監獄スタートの悪役令嬢 脱獄記~令嬢とかどうでもいいから私は逃げる!

八万岬 海

文字の大きさ
14 / 48

第14話-二人の旅路

しおりを挟む
 脱獄から十七日目――。

「ふぁ…むぐっ……」

 少し眠れたかな?と思い目を覚ますと眼の前に立派な双丘が横たわっていた。

 むにっと柔らかそうな形で良い匂いがする。
なるほど男はこれに夢中になるのか――とか、寝ぼけた頭でよくわからないことを考える。

「り、リン……おはよう?」
「ふぇ……………?」

 目をこすりながら兎のセリアンスロープであるリンがキョロキョロとあたりを見回す。そしてボケっとしたまま私に焦点が合ったところで、パッとなにかを思い出した様な表情になる。

「……眠れた?」
「カリス、おはよぉ……少し眠れたわ~」
「ん――よかった」

 まだ口をふにふにと動かしながらリンは起き上がりグッと伸びをする。
 私は自分の胸元を見下ろし「そんなに悪くないよね?」とひとちる。

「そういえば~カリスって、魔法使いなの~?」
「えと、使えるけど魔法使いじゃ無いの」
「そっか~。強い魔法使ってた冒険者とかしている魔法使いかと思った~」

 リンは私が作った保存食の魚の干物をもしゃもしゃと齧りながら聞いてくる。
 冒険者というのは、いわゆる魔獣とかを退治してお金をもらうような職業なのだろう。クリスわたしの記憶的にもそれで合っているような感じだった。

「私はまだ見習いだけど~斥候役なんだ~……昨日は寝ているところをあっさり捕まっちゃったけど……」
「あはは、でも斥候ってすごいね! シーフってやつ?」

「シーフ?」
「えっと、盗賊……とは違うけれどなんていうかなー。罠とか仕掛けたり解除したりとか」
「あぁ~うん、そういうことも習ってる~。でもメインはこの弓かなぁ」

 リンがずっと枕元に置いてあった小さな弓を渡して見せてくれる。
 かなり使い込まれている木で出来たような弓だった。
 和弓というより、ボウガンのような形をした弓で、使い込まれた感じから結構年季が入ったもののようだ。

「それで、カリスはスルツェイまで行くのよね~?」
「うん……でも」
「あぁ、私のことは気にしないで~魔法使いは一人なら飛んで行った方が早いって言うし~」
「でも……」

 確かに一人で飛んだほうが遥かに早く着くだろうなと思う。

 けれどリンは見たところ戦闘に関しては強くなさそうだ。
 あんな事があったし「じゃぁね」と別れて一人にするのもはばかられる。

「いや、やっぱり一緒に行こ? 私と一緒だと逆に危険かもしれないけれど……」

 リンはぱぁっと表情を明るくした後、「どうして?」と視線を向けて来る。

「……ちょっとね、追われてるんだ私」
「そうなの~? じゃあ私が索敵担当するよ~」

「でも……」
「大丈夫~今度は私に守らせて~。お返しって訳じゃないけど~」

 なんてことのないようにリンが言うので、私はここまでの経緯を掻い摘んで説明することにした。

 冤罪で捕まり脱獄をしたこと。
 手配を受けて追われていること。
 隠れて逃げて、なんとかここまでやってきたこと。
 行方不明の両親を探しに行く途中だということ。
 捕まれば処刑されることを伝えた。

 リンは私の説明を聞きながら徐々に涙目になり、最後は自分の事ではないのに、わんわん泣き出してしまった。

「でも危なくなったら見捨てて一人ででも逃げてね? これだけは約束して?」
「う~ん、素直にハイって言えないけど、言わないと話が進まなさそうだから、分かった~って言っておくよー」

「……じゃあ、よろしく、リン!」
「こちらこそーカリスよろしくね~」

 私は改めてリンとギュッと握手をして、「本当に危なくなったら逃げてね?」と言い聞かせた。
 それから二人で身なりを整えて、海岸沿いを歩いて向かうことにした。

――――――――――――――――――――

 脱獄から二十二日目――。

「カリス右上」
「任せて!【氷槍アイスランス】っ!」

 ――ズシャッ! と、音を立てて氷の槍が大きな狼型の魔獣、魔狼マロウへ突き刺さった。

「ふぅ、これで全部かな?」
「うん~これで気配はないよ~」

 リンと出会って五日。
 私たちはなるべく海岸沿いの開けた場所を選んで歩き、スルツェイへと向かっている。

 リンは意外にも体力があり「軽く走って偵察してくる!」と駆け出すと、私には到底追いつけない速度で見えなくなった。
 そのスピードで二時間ぐらいは走れるそうだ。

 このままでは私が逆に足手まといになりそうだったので、途中から【浮遊フライ】を使い走っているリンの隣を飛ぶようにした。

 この五日間で何度か魔獣と戦った。
 最初はグダグダだったが、徐々にリンとの連携が上手くなった。

 それに、リンは素材の剥ぎ取りも上手だった。
 聞けば、父親にかなり教え込まれたと苦笑しながら教えてくれた。

「この調子だと明日には着くかな?」
「そうね~明日の夕方には到着かな~。私の村はスルツェイの向こう側だから街で一泊だけどね~」

「そうなんだ、じゃあ一緒に泊まる? その方が安くつきそうだし」
「そうしよっか~」

 私たちは剥ぎ取った魔狼マロウの肉と毛皮を蔓で縛って一つに結ぶ。

「段々荷物増えてきちゃったね」
「でも、カリスの魔法が優秀で助かるよ~」
「リンの索敵能力も助かってるよ! 私一人だとあたふたしちゃって、怪我の一つでもしてそうだし」

 私は荷物に【浮遊フライ】の魔法をかけ、風船のように浮かせる。

「荷物にその魔法使って運ぶっていう発想だけでも凄いんだけど~?」

 ふよふよと浮かんでいる素材が入った大きな塊を、垂れ下がっている蔦を握って引っ張るように運ぶ。

「でも楽だよねこれ!」
「遠くから魔獣と勘違いされて攻撃されたりして~」

「フラグ立てないで……」
「フラグ……?」
「ええっと、この場合、冗談で言った事が本当になっちゃう……みたいな?」

 私たちは二人で談笑しながら海岸線を南下する。
 一人の時よりかなり気が楽だ。

 思い返せば、私がこの世界の人とこんなに深く話をするのはリンが初めてだ。
 女の子同士というのもあるだろうけれど、色々とお喋りをしながらここまで来た。

 リンが珍しい種族だということ。
 スルツゥェイの先に保護自治区があって、そこに同族がたくさん住んでいること。
 冒険者になって世界を見て回りたいという夢まで、色々話を聞かせてくれた。

 逆に私はあまり昔の話ができない。
 フレンダの話やマイクさんの話は既にした。

 最近になってとてつもなく魔力が増えた話は、リンが魔法が使えないのであまりピンとこなかったようだった。

「でも~カリスが優秀だって事はわかるわよ~」
「えへへ、ありがとうーリン」

 冒険者になったらこんな感じなのかなと思いながら、二人で今日の寝床を探す。
 主にリンが地形などを確認して、魔獣や人が通らなさそうな場所を探し、私が魔法で整地する。

「よし、じゃあ今夜はここで! 【地殻クラスト崩潰 クラプス】!」
「その魔法、何度見ても面白いね~」
「畑仕事してる人には助かるかもね」

 硬くなってしまった地表と地中の柔らかい土を入れ替える地属性の魔法だ。
 この魔法で寝床の土を慣らす。
 柔らかくなった土を足で踏み固めて木の葉を敷けば、かなりマシな寝床ができる。

「カリスは詠唱とかしないの?」
「詠唱……というと呪文みたいなもの?」
「そうそう~昔の人はちゃんと属性を司る神の名を称えて魔法を使ってたっておばあちゃんが言ってたのよ~」

 リンが口元に指を当て、んー?と考えながら何かを思い出すように教えてくれる。

「あ、学園で歴史の授業で習ったかも。でも今では正しく詠唱できる人は居ないって」
「そうなんだ~」

 そんな他愛もない話をしながら、途中で手に入れた魔獣の肉を火で炙って食べる。
 水は余り美味しくないけれど、魔法で出したものを飲む。

「じゃあ今日も早いけど寝ようか。明日には到着できるし!」
「そうね~明日はお風呂入れるわね~」

 明日にはようやくスルツェイに到着する。
 つまりリンとの短かった楽しい二人旅が終わる。

 ――そして、両親の手がかりを探して……それで……それで……。


 ――――――――――――――――――――


 昨日考え事をしながら寝てしまったらしく身体が妙に重い。

(頭痛い……)

 思い目蓋を開くのを躊躇われるぐらい頭痛がする。
 風邪をひいたかなと、隣のリンにくっつこうと身を寄せるが、そこに誰かが居る気配がしない。

(――っ!?)

 とてつもなく嫌な予感に襲われ、なかなか開こうとしない目蓋を無理やり開けた。



 ――草原の岩陰で眠っていたのに、両手両足を縛られ木の板を敷いた倉庫のような場所に転がされていた。

「――むぐっ!!」

 口には猿轡を嵌められているようだ。
 声も出せず何がどうなっているのか、わたしは自分の状況が理解できなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...