォルネアがノールにからみつく。その頬はすでにすっかり朱くなっている。
「征くぞ。あまり吸い込むな」
とはいえ、魔酔の森は広く深い。口元を外套やハンカチで覆いながら森を進むが、酒の香気は強くなるばかりだ。
フォルネアは茹で上がったように赤い顔をして、ゴフダークは顔をしかめて首を振りながら歩く。ノールもさすがに無影響というわけには行かず、少し顔を紅潮させていた。リドレーだけが素面で、フォルネアを支えながら歩いていた。
しばらく歩いて、急に視界が開けた。
「ここは・・・」
魔酔の森のちょうど中ほど、妖精の酒の醸造所である酒の沸き立つ泉だった。
「ふにゃー・・・」
フォルネアはもう目の焦点も合わず千鳥足だ。
「さすがに香気が強すぎるな。ここは早く抜けた方がよい」
リドレーだけは分からず(ただのきれいな泉では?)と云った不思議そうな顔をしながら、手荷物から水の入った革袋をフォルネアに差し出した。フォルネアは受け取って一口二口飲んだ。
「ゴフッ!」
ゴフダークが獅子吼とともに棍棒を薙ぎ払った。
「ぎゃあ!」
何もない空間から悲鳴が上がり棍棒に跳ね飛ばされた妖精が泉に落ちた。
気が付けば、かれらは数え切れぬ妖精に囲まれていた。
「魔族がこの森で何をしている!」
「妖精の酒を盗みに来たのか!」
「目にもの見せてやろう!」
口々にののしりながら詠唱を始める。
詠唱は魔法となり、数え切れぬ風の刃が一斉にノールたちを襲った。
「小癪な妖精風情が‼」
ノールが吼えると妖精の生み出した風の刃はすべて吹き散らされて消える。
だが、急に大声を出したせいか酒の酔いが回りノールは片膝をついた。
「おのれ・・・」
「「「魔の者! 死すべし」」」
妖精たちが一斉に声を上げた。
刹那、リドレーがノールをかばうように両手を広げて立った。
「ダメです! このおかたはあなたたちの敵ではありません! どうかひどいことをしないでください! わたしたちはお城に行きたいだけです!」
「「「アルフヘイムに⁉」」」
「「「それはならぬ!」」」
「「「魔族は妖精を滅ぼすつもりだろう!」」」
「「「妖精王はお怒りだ! 魔の者!死すべし!」」」
風の刃がリドレーを襲う! リドレーは両手を広げたまま立ちはだかるが、風の刃はリドレーを切り裂き蹂躙する。
「リドレー。前に出るな」
ノールがリドレーを背にかばおうとしたが、リドレーはふるふる首を振って、手荷物から何か取り出した。
それは、革で装丁された重厚な本だった。表紙には竜が刻印されていた。リドレーは本を開き一心に祈りをささげる。
「大いなる力をもつ竜神様・・・ この書に宿りわたしに力を・・・!」
リドレーの祈りにこたえるように竜の聖書に水の力が宿り魔酔の力をかき消していく。
「「「まさか・・・」」」
書に宿った水の力は、堰を切ったように逆流する!
「水神の息吹よ!」
リドレーが叫んだ!
途端、竜の聖書から清浄な水が湧き上がり竜を象る。水で形成された幾百の竜は水の刃となりかれらを囲む妖精を斬り飛ばしていく。
逃げる者もいたがとても逃げ切れず水の竜のあぎとはすべての妖精を巻き込み肉塊に変えて消滅した。
それを見届けて、リドレーは気を失ったように倒れこむが、地面にたたきつけられる寸前ノールがそれを支えた。
リドレーの顔は土気色で、激しく肩で息をしている。
「今のは・・・ アクアードブレス・・・! リドレー! 今の力は・・・ いや、その書の力だな」
ノールの言葉にリドレーは喘ぎ喘ぎ言葉を紡ぐ。体からは完全に力が抜けており目を開くこともできない様子だ。
「はい・・・ わたしは・・・ この聖書に魂を宿すことで・・・ 竜神様のお力を借りることが・・・ できるのです・・・」
ノールはリドレーの手を握り魔力を放出した。
リドレーの顔色が戻りノールの腕に、氷の様だったリドレーの体温が上がってきたのが感じられた。
「二度とやるな。その書は聖書などではない。貴様の魂など、その書にかかってはわずか数回で食らいつくされよう」
ノールは顔を上げてアクアマリンレイクの遥か東、天水峡の方角に視線を向けた。
「わしは、今の力を知っておる。その書の力の源は聖水雷の複属性を持つ水神よ。貴様の手には余る」
ノールの脳裏に、一人の男の姿がよぎる。
流れる水のような長髪に、白い肌、朱い瞳の細面の美丈夫。穏やかな言葉で人を破滅させ嗤うその姿。どこまでも酷薄で、他者など己の快楽でしかないというような。武人であるノールとは相容れぬが、五大魔王…偉大なる創造主麾下の五下僕の一柱で、間違いなく魔界最強の漢の一人。
水神アクアード―
云われてみればこの書はいかにもアクアードらしい。敬虔な聖女に己の呪書を聖書だと思い込ませ、その命を救う代わりに魂を食らう。聖女は何に祈りを捧げているのか理解せずに、やがて魂を食らいつくされ命を落とす。そして、命を落としてなお聖女は悪魔に祈りを捧げていたことに気づかない。その姿を見て、この悪魔は冷笑するのだ。
ノールは苦虫をかみつぶしたような顔をする。そんなノールをリドレーは心配そうに見上げた。
ノールはその視線に気が付き、軽く頷いた。
「だが、リドレーよ。今回は貴様に助けられたな。褒美に貴様の望みを一つ叶えよう。何を望む」
リドレーは驚きに目を見開いた。
「そんな・・・ いつも助けられているのはわたくしです・・・ あなた様がいて下さらなくては、わたくしはもう・・・」
リドレーは小さな体を震わせた。そして、リドレーはノールの眼を見て気づいた。何か望みを口に出さなければならないことに。
「わたくしの望みは・・・ もう一度、村に・・・ ミロ村に帰りたいです・・・」
「よいだろう。聖女よ。 騎士魔王の名のもとにその望み叶えよう‼」
ノールは騎士魔王ヴァンノールの名において云い切った。リドレーの望みが叶うのはそう遠いことではあるまい。
だが、その前に。
ノールたちはアクアードブレスにより消し飛んだ酒の香気が再度立ち込める前に魔酔の森を抜け、妖精の城アルフヘイムに到達した。
4
妖精の城アルフヘイム。妖精王ヴンターガストの治める城にして、アクアマリンレイクを守る要害でもある。
アクアマリンレイクは魔界と人間界をつなぐ魔性の湖であり、人間界にも同じ湖が存在する。
アクアマリンレイクには水神アクアードの弟ファーヴニルが棲み、妖精たちは取って喰われることもあり魔族への恐怖心はひとしおのものだ。
そんなアルフヘイムに高位の魔族が踏み込んできたのだ。アルフヘイムは上へ下への大騒ぎになった。
慌てふためく妖精どもに目もくれず、ノールはまっすぐ城の奥へ向かった。
ほどなくして、アルフヘイムの中心部で妖精王ヴンターガストはノールの来訪を座したまま受け入れた。
天井まで届く巨大な木のうろがへこみ玉座となっており、そこには神経質そうな痩せた男が座っていた。
「これは騎士魔王殿。ようこそアルフヘイムへ」
大騒ぎする妖精どもの中にあってさすがに王者。落ち着いたものであった。
「ヴンターガスト。話が3つある」
ノールは挨拶もそこそこに云った。
「ほう・・・なんですかな?」
ヴンターガストは座したまま先を促した。
「貴様ら妖精は人間界と行き来するのにフェアリーホールというものを作り世界をつなぐらしいな」
「左様」
「この娘はそのフェアリーホールによって魔界に落ちたということだ。人間界に戻してもらおうか」
ノールがまずこの話題を持ち出したことにリドレーは目を見開いた。
ヴンターガストは頷き、嗤った。
「お優しいことで。 よいでしょう。それは我々の落ち度です。 で、2つ目は」
「貴様らレイクエルフの武器は魔界において名器と噂が高い。この騎士魔王にふさわしき武器はないか」
ヴンターガストはまた、何とも言えぬ厭な嗤い方をした。
「騎士魔王殿には、かの魔槍リヴァイトールがありましょう。リヴァイトールを超える武器は、さすがに湖の妖精としても持ちませぬ」
ヴンターガストはノールの体を見て、言葉をつないだ。
「まあ、その体ではかの魔槍は扱えますまいな。
湖の妖精最高の武器は、法剣『キャシュオーン』です。其は世の中すべての光を集めて放つ光輝の剣。騎士魔王殿には似合いますまい。
その次は、氷焔の姉妹剣『ハルモニア』と『シンフォニア』。とはいえ、細身の剣など騎士魔王の名折れでしょう。
そも、湖の妖精の武器は退魔の武器。魔王にふさわしいものではない。
3つ目のお話を当ててみましょうか。騎士魔王殿」
あざけるように嗤うヴンターガストに、ノールの眉が上がる。
「『魔酔の森での振る舞いは、この騎士魔王を敵に回すつもりか』・・・ ですな?」
ヴンターガストが立ち上がった。玉座の後ろから武器を持った妖精たちが続々と現れた。
「貴様は己を恃み過ぎるのだ。以前のヴァンノールならまだしも、今の貴様を恐れはせんわ。
わたしはこの時を待っていた! 妖精王ヴンターガストが騎士魔王ヴァンノールを討ち果たすのだ‼」
獅子吼とともにヴンターガストは腰の長剣を抜いた。それは妖精鋼で鍛えられた見事な長剣だった。
ヴンターガストは妖精とも思えぬ禍々しい妖力を全身にまとわせ、剣を持つ腕を斬り飛ばされた。
「なっ・・・ ぐわああああっ⁉」
何が起こったかわからずヴンターガストは斬り飛ばされた腕を抑えてうずくまった。
ノールは、中空に跳ね上がり落ちてきた妖精鋼の長剣を右手で受け、そのままヴンターガストのもう片腕を斬り飛ばした。
「ーーー!」
もはや言葉にもならぬ。うずくまったままノールをにらみつけるヴンターガストをノールは見下ろした。
「妖精王風情がこのヴァンノールをようも舐めたな」
「我が兵よ!」
ヴンターガストの号令一下、妖精たちは機械仕掛けのようにノールに向かって突撃した。
ヴンターガストはただ一人だけ逆方向に逃げ去った。
「待ちなさ・・・」
フォルネアは弓に矢を番え放ったが、ヴンターガストは玉座の後ろに身をかわした。
玉座の後ろからは妖精の兵が続々と現れた。
それを見れば玉座の裏に抜け道があることは明らかだった。
「騎士魔王様! 殺してはなりませぬ。ここは退きましょう!」
ラフアスは声を張り上げた。
「この者たちは正気ではありませぬ。討つのはヴンターガストだけでようございましょう!」
妖精の兵たちを棍棒で牽制しつつ、ラフアスは3人を背にかばって後退する。
ノールは妖精鋼の長剣を鞘に納めた。
「しんがりは任せたぞ。ラフアス!」
咆哮すると先陣切って玉座の間を入り口に向かって走り抜ける。フォルネア、リドレーと続き、しんがりはラフアスが務めた。
ノールは妖精どもを殺さぬ程度に殴りつけ活路を開くが、さすがにさばききれず囲まれていった。
「あちらへ回りましょう!」
フォルネアが横道を指す。そちらは王族の居住空間へ続く廊下だった。
しばらく走り、突き当たりの部屋の扉を蹴破った。
そこには、美しい妖精の娘が立ち尽くしていた。
ウェーブのかかった金髪、気の強そうな緑色の瞳、柳の葉のような長耳。湖の妖精らしい花々に彩られた水色のドレスに絶壁の胸を覆った美しい娘だった。
「ヴンターガストの娘だな」
「あなたは・・・騎士魔王様・・・? まさか! 父上‼」
妖精王の娘は胸元から黒曜石のナイフを取り出し思わずといったようにノールに襲い掛かった!
「騎士魔王様。ここは私にお任せを」
しんがりにいたラフアスは棍棒を振り上げ、ノールに肉薄する妖精王の娘に振り下ろした!
妖精王の娘は目を見開いたまま、全身を鮮血で染めた。
「父・・・上・・・?」
そう、鮮血は妖精王の娘のものではなかった。
どこからともなく現れた妖精王ヴンターガストは娘をかばうように覆いかぶさり、その頭蓋を砕かれ地面に斃れた。確かめるまでもなく即死だった。
「なぜ手を出した。ラフアス」
「このような娘を手にかけるのは騎士魔王様の名折れ。この腐怪ゴフダークの役目にございます」
ラフアスは棍棒についた血を振り払い、妖精王の娘の前に立った。
「泣き叫ばぬのだな。妖精王の娘セィラ」
妖精王の娘、セィラ=ヴュルム=フォン=デュアネルは黒曜石のナイフを床に投げ出し、両手を上げた。
「待ってください。騎士魔王様。あなたと取引がしたい」
「取引だと?」
「まず、私の命を保証してほしい。そうすれば妖精はあなたに手向かいませぬ」
「わしは、今貴様の父を殺したのだぞ」
「妖精王ヴンターガストは愚かでした。騎士魔王様にお手向かいした時点で、すでに死んでおりましたでしょう」
セィラは淡々と、とすら云える口調で答えた。
「騎士魔王様は父以外のものを殺しませんでした。 私は妖精王の娘として、騎士魔王様に感謝せねばなりません」
公私は別、というわけか。
「よかろう。話を聞こう。座を改めよ」
セィラの気丈さに感心しつつ、ノールは取引に応じた。
それから、セィラの命令により、湖の妖精は武装解除された。
玉座の間で感じたような違和感はなくなっており、ノールたちは客間に通され妖精のハーブティを供された。
しばらくして血まみれのドレスをひまわり色のドレスに着替えたセィラが現れた。
「お待たせいたしました。まず、騎士魔王様に刃を向けたことをお詫びします」
セィラは両膝をつき、額を地面につけた。
「妖精王ヴンターガストは騎士魔王様に剣を向け、その結果として死にました。もし剣を持って立ち向かわなければ、騎士魔王様はヴンターガストを討たなかったでしょう。すべては父の心得違いが起こしたことです。ただ、ひとつだけ釈明をさせて頂いてよろしいでしょうか」
ノールは黙ってうなずいた。
「ありがとうございます。父は、妬み強く欲深い男ではありましたが、そこまで愚かではありませんでした。
恥を偲んで申し上げますが、父は、今は空位の魔界南方守護の位をずっと狙っておりました。ですが、父の力ではとても及ばず・・・
そんな折に騎士魔王様が力を失われたとささやくものがありまして・・・ それから父は変わっていきました」
「何者だ」
「わかりません・・・ 鎧の騎士であったとしか・・・」
そこでセィラは顔を上げた。
「騎士魔王様。わたくしたちをお守りください。 そうすれば湖の妖精は騎士魔王様に恭順を誓います」
「騎士魔王様。私の意見をお聞きいただいてよろしいでしょうか」
セィラの言葉に、ラフアスが片膝をつき口を開いた。
ゴフダークの時のような襤褸を纏っているのではなく、白のドレスシャツに紫のベスト、同色のズボンを合わせ、髪こそまだざんばらだが、その鋭い刃のような美貌にその仕草はとても美しかった。
「聞こう」
「ありがとうございます。要するに、ヴンターガストは弱かったのです。
騎士魔王様、魔王神様、水神様のお三方に囲まれて、自分では身を守ることすらできぬ弱者。
特に、水神様の御領には近く生き残るために娘を水神様の弟君に嫁す約定をしたと聞きます。
己の身を守る力もなく、己を信じられぬものが、どうして他者の信を得られましょう。
今の湖の妖精は寄りかかる大樹を持たぬ蔓草なのです。どうか湖の妖精の大樹となり、かれらに安心をお与えください。
安心を得れば、かれらは必ずや信に足る存在となりましょう。
弱きものの気持ち、今の騎士魔王様なればお分かりいただけるのではないでしょうか」
ラフアスは口を閉ざした首を垂れたが、ノールは黙って考えていた。
ヴンターガストは確かに力のない王だった。どちらを向いても勝てぬ相手ばかりで、卑屈になるしかなかった。
その一人に勝てるかもしれない、そうささやかれれば挑みかかるのは不思議な話ではない。
以前のノールならば、勝てぬ相手ならば勝てる力をつければよい、と思っただろう。
だが、魔王神殿でサーヒの前に立った時、厳然たる事実としてサーヒは今は勝てぬ相手であることが分かった。
サーヒがその気であったならば、選べるのはふたつ。黙って討たれるかあがくかしかない。
同じ状況で少なくともヴンターガストはあがく方を選んだ。そして、その娘も父を殺されておきながら、騎士魔王に屈服し生き残る道を選んだ。力は弱いかもしれない。だが、心はどうか。弱いとは断じられまい。
「セィラ=ヴュルム=フォン=デュアネル。妖精王ヴンターガストの娘よ」
ノールは長考のうえ、口を開いた。
「はっ」と、セィラが頭を下げた。
「貴様にアルフヘイムを与える。騎士魔王ヴァンノール配下の新たな妖精王として妖精どもを統治せよ」
セィラは一瞬茫然としたが、すぐに額をこすりつけるように頭を下げた。
「あ・・・ ありがとうございます!」
そこに、ノールが
「ひとつ、頼みがある」
と続けた。
妖精城アルフヘイムは騎士魔王ヴァンノールの支配下に入ったが、王女が妖精王として即位し自治権は取り上げられなかった。
妖精たちは内心はともかく、戻った平和に安堵した。
妖精王セィラの命令によりフェアリーホールが作られリドレーは人間界に戻っていった。
騎士魔王ヴァンノールはアルフヘイムで手に入れた妖精鋼の剣に満足せず、さらなる業物を求め天水峡に踏み込む。
●ちなみにゴフダークがラフアスに戻った場面をスルーしてるのは仕様です(笑)。ノールからすれば本人が己を恥じてゴフダークと名乗ったところで本質はラフアスなのでどうでもいいし、フォルネアはノールの決定にそのまま従うので…。
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妖精のたくらみ用語集
湖の妖精(レイクエルフ)
本来的には魔族ではなく精霊。魔界にあってはか弱い存在だが退魔の武器を創造する。
フェアリーホール
いわゆる神隠し。この世界は多重世界と呼ばれており同座標の別の世界(魔界、精霊界、人間界など)へ転移する。
魔鎌(まけん)スライダー
十三の刻印のある魔界に伝わる伝説の大鎌。ユフラテに祀られている。
グリムリーパー
騎士魔王の近衛騎士隊。以後魔界において精鋭の代名詞となる。原作には登場しない。
魔酔いの森(まよいのもり)
か弱い妖精が身を守るために魔族に酩酊効果をもつ酒を醸造する森。森の中心から酒が湧き出る。
竜の聖書(りゅうのせいしょ)
清らかな乙女がこの書に深く祈ることで竜神が救いをもたらしてくれると言われる聖書。その実は――
アクアマリンレイク
清浄な湖であり天然のフェアリーホールでもある。朝靄に包まれると次元を越えるという伝説がある。
妖精王(ようせいおう)
レイクエルフを束ねる妖精の王。実力は中級魔族程度。
法剣(ほうけん)キャシュオーン
原作の主人公「救世英雄ナモル」の持つ光輝の剣。魔族特効。
南方守護(なんぽうしゅご)
かつては岩の巨人クラピズが務めていたが神魔大戦で死亡。今は謀者メルティクレスが担わなければいけない役割だが、彼は隠棲を理由に固辞し、創造主もそれを咎めない。
ノール一行は魔王神殿を出、東に進路を取っていた。東には水神アクアードの支配する天水峡、その手前には妖精の城アルフヘイムがある。
アルフヘイムに住む妖精は「湖の妖精」と呼ばれアクアマリンレイクの清浄な水を用いて武器を作ることで知られていた。
ノールはひとまずアルフヘイムに赴き、手になじむ武器がないかあたってみるつもりであった。
だが、アルフヘイムは遠い。湿原を抜けて先にある街で小休止、そして森を抜けてようやくたどり着く。
ノールたちは湿原で最初の野営をしていた。
火を焚き、食事をとり、小休止を取る。フォルネアは火のそばに腰を下ろし、両膝を抱えるように座っていた。
「もうよいのか」
顔を上げればノールが立っていた。
「はい。もう大丈夫です」
フォルネアは薄く微笑んでノールを見上げた。
「聖域が貴様の体に良くないことは分かっていたが、いささか配慮が足りなかったな」
ノールの言葉にフォルネアは目を丸くした。騎士魔王様がこんなお優しい言葉をかけて下さるなんて・・・?
ヴァンノールに仕えて初めてであるかもしれない。
騎士魔王様は寛大なお方だが、決してやさしいお方ではない。いつもならもっと強くなれ、そうおっしゃるのに。
ああ、お気を使わせてしまうなんて反省しなければ!
「云われてみればまだ苦しい気がします。騎士魔王様が今夜抱き枕になって下されば元気になるかもしれません!」
勢いよく両手を広げて云ったので二つのふくらみが大きく揺れた。
「たわけ」
ノールはフォルネアの無軌道をたしなめたがそのまま隣に座った。
「あの・・・?」
「今日はわしの失態だ。貴様の望みを叶えよう」
云われて、フォルネアの顔に真っ赤に血が上る。
「いえ! 申し訳ありません! 本気にしないでくださると・・・ 助かります・・・」
フォルネアは真っ赤になった顔を見られないようにうつむき、小さな声でつぶやいた。
内心、なんで断ったんだろう?という思いがかすめたが、それよりも今は顔を見られたくなかった。
「ならば、今日はもう休め」
ノールは立ち上がって云った。そのまま長剣を手にし暗闇に消えていった。日課の鍛錬に向かったのだろう。
そのノールをぼんやりと見送りながらフォルネアは熱の上った頬を両手で抑え、考えていた。
今までの騎士魔王様と、何か違う―
ツィグリス湿原は広大な湿原だ。通り抜けるだけでも何日もかかる。そのうえ、フレイスライムやローパーなど湿原の沼や藪に擬態して襲い掛かる魔物が多く、旅の難所として知られている。
しかしながら、かれらには関係のないことだった。今のノールや、ゴフダーク、フォルネアには下級の魔物など問題にならぬ。
襲い掛かってくるならば切り伏せ、踏みつぶすだけ。障害にすらならぬ。だがそれは、かれらにとっては、だ。
一切の歩みを止めず進み続ける彼らの耳に魂消るような悲鳴が届いた。
見ると、しばらく先にフレイスライムに襲われる娘の姿が見えた。
娘は必死に逃げようと抵抗するが、スライムの溶解液を浴び衣服はボロボロになり、肌は強酸に火傷したように変色していた。
「あの娘、ニンゲンのようです」
どうやら歩みの速度を変えずに進む3人の進路上にあの娘が喰われる現場がぶつかりそうだった。
「お助けになりますか?」
フォルネアは主の命令があれば臨戦態勢に入れるよう軽く矢に手を添えた。無論、命令がなければ矢は放たれることはない。
「スライムどもが騎士魔王の行く手をふさぐならば蹴散らすことになる」
淡々とノールは答えた。
その間娘は溶解液をさらに浴び肌は赤黒くまだらになり、もはや身を守るもの一つ身に着けていない有様であった。
フォルネアは主の意を受けてスライムに矢を放った。矢には魔力が載せてあり当たると同時にスライムは粉々にはじけ飛んだ。
ゴフダークは裂帛の気合とともにスライムを一撃粉砕し、もう一匹はノールが近づくだけでみなぎる魔力に灼かれ蒸発した。
娘は茫然と成り行きを見守っていたが、われに返って(大切なものなのだろう)手荷物を引き寄せると、大きく開いてしまっていた足を閉じてうずくまった。
その娘の前に、ノール、フォルネア、ゴフダークが立った。
娘はおびえた目をゴフダークに向けている。
「・・・ひどい姿です。この外套を羽織りなさい」
フォルネアは娘に肩で留めていた外套を外して投げ渡した。
娘は外套を受け取るとその体をくるみ、外套に残るフォルネアの体温に安心したのかポロポロと涙を流した。
「ありがとう・・・ ございます・・・」
それはまだ若い人間の娘だった。眉と肩で水平に切りそろえた白く輝く髪、黒目がちな大きな瞳。白い肌はあちこち焼けただれていたが、小柄で細い体はなだらかで美しい。
「あなた、ニンゲンですね。なぜこのようなところにいるのです?」
フォルネアが声をかけた。疑問はもっともでこのような娘がツィグリス湿原のこんな奥まで来ることはまず不可能だし、なによりニンゲンが魔界にいること自体がおかしい。
娘は、おずおずと口を開いた。
「私にも・・・ よくわかりません。 村の近くの森を歩いていたら、木の根に足を取られてしまい穴に落ちました。気が付いたらさっきのスライムたちに・・・」
云って娘はぶるぶると体を震わせた。
「フェアリーホールね・・・ 騎士魔王様、たまにあるんです。妖精たちが魔界と人間界を行き来するのにフェアリーホールを作るんですけど、入り口を始末しないで開けっ放しにしておいたり・・・」
「あの・・・ ここはどこなんでしょう・・・?」
娘が至極当然の疑問をやっと口に出した。
「ここは魔界。魔王の支配する大地だ」
ノールの答えに、娘は茫然とした。
「魔界・・・ なんで・・・」
「娘。貴様は妖精どもの不始末に巻き込まれただけのようだな。貴様が望めば、妖精どもの住処まで同道を許そう」
「あの・・・ いいんでしょうか・・・?」
ノールの言葉におずおずと問い返す娘に、あえてフォルネアは少し棘のある言葉をかぶせた。
「断ればここで死ぬだけです。湿原にはフレイスライムだけでなく、ローパーやオークもいますし、みんな湿ったところや柔らかいお肉が大好きですから」
「ヒッ・・・」
さっきの恐怖がよみがえったのか、娘は青い顔をしてガタガタ震えだした。
「どうする」
ノールが問いを重ねる。
「よ・・・ よろしくお願いいたします。わたくしリドレーと申します。あなた様はどうお呼びすればよろしいでしょうか・・・?」
おずおずと答えるリドレーにノールは触れ、魔力を放出した。赤黒く変色していた肌がみるみるなめらかな輝きを取り戻した。
「わしの名はノールだ。好きに呼べ」
リドレーは己の傷が一瞬で癒えたことに驚きと恐怖を感じながら答えた。
「では、ノール様と・・・」
「・・・気やすいです。騎士魔王様とお呼びなさい。私だってノール様なんてお呼びしたこと無いのに」
どこかすねたようにフォルネアは訂正した。
リドレーはノールとフォルネアをそれぞれ見て途方に暮れたような顔をした。
ノールはそんなフォルネアに向き直った。
「フォルネア、貴様も好きに呼べばよいのだぞ」
「・・・ノール君や、ノールちゃんでも?」
「構わぬ」
ノールから視線をそらし、髪先をいじりながら唇を尖らせ云うフォルネアに、ノールは明快に答えた。
その答えにフォルネアは花がほころぶように微笑んだ。
「嬉しいですけど、やめておきます。 私は、騎士魔王様にお仕えできる。それだけで幸せなのですから・・・ それ以上は望みません」
リドレーを助け気遣うような様子に思わず湧き上がっていたイライラがすっと溶けていくような感じがした。
2
妖精の城アルフヘイムはまだ遠く、湿原を越えたノールたちは途中ユフラテの街で休息をとることにした。
ひとまず素肌を外套一枚で隠している状態のリドレーに服を購い、食料と水の補給を行う。街の最奥に差し掛かった時異様な魔力を感知し、いざなわれるように教会のような建物に立ち入った。
そこに祀られていたのは一本の大鎌であった。
この鎌こそ、かつて魔界最高の武器職人メルヒオールが鍛え上げた魔器で銘を「スライダー」という。
威力は魔界に現存する伝説の武器の中でも屈指、その分扱うのが難しく並の魔力では触れることもままならぬ。
そんな「スライダー」をノールは無造作に手に取った。そして、目にも止まらぬ速度で縦横に操った。
「スライダー」も応えるように輝く。銀一色の鎌だが精緻な細工が施されてい、刀身にきざまれた十三の文字は魔力を込めるとそれぞれ幻想的に輝く。ノールがその気になれば「スライダー」の威力を十全に引き出すことが出来よう。
騎士魔王のあまりの戦技にフォルネアは思わず見惚れた
「出てくるがよい」
ノールは「スライダー」を台座に戻し、裏口の扉の影に隠れる何者かに声をかけた。
ゴフダークがノールたちを守るように一歩前に出たがノールは手でそれを制した。
ほどなく扉が開き、現れたのは一人の少女騎士だった。
まだ幼いといっていい顔立ちで、菫色がかった銀髪を赤珊瑚の髪留めでツインテールに結わえ、意志の強そうに輝く金色の瞳。桜色の唇と頬。小柄で細い体を包むのはぴったりとした薄金の鎧に、腰には小剣を佩いている。下半身は白い革の脚絆に獣革の具足を身に着けている。
まだまだ幼いがそれなりの修練を積んでいるのは分かる。
扉の前で少女騎士は片膝を立てて跪いた。
「お会いできて光栄です!」
「わしがわかるのか」
「はい。騎士の名を持つものであなた様を見違うものはおりませぬ。失礼ながら騎士魔王様の戦技、扉の裏から拝見させていただきました!」
云って、少女騎士はまっすぐ顔を上げた。
その眼は騎士魔王とはじめて邂逅する喜びに爛々と輝き、「スライダー」を難なく扱って見せた騎士魔王の戦技の、その一切を見逃すまいという姿勢。この小娘は強くなる。騎士魔王をしてそう思わせた。
「今まで誰も気づかなかったですけどね」
フォルネアがぽそっと云うのへ、少女騎士は困惑したように「まさかそんな・・・」とつぶやいた。
「名を聞こうか」
ノールが少女騎士に名乗りを許した。少女騎士はぱあっと顔を輝かせた。
「わたくしはブーケファルスと申します! 騎士魔王様にお会いでき、光栄です!」
少女騎士、ブーケファルスはそう云って再度頭を垂れた。
「立て。こちらへ参れ」
「はいっ」
ノールの許可を得てブーケファルスはノールの近くまで来、再び跪いた。
「して、騎士魔王様はなぜユフラテに参られたのでしょうか」
「さて、この<鎌>の魔力に呼ばれたのかもしれぬ」
云って、ノールは台座に納めた「スライダー」を見た。
「貴様はどうなのだ。かの「スライダー」、我が手にしたいとは思わぬのか」
ノールはまっすぐブーケファルスの眼を見た。
この少女にしては珍しく、わずかに視線をそらし恥じ入るようにうつむく。
「それは・・・ いつか扱ってみたいとは憧れますが・・・」
「スライダー」は私には応えてくれません、と小さな声でつぶやいた。
それを見れば、ブーケファルスが「スライダー」を我が手にせんと挑み続けていることが分かった。
ノールの見たところ、鍛錬を続ければ「スライダー」が応える日もそう遠くはあるまい。
「いいだろう。騎士魔王の名のもとに、「スライダー」を貴様に賜わす。わしが呼んだら「スライダー」を手に馳せ参じよ」
それまでに扱えるようになっておけ、という意味を込めてノールは「スライダー」を手に取りブーケファルスに差し出した。
「騎士魔王様・・・ それではわたくしをあなた様の麾下に・・・⁉」
ブーケファルスは感動で涙でにじんだ目で茫然とつぶやく。
「励めよ。騎士ブーケファルス。わしは常々貴様のような騎士を揃え、近衛騎士隊を創りたいと思っていたのだ。
貴様は我が近衛騎士『グリムリーパー』の最初の一人だ」
ブーケファルスは跪いて両手で支えるように「スライダー」を押戴いた。
腕にかかるスライダーの重みにブーケファルスの胸が熱くなって行く。いつしかブーケファルスはその大きな金色の瞳からとめどなく涙を流していた。
「グリム・・・リーパー・・・ うれしゅう・・・ ございます・・・」
ノールはそんなブーケファルスに深く頷いた。
「では、わしは行く。グリムリーパーの名を汚すまいぞ」
ノールはもう振り返らず教会を後にする。ブーケファルスは「スライダー」を押戴いたまま両膝をついて平伏していた。
「騎士魔王様、最近お優しすぎますね」
教会を出て開口一番、フォルネアがそう言った。
ヴァンパレスにおいては、騎士魔王ヴァンノールに軽口を叩いたり体に触れたりできるのは自分だけだった自負がフォルネアにはある。
だが、騎士魔王ヴァンノールは美少年ノールとなり、ゴフダークに慈悲を与え(まあ、それはいいとしても)、リドレーを救い、今日はまたブーケファルスに目をかけた。
フォルネアとしては何か面白くない。どうももやもやむかむかする。
「そう思うか」
いつものように鷹揚にノールが応えた。
「はい。ゴフダーク様の事もそうでした。それに、リドレーのことも、今の騎士のことも。騎士魔王様はまな板がお好きなのですね。
お胸が理由でないとしたら、まさかお力を失われたことで気弱になっておられるのでは?」
「フォルネア、コトバガスギヨウゾ」
あんまりな言葉にさすがにゴフダークがフォルネアをいさめる。
「よい」
ノールは気にした風もなく歩いて行った。
フォルネアは胸の前で右のこぶしを左で覆うように握って、そのノールの姿を目で追った。
(騎士魔王様・・・黒くて、逞しくて大きなおかた・・・ 私は、あなた様がもっと猛々しくそそり立つ凶暴なお姿をまた見たいのです・・・)
腕のひと薙ぎで幾多の敵を屠り、豪槍の突撃で破れぬ守りはない。暴風のごとき騎士魔王の圧倒的な力が思い起こされる。戦場の騎士魔王には慈悲などなく、敵対する者にはただ圧倒的な絶望だけがそこにあった。
「フォルネア」
「はっ・・・ はひ!」
騎士魔王の暴虐に思いを馳せていたフォルネアは声をかけられ思わず声が裏返る。
「アクアマリンレイクは東だったな」
「はい。まだしばらくありますが、東南東に」
「久々に妖精王の顔でも見てやろう。道行きは任す。案内せよ」
「はい!」
騎士魔王ヴァンノールの口調そのままで、舌っ足らずな声でいうノールに頬が緩んでしまう。
(うーん・・・狂暴もいいですけど、これはこれでやっぱり可愛いです・・・ 困っちゃいますね)
いつの間にか上機嫌に戻っていたフォルネアは自分のことながら単純だな、と思いつつその日一日ご機嫌だった。
3
「なにか・・・ 甘いにおい・・・」
ユフラテから東には大森林が広がっていた。アルフヘイムはこの大森林と、アクアマリンレイクと呼ばれる清浄な湖に守られている。
妖精の城を守る森がただの森であるわけもなく魔族を惑わせる仕掛けがあり、フォルネアが嗅ぎとった甘いにおいがまさにそれだった。
「ゴフッ。ヤスザケノヨウダナ・・・」
ゴフダークも妖精の酒の甘いにおいを嗅ぎとったようだった。
「お酒・・・ですか・・・? わたしは感じませんけど・・・」
リドレーが小首をかしげた。
「ここは魔酔の森と云い、妖精どもが魔族を寄せ付けぬよう妖力を込めた酒を造っているのだ」
「こどもにお酒はダメですっ!」
ケラケラ笑いながらフォルネアがノールにからみつく。その頬はすでにすっかり朱くなっている。
「征くぞ。あまり吸い込むな」
とはいえ、魔酔の森は広く深い。口元を外套やハンカチで覆いながら森を進むが、酒の香気は強くなるばかりだ。
フォルネアは茹で上がったように赤い顔をして、ゴフダークは顔をしかめて首を振りながら歩く。ノールもさすがに無影響というわけには行かず、少し顔を紅潮させていた。リドレーだけが素面で、フォルネアを支えながら歩いていた。
しばらく歩いて、急に視界が開けた。
「ここは・・・」
魔酔の森のちょうど中ほど、妖精の酒の醸造所である酒の沸き立つ泉だった。
「ふにゃー・・・」
フォルネアはもう目の焦点も合わず千鳥足だ。
「さすがに香気が強すぎるな。ここは早く抜けた方がよい」
リドレーだけは分からず(ただのきれいな泉では?)と云った不思議そうな顔をしながら、手荷物から水の入った革袋をフォルネアに差し出した。フォルネアは受け取って一口二口飲んだ。
「ゴフッ!」
ゴフダークが獅子吼とともに棍棒を薙ぎ払った。
「ぎゃあ!」
何もない空間から悲鳴が上がり棍棒に跳ね飛ばされた妖精が泉に落ちた。
気が付けば、かれらは数え切れぬ妖精に囲まれていた。
「魔族がこの森で何をしている!」
「妖精の酒を盗みに来たのか!」
「目にもの見せてやろう!」
口々にののしりながら詠唱を始める。
詠唱は魔法となり、数え切れぬ風の刃が一斉にノールたちを襲った。
「小癪な妖精風情が‼」
ノールが吼えると妖精の生み出した風の刃はすべて吹き散らされて消える。
だが、急に大声を出したせいか酒の酔いが回りノールは片膝をついた。
「おのれ・・・」
「「「魔の者! 死すべし」」」
妖精たちが一斉に声を上げた。
刹那、リドレーがノールをかばうように両手を広げて立った。
「ダメです! このおかたはあなたたちの敵ではありません! どうかひどいことをしないでください! わたしたちはお城に行きたいだけです!」
「「「アルフヘイムに⁉」」」
「「「それはならぬ!」」」
「「「魔族は妖精を滅ぼすつもりだろう!」」」
「「「妖精王はお怒りだ! 魔の者!死すべし!」」」
風の刃がリドレーを襲う! リドレーは両手を広げたまま立ちはだかるが、風の刃はリドレーを切り裂き蹂躙する。
「リドレー。前に出るな」
ノールがリドレーを背にかばおうとしたが、リドレーはふるふる首を振って、手荷物から何か取り出した。
それは、革で装丁された重厚な本だった。表紙には竜が刻印されていた。リドレーは本を開き一心に祈りをささげる。
「大いなる力をもつ竜神様・・・ この書に宿りわたしに力を・・・!」
リドレーの祈りにこたえるように竜の聖書に水の力が宿り魔酔の力をかき消していく。
「「「まさか・・・」」」
書に宿った水の力は、堰を切ったように逆流する!
「水神の息吹よ!」
リドレーが叫んだ!
途端、竜の聖書から清浄な水が湧き上がり竜を象る。水で形成された幾百の竜は水の刃となりかれらを囲む妖精を斬り飛ばしていく。
逃げる者もいたがとても逃げ切れず水の竜のあぎとはすべての妖精を巻き込み肉塊に変えて消滅した。
それを見届けて、リドレーは気を失ったように倒れこむが、地面にたたきつけられる寸前ノールがそれを支えた。
リドレーの顔は土気色で、激しく肩で息をしている。
「今のは・・・ アクアードブレス・・・! リドレー! 今の力は・・・ いや、その書の力だな」
ノールの言葉にリドレーは喘ぎ喘ぎ言葉を紡ぐ。体からは完全に力が抜けており目を開くこともできない様子だ。
「はい・・・ わたしは・・・ この聖書に魂を宿すことで・・・ 竜神様のお力を借りることが・・・ できるのです・・・」
ノールはリドレーの手を握り魔力を放出した。
リドレーの顔色が戻りノールの腕に、氷の様だったリドレーの体温が上がってきたのが感じられた。
「二度とやるな。その書は聖書などではない。貴様の魂など、その書にかかってはわずか数回で食らいつくされよう」
ノールは顔を上げてアクアマリンレイクの遥か東、天水峡の方角に視線を向けた。
「わしは、今の力を知っておる。その書の力の源は聖水雷の複属性を持つ水神よ。貴様の手には余る」
ノールの脳裏に、一人の男の姿がよぎる。
流れる水のような長髪に、白い肌、朱い瞳の細面の美丈夫。穏やかな言葉で人を破滅させ嗤うその姿。どこまでも酷薄で、他者など己の快楽でしかないというような。武人であるノールとは相容れぬが、五大魔王…偉大なる創造主麾下の五下僕の一柱で、間違いなく魔界最強の漢の一人。
水神アクアード―
云われてみればこの書はいかにもアクアードらしい。敬虔な聖女に己の呪書を聖書だと思い込ませ、その命を救う代わりに魂を食らう。聖女は何に祈りを捧げているのか理解せずに、やがて魂を食らいつくされ命を落とす。そして、命を落としてなお聖女は悪魔に祈りを捧げていたことに気づかない。その姿を見て、この悪魔は冷笑するのだ。
ノールは苦虫をかみつぶしたような顔をする。そんなノールをリドレーは心配そうに見上げた。
ノールはその視線に気が付き、軽く頷いた。
「だが、リドレーよ。今回は貴様に助けられたな。褒美に貴様の望みを一つ叶えよう。何を望む」
リドレーは驚きに目を見開いた。
「そんな・・・ いつも助けられているのはわたくしです・・・ あなた様がいて下さらなくては、わたくしはもう・・・」
リドレーは小さな体を震わせた。そして、リドレーはノールの眼を見て気づいた。何か望みを口に出さなければならないことに。
「わたくしの望みは・・・ もう一度、村に・・・ ミロ村に帰りたいです・・・」
「よいだろう。聖女よ。 騎士魔王の名のもとにその望み叶えよう‼」
ノールは騎士魔王ヴァンノールの名において云い切った。リドレーの望みが叶うのはそう遠いことではあるまい。
だが、その前に。
ノールたちはアクアードブレスにより消し飛んだ酒の香気が再度立ち込める前に魔酔の森を抜け、妖精の城アルフヘイムに到達した。
4
妖精の城アルフヘイム。妖精王ヴンターガストの治める城にして、アクアマリンレイクを守る要害でもある。
アクアマリンレイクは魔界と人間界をつなぐ魔性の湖であり、人間界にも同じ湖が存在する。
アクアマリンレイクには水神アクアードの弟ファーヴニルが棲み、妖精たちは取って喰われることもあり魔族への恐怖心はひとしおのものだ。
そんなアルフヘイムに高位の魔族が踏み込んできたのだ。アルフヘイムは上へ下への大騒ぎになった。
慌てふためく妖精どもに目もくれず、ノールはまっすぐ城の奥へ向かった。
ほどなくして、アルフヘイムの中心部で妖精王ヴンターガストはノールの来訪を座したまま受け入れた。
天井まで届く巨大な木のうろがへこみ玉座となっており、そこには神経質そうな痩せた男が座っていた。
「これは騎士魔王殿。ようこそアルフヘイムへ」
大騒ぎする妖精どもの中にあってさすがに王者。落ち着いたものであった。
「ヴンターガスト。話が3つある」
ノールは挨拶もそこそこに云った。
「ほう・・・なんですかな?」
ヴンターガストは座したまま先を促した。
「貴様ら妖精は人間界と行き来するのにフェアリーホールというものを作り世界をつなぐらしいな」
「左様」
「この娘はそのフェアリーホールによって魔界に落ちたということだ。人間界に戻してもらおうか」
ノールがまずこの話題を持ち出したことにリドレーは目を見開いた。
ヴンターガストは頷き、嗤った。
「お優しいことで。 よいでしょう。それは我々の落ち度です。 で、2つ目は」
「貴様らレイクエルフの武器は魔界において名器と噂が高い。この騎士魔王にふさわしき武器はないか」
ヴンターガストはまた、何とも言えぬ厭な嗤い方をした。
「騎士魔王殿には、かの魔槍リヴァイトールがありましょう。リヴァイトールを超える武器は、さすがに湖の妖精としても持ちませぬ」
ヴンターガストはノールの体を見て、言葉をつないだ。
「まあ、その体ではかの魔槍は扱えますまいな。
湖の妖精最高の武器は、法剣『キャシュオーン』です。其は世の中すべての光を集めて放つ光輝の剣。騎士魔王殿には似合いますまい。
その次は、氷焔の姉妹剣『ハルモニア』と『シンフォニア』。とはいえ、細身の剣など騎士魔王の名折れでしょう。
そも、湖の妖精の武器は退魔の武器。魔王にふさわしいものではない。
3つ目のお話を当ててみましょうか。騎士魔王殿」
あざけるように嗤うヴンターガストに、ノールの眉が上がる。
「『魔酔の森での振る舞いは、この騎士魔王を敵に回すつもりか』・・・ ですな?」
ヴンターガストが立ち上がった。玉座の後ろから武器を持った妖精たちが続々と現れた。
「貴様は己を恃み過ぎるのだ。以前のヴァンノールならまだしも、今の貴様を恐れはせんわ。
わたしはこの時を待っていた! 妖精王ヴンターガストが騎士魔王ヴァンノールを討ち果たすのだ‼」
獅子吼とともにヴンターガストは腰の長剣を抜いた。それは妖精鋼で鍛えられた見事な長剣だった。
ヴンターガストは妖精とも思えぬ禍々しい妖力を全身にまとわせ、剣を持つ腕を斬り飛ばされた。
「なっ・・・ ぐわああああっ⁉」
何が起こったかわからずヴンターガストは斬り飛ばされた腕を抑えてうずくまった。
ノールは、中空に跳ね上がり落ちてきた妖精鋼の長剣を右手で受け、そのままヴンターガストのもう片腕を斬り飛ばした。
「ーーー!」
もはや言葉にもならぬ。うずくまったままノールをにらみつけるヴンターガストをノールは見下ろした。
「妖精王風情がこのヴァンノールをようも舐めたな」
「我が兵よ!」
ヴンターガストの号令一下、妖精たちは機械仕掛けのようにノールに向かって突撃した。
ヴンターガストはただ一人だけ逆方向に逃げ去った。
「待ちなさ・・・」
フォルネアは弓に矢を番え放ったが、ヴンターガストは玉座の後ろに身をかわした。
玉座の後ろからは妖精の兵が続々と現れた。
それを見れば玉座の裏に抜け道があることは明らかだった。
「騎士魔王様! 殺してはなりませぬ。ここは退きましょう!」
ラフアスは声を張り上げた。
「この者たちは正気ではありませぬ。討つのはヴンターガストだけでようございましょう!」
妖精の兵たちを棍棒で牽制しつつ、ラフアスは3人を背にかばって後退する。
ノールは妖精鋼の長剣を鞘に納めた。
「しんがりは任せたぞ。ラフアス!」
咆哮すると先陣切って玉座の間を入り口に向かって走り抜ける。フォルネア、リドレーと続き、しんがりはラフアスが務めた。
ノールは妖精どもを殺さぬ程度に殴りつけ活路を開くが、さすがにさばききれず囲まれていった。
「あちらへ回りましょう!」
フォルネアが横道を指す。そちらは王族の居住空間へ続く廊下だった。
しばらく走り、突き当たりの部屋の扉を蹴破った。
そこには、美しい妖精の娘が立ち尽くしていた。
ウェーブのかかった金髪、気の強そうな緑色の瞳、柳の葉のような長耳。湖の妖精らしい花々に彩られた水色のドレスに絶壁の胸を覆った美しい娘だった。
「ヴンターガストの娘だな」
「あなたは・・・騎士魔王様・・・? まさか! 父上‼」
妖精王の娘は胸元から黒曜石のナイフを取り出し思わずといったようにノールに襲い掛かった!
「騎士魔王様。ここは私にお任せを」
しんがりにいたラフアスは棍棒を振り上げ、ノールに肉薄する妖精王の娘に振り下ろした!
妖精王の娘は目を見開いたまま、全身を鮮血で染めた。
「父・・・上・・・?」
そう、鮮血は妖精王の娘のものではなかった。
どこからともなく現れた妖精王ヴンターガストは娘をかばうように覆いかぶさり、その頭蓋を砕かれ地面に斃れた。確かめるまでもなく即死だった。
「なぜ手を出した。ラフアス」
「このような娘を手にかけるのは騎士魔王様の名折れ。この腐怪ゴフダークの役目にございます」
ラフアスは棍棒についた血を振り払い、妖精王の娘の前に立った。
「泣き叫ばぬのだな。妖精王の娘セィラ」
妖精王の娘、セィラ=ヴュルム=フォン=デュアネルは黒曜石のナイフを床に投げ出し、両手を上げた。
「待ってください。騎士魔王様。あなたと取引がしたい」
「取引だと?」
「まず、私の命を保証してほしい。そうすれば妖精はあなたに手向かいませぬ」
「わしは、今貴様の父を殺したのだぞ」
「妖精王ヴンターガストは愚かでした。騎士魔王様にお手向かいした時点で、すでに死んでおりましたでしょう」
セィラは淡々と、とすら云える口調で答えた。
「騎士魔王様は父以外のものを殺しませんでした。 私は妖精王の娘として、騎士魔王様に感謝せねばなりません」
公私は別、というわけか。
「よかろう。話を聞こう。座を改めよ」
セィラの気丈さに感心しつつ、ノールは取引に応じた。
それから、セィラの命令により、湖の妖精は武装解除された。
玉座の間で感じたような違和感はなくなっており、ノールたちは客間に通され妖精のハーブティを供された。
しばらくして血まみれのドレスをひまわり色のドレスに着替えたセィラが現れた。
「お待たせいたしました。まず、騎士魔王様に刃を向けたことをお詫びします」
セィラは両膝をつき、額を地面につけた。
「妖精王ヴンターガストは騎士魔王様に剣を向け、その結果として死にました。もし剣を持って立ち向かわなければ、騎士魔王様はヴンターガストを討たなかったでしょう。すべては父の心得違いが起こしたことです。ただ、ひとつだけ釈明をさせて頂いてよろしいでしょうか」
ノールは黙ってうなずいた。
「ありがとうございます。父は、妬み強く欲深い男ではありましたが、そこまで愚かではありませんでした。
恥を偲んで申し上げますが、父は、今は空位の魔界南方守護の位をずっと狙っておりました。ですが、父の力ではとても及ばず・・・
そんな折に騎士魔王様が力を失われたとささやくものがありまして・・・ それから父は変わっていきました」
「何者だ」
「わかりません・・・ 鎧の騎士であったとしか・・・」
そこでセィラは顔を上げた。
「騎士魔王様。わたくしたちをお守りください。 そうすれば湖の妖精は騎士魔王様に恭順を誓います」
「騎士魔王様。私の意見をお聞きいただいてよろしいでしょうか」
セィラの言葉に、ラフアスが片膝をつき口を開いた。
ゴフダークの時のような襤褸を纏っているのではなく、白のドレスシャツに紫のベスト、同色のズボンを合わせ、髪こそまだざんばらだが、その鋭い刃のような美貌にその仕草はとても美しかった。
「聞こう」
「ありがとうございます。要するに、ヴンターガストは弱かったのです。
騎士魔王様、魔王神様、水神様のお三方に囲まれて、自分では身を守ることすらできぬ弱者。
特に、水神様の御領には近く生き残るために娘を水神様の弟君に嫁す約定をしたと聞きます。
己の身を守る力もなく、己を信じられぬものが、どうして他者の信を得られましょう。
今の湖の妖精は寄りかかる大樹を持たぬ蔓草なのです。どうか湖の妖精の大樹となり、かれらに安心をお与えください。
安心を得れば、かれらは必ずや信に足る存在となりましょう。
弱きものの気持ち、今の騎士魔王様なればお分かりいただけるのではないでしょうか」
ラフアスは口を閉ざした首を垂れたが、ノールは黙って考えていた。
ヴンターガストは確かに力のない王だった。どちらを向いても勝てぬ相手ばかりで、卑屈になるしかなかった。
その一人に勝てるかもしれない、そうささやかれれば挑みかかるのは不思議な話ではない。
以前のノールならば、勝てぬ相手ならば勝てる力をつければよい、と思っただろう。
だが、魔王神殿でサーヒの前に立った時、厳然たる事実としてサーヒは今は勝てぬ相手であることが分かった。
サーヒがその気であったならば、選べるのはふたつ。黙って討たれるかあがくかしかない。
同じ状況で少なくともヴンターガストはあがく方を選んだ。そして、その娘も父を殺されておきながら、騎士魔王に屈服し生き残る道を選んだ。力は弱いかもしれない。だが、心はどうか。弱いとは断じられまい。
「セィラ=ヴュルム=フォン=デュアネル。妖精王ヴンターガストの娘よ」
ノールは長考のうえ、口を開いた。
「はっ」と、セィラが頭を下げた。
「貴様にアルフヘイムを与える。騎士魔王ヴァンノール配下の新たな妖精王として妖精どもを統治せよ」
セィラは一瞬茫然としたが、すぐに額をこすりつけるように頭を下げた。
「あ・・・ ありがとうございます!」
そこに、ノールが
「ひとつ、頼みがある」
と続けた。
妖精城アルフヘイムは騎士魔王ヴァンノールの支配下に入ったが、王女が妖精王として即位し自治権は取り上げられなかった。
妖精たちは内心はともかく、戻った平和に安堵した。
妖精王セィラの命令によりフェアリーホールが作られリドレーは人間界に戻っていった。
騎士魔王ヴァンノールはアルフヘイムで手に入れた妖精鋼の剣に満足せず、さらなる業物を求め天水峡に踏み込む。
●ちなみにゴフダークがラフアスに戻った場面をスルーしてるのは仕様です(笑)。ノールからすれば本人が己を恥じてゴフダークと名乗ったところで本質はラフアスなのでどうでもいいし、フォルネアはノールの決定にそのまま従うので…。
===
妖精のたくらみ用語集
湖の妖精(レイクエルフ)
本来的には魔族ではなく精霊。魔界にあってはか弱い存在だが退魔の武器を創造する。
フェアリーホール
いわゆる神隠し。この世界は多重世界と呼ばれており同座標の別の世界(魔界、精霊界、人間界など)へ転移する。
魔鎌(まけん)スライダー
十三の刻印のある魔界に伝わる伝説の大鎌。ユフラテに祀られている。
グリムリーパー
騎士魔王の近衛騎士隊。以後魔界において精鋭の代名詞となる。原作には登場しない。
魔酔いの森(まよいのもり)
か弱い妖精が身を守るために魔族に酩酊効果をもつ酒を醸造する森。森の中心から酒が湧き出る。
竜の聖書(りゅうのせいしょ)
清らかな乙女がこの書に深く祈ることで竜神が救いをもたらしてくれると言われる聖書。その実は――
アクアマリンレイク
清浄な湖であり天然のフェアリーホールでもある。朝靄に包まれると次元を越えるという伝説がある。
妖精王(ようせいおう)
レイクエルフを束ねる妖精の王。実力は中級魔族程度。
法剣(ほうけん)キャシュオーン
原作の主人公「救世英雄ナモル」の持つ光輝の剣。魔族特効。
南方守護(なんぽうしゅご)
かつては岩の巨人クラピズが務めていたが神魔大戦で死亡。今は謀者メルティクレスが担わなければいけない役割だが、彼は隠棲を理由に固辞し、創造主もそれを咎めない。
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