Drown in honey

古森日生

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重なる想い

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「ゆーこちゃん、来ちゃってごめんね…」
「エリ…」

なんでここに?
どうやって?

混乱する夕子に江梨香は飛びついた。
「ごめんね。もう話してなんて言わないから」
江梨香は夕子の体をぎゅうぎゅう抱きしめる。
「ゆーこちゃんと、けんかするのやだ…」

江梨香の言葉に夕子は目を瞠る。
視線を向けると、潤んだ瞳で江梨香がまっすぐ見上げている。

(これがうわべだけ…?)

――もしかして自分は、とんでもない思い違いをしているのではないか?

視線と抱きしめられた腕からは、夕子を心配する江梨香の想いが伝わってくる。
それが、とても暖かくて。

夕子もおずおずと江梨香の背中に手を回す。
江梨香は一瞬驚いたように身をふるわせると嬉しそうに胸元に頬を擦りつけた。
火傷が擦れて痛いがそれ以上に心地よくもある不思議な感覚。

「アタシこそ、ごめん。全部話すから…」

夕子の言葉に顔を上げた江梨香はほっとしたように、嬉しそうに微笑んだ。


「えぇ…? そんなのゆーこちゃん何も悪くないじゃない!」
ひととおり話を聞いて、江梨香は思わず立ち上がった。
「ええ?」
「だって、付き合ってみたけど好きになれなかっただけでしょ!? よくあることだよ!」
言い放たれて夕子は絶句した。
今までずっと悩んでいたことが江梨香の前ではよくある悩みになってしまう。

「だって、好きってこういうことだよ?」
言いながら江梨香は夕子の手を取って自分の心臓に当てた。
夕子のてのひらがふかり、と江梨香の胸に沈み込む。
その奥で。

トクントクントクントクン…

江梨香の鼓動を直に感じる。
――それは、驚くほど早くて。

夕子が驚いて江梨香の顔を見ると、自分で触れさせたのに江梨香の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「エリ…」
「…わかった?」
潤んだ瞳で江梨香が見上げる。
「ゆーこちゃん、こういう気持ちになったこと、ある…?」
ふるふると首を振る夕子。
「じゃあ…」

(一緒に…)

江梨香の唇が近づく。
夕子が目を瞠っているとそのまま唇が触れ合う。

ちゅっ…、ちゅっ…

ついばむように何度も唇を重ねられる。やわらかな感触に浸っていると、ふいに尖った舌先で唇をなぞられる。
「…ッ」
驚いて小さく唇を開くと、ぬるりと舌が入ってくる。
江梨香の尖った舌先が夕子の舌を撫でるように触れる。
「ゆーこちゃん。舌、出して…」
言われるままにおずおずと夕子が舌を出すと江梨香がついばむように唇で包み込む。
そのまま舌を舌先でなぞられて夕子の頭がしびれる。
「ゆーこちゃん、かわいい…」
江梨香のてのひらが夕子のブラウスの中を探る。

トクントクントクントクン…

「ほら、ゆーこちゃんもすごくドキドキしてる」
言いながら江梨香はもう一度唇を重ねた。
江梨香の指先が夕子のブラウスのボタンを外す。
そのままブラウスを抜き取った江梨香は夕子をそのままソファに押し倒した。

「ゆーこちゃん…」
江梨香の視線が夕子の体を這い回る。
恥ずかしさに胸元を隠すように身を縮めてしまう夕子の瞼に江梨香はやさしくキスを落とす。
「見せて…」
江梨香の言葉に、夕子はおずおずと両手を下ろした。

全身に江梨香の視線を感じる。
夕子は顔だけじゃなくて全身を羞恥に染めている。
ぷちんとホックを外す音がして、ふるりと夕子の胸があらわになると夕子の果実は刺激を待ちわびるかのようにツンと主張していた。
「だめ。隠さないで」
叱るように言われた夕子は胸元に上げかけた手を戻してソファを握りこむ。

恥ずかしさに夕子が震え、思わず瞼を閉じた時江梨香が軽く息を呑むような気配がした。
「ゆーこちゃん…」
さっきまでと違う、少し低いつぶやきに夕子はうっすら眼を開ける。
江梨香が、また泣きそうな目で夕子の体を見つめている。
細い指先が火傷それに触れる。
「あッ…」
痛みに夕子は身を縮める。
同時に、江梨香がどうしてそんな目をしたのか理解した。
「…今日、体を見られるとは思ってなかったからさ。…ヤなもの見せてごめん」

夕子の体には、胸元から下腹にかけていくつもの傷跡があった。
切り傷や刺し傷、火傷跡…。どれも小さなものではあるのだが夕子の白い肌から浮き上がるように刻まれている。
いつも肌が露出するような時にはファンデーションで隠しているのだが、今日は一切隠していない素の傷跡が見える。

江梨香は夕子の上に覆いかぶさるような姿勢となり、おなかのみみず腫れに舌を添わせる。
「んッ…」
江梨香はそのまま、ピクリと身を震わせる夕子のおなかに頬ずりする。
「驚いちゃってごめんね」
江梨香はおなかから尖らせた舌先を胸元へ沿わせていく。
そして、胸元にある一番新しい傷跡やけどにたどり着くと強く吸い付いた。
「これ…夕方はなかったよね?」
「あッ… ン! 痛ッ…!!」
身をよじる夕子に構わず、ちゅうちゅうと吸い上げる。
「やめ…っ…」
夕子は江梨香の体を押し返そうとするが力が入らない。
気が付けば江梨香は夕子のてのひらを恋人繋ぎに握りこんで傷跡を吸い続ける。
「エリ…っ! いやっ…」
江梨香が唇を離したとき、夕子の体は完全に力が抜けて荒い息を吐いていた。
いつの間にか涙を流していた夕子の瞳のふちに口づけて江梨香が微笑む。
「ほら、綺麗になった」
言われて夕子は視線だけを傷跡に向ける。
赤黒い傷跡は江梨香に吸い付かれて内出血し、赤く腫れあがっていた。

(まるで花が咲いたみたいだ…)

ぼんやりとそんなことを想う夕子に江梨香は優しく口づける。
「ゆーこちゃん…、もう自分で自分を傷つけないで…。どうしても、っていうなら私がつけるから」
「エリ…」
「私、ゆーこちゃんとずっと一緒にいたいよ。こんな気持ち初めてで、きっとゆーこちゃんだけに感じるものだから」
江梨香と夕子の視線が絡みあう。
「アタシも…、エリと一緒がいい。アタシはたぶんもうエリがいてくれないと駄目だ。
 そうじゃないと、また駄目なアタシに戻っちまう…」

江梨香は恋人繋ぎしたままだった夕子の手をとってそのまま夕子の体を起こすと背中に手をまわした。
夕子の顔が江梨香の胸に埋もれる。
「よしよし…」
江梨香は夕子を抱いたまま頭を撫でる。
ふんわりと胸にうずめられた夕子に江梨香の心音がきこえる。
(安心、する…)

夕子は、そのまま穏やかに意識を手放した。


翌朝。
夕子は心地よいやわらかさに包まれて目を覚ました。
2、3度またたいてぼんやり目を開けると頬が何か暖かいものに包まれているのに気づく。
視線を上向けると、自分を抱きしめて眠る江梨香の寝顔が見える。
「!?」
もう一度、頬を包む暖かいものに視線を戻すとその正体がわかる。

――江梨香の、胸。

気が付けばふたりとも裸で、夕子は江梨香の胸に抱きしめられていた。
(…なにがあった? アタシ、なんで裸で…?)

昨日、お酒を飲んで潰れているところに江梨香が来た。
それから――

かぁっと頬に朱がのぼる。

その時江梨香がぼんやり目を開けて、夕子の顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ… おはよぅ、ゆーこちゃん…」

その瞬間はっきり思い出す。

「お、おはようエリ…」
「ゆーこちゃん真っ赤だ…」
「お、おまえだって」

お互いに顔を見交わして笑ってしまう。
江梨香は夕子の手を取って自分の胸に当てた。
トクトクトクトク…と早く脈打っている。同じくらい自分の拍動が速いことが夕子にはわかる。

江梨香はもぞもぞと動き夕子の胸元に擦り寄ると、昨日の火傷の跡キスマークにちゅっ、と口づけた。
「んっ…」
「かわいい声~」
「こら」

もう一度、お互いに顔を見交わして笑い合う。
「エリ」
「なぁに~」

「愛してるよ」
あまりに自然に口から出た愛の言葉に夕子は驚いてしまう。
「ふふふ~ 知ってる~」
それを当たり前のように受け止めて江梨香は夕子にキスをした。
ぎゅうぎゅう抱き着いてくる江梨香の体を支えながら夕子は思う。

もう、間違えない。
[了]

==========
■登場人物
北村江梨香(きたむらえりか)

いつもニコニコおっとり優しい司書先生。
マイペースで声を荒らげることもほとんどない。基本の表情は糸目だが結構頻繁に目が開く。
こう見えて苦労人で、ニコニコしているのは自分を守るためでもある。自己肯定感は低めで臆病。
生い立ちから、内心では他人が怖いため威圧的だったり自信家だったりする相手は苦手。
夕子のことも最初は怖い人だと思っていたが、自分を心配してくれたり飾らず接してくれる夕子をどんどん好きになる。
半面、夕子が自分に対して作っている壁を敏感に感じており、自己肯定感の低さから踏み込めず作り笑顔で諦めている。
今回夕子がひどく傷ついている姿を見て背筋がゾクゾクするほど夕子が欲しくなった。
最初から好感度カンストの大輪の百合。


中南夕子(なかみなみゆうこ)

口は悪いが面倒見がよく生徒たちには慕われている養護教諭。愛煙家。
コミュ力の高さが災いして同僚からは仕事を頼まれがち。美術部と文芸部の顧問を兼務しておりいつもくたびれている。
放置子育ちで本来の性格はとても臆病で悲観的。そんな自分を隠すため殊更強く振舞う。
愛情を知らずに育ったため告白されれば付き合うが、相手に愛情を感じたことがない。
そのため必ず相手を怒らせてフラれてしまい、その責任を自分に見出し自傷する癖がある。
江梨香とも、最初は懐かれて困惑していたが今は居心地の良さを感じている。しかし笑顔の裏に隠されている部分を察知しており本心を隠し自分を守る同類だと思っている。
ちなみに、養護教諭をしている理由は誰かに優しくしても警戒されない職業だと思っているから。いろいろこじらせている。
ぐいぐいくる江梨香に丸呑みされて百合に目覚めたノンケ
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