AGAIN

ゆー

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サブストーリー

君にさよならを。

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ツイの方で奇跡的にリクエストがきたので載せます!ありがとうございます!
王位継承編(なお、まだ一文字も書いてない)のラストの方です。邪道とかは気にしません!何故なら、書けないかもしれないから!(おい)
では、お付き合い頂けると幸いです!
……こんなテンション高い前置きで大丈夫でしょうか?




  ________________





 白い白い病室の真ん中で君は沢山のチューブに繋がれていた。頭に巻いた包帯が痛々しい。
 病室に入ってきた俺を見て君はベッドから身を起こし、少しぎこちない笑顔を向ける。
 事前にコウキから聞いた話だと、君はこの為だけに大量の安定剤を入れ、更にキョウスケの精神操作で恐怖心だのなんだのを抑え込んで貰っている状態らしい。これが保つのも20分足らずだとも言っていた。……きっと、事実だろう。先日、壊れた君を見たから。
「久しぶり?」
 君は裏返りかけた声を誤魔化すように疑問形にした。
 それには答えずに君に近づき、頭を下げる。
「シオリ……すまなかった」
「……え、いや、その、頭を上げて?謝ることは、ない。拙者は戦人にて、そのくらいはありふれたこと。……こんなことにも耐えられぬなど……拙者が弱かっただけに他ならない」
 この期に及んで君は強がる。いや、強がりだという自覚は無いのだろう。
 ……君はいつだって強者だった。
 だから、誰かに頼ることなど知らない、守られることはない、だって、君はいつだって守る側だから。
 ……君なら大丈夫だと思っていた。多少なら傷つけも大丈夫だと。君は強いから、大丈夫。多少痛めつけても、全てが終わったら、きっと何事も無く、今まで通りに戻るだろうと。
 あの時、戦うことを放棄した君を俺は必要以上に攻めた。魔力封印を一段階解除し、暴走状態にあったて歯止めが利かなかったというのは逃げになる。
 きっと、君を切り捨てた時点でこういう結末だった。
 ベッドの脇にあるパイプ椅子に腰掛ける。
 君は俺の方を向いてはいるが、目を合わせようとはしなかった。
 沈黙を破り、君はぽつりと言葉を漏らす。
「……逃げる拙者を、臆病者だと罵ってくれても構わないぞ」
「そんなことは思ってもいない」
 そうか、と君は頷き、そして、言った。感情の入っていない声。
「悪かったな。恋人らしいことは何もしてやれなくて」
 君の口からそんな謝罪は聞きたくなかった。
 第一王女が亡くなった日の午後、家に入ろうとした君を呼び止めて、告白したのは俺だ。そして、その次の日に俺はユリを選んで君を切り捨てる決意をした。何もしてやれなかったのはこっちの方だ。
 それどころか、俺はユリを選んだ挙げ句、その関係を利用して、王宮側についた君を誘き寄せて、油断していた君に一撃を加えた。
 裏切った。そう、俺は君を裏切ったのだ。
 初めて灰色の目が俺の目を捉えた。
「貴方を忘れる前に、最後に教えて欲しい。あの告白は本心だったのか?ユリの為に拙者の動きを制限する為のデマカセだったのか?」
 なんと言えばいいのだろう?
 あの気持ちに偽りはない。あの時はあの後、あんなことになるなんて思ってもみなかったから。
 だが、結果的に…利用しただけになってしまった。
 一度もデートだなんてしなかった。連絡すらもしなかった。
 第一、あの後、君と会ったのは、カフェで王宮側の情報を君に吐かせた時と、君に刃を向けた時。そして、今、この時の三回だけだ。
 どう答えても、君を傷つけるだけで終わってしまうだろう。
「本当の事を言って欲しい。どうであっても構わない。どうせ、消してしまうのだから」
 君から視線を外して下を向いた。震える右手を左手で押さえつけた。
「………………………………本心だった」
 前髪の隙間から君を見る。無表情だった。
「今更、信じてもらえないだろうけど、本心だった。あの言葉に嘘は無かった。魔道都市で出会った時から俺は、ずっと……。その二年後にイディア王国で再会したときは運命だとすら思った。付き合ってくれって言ったとき、頷いてくれて嬉しかった」
 あの雨の日から、今日までの五年間、ずっと君に恋してる。
 ああ、でも、そうだ。好きなのは君だったけれど、一番守りたいのはユリで、側にいてあげたいのもユリだった。
 その時点で、君に想いを告げる資格など無かったんだ。
「好きだよ。本心だよ。お前は俺の初恋だった」
 君は、そうか、とだけ言った。無機質な声だった。きっと、俺の言葉は、君には届いていない。
代わりに遠い目をした。
「一度も言ってなかったけど、きっと、拙者は貴方が好きだった…と思う。今となってはもう……分からない」
 僅かな間の後、君は手を伸ばして一瞬、俺の頬に触れようとして……やめた。代わりに小さく「忘れていいからね」と告げる。
 何も言えないでいる俺の前に手が差し出される。
 少しだけ、手を繋いでみてくれないか、と君は言った。予想外の頼みに驚いたが、喜んで、と俺は笑った。
 包帯だらけの君の右手に、左手を絡ませる。
 はじめて繋いだ手に、胸が締め付けられる。ずっと繋ぎたいと願っていた手は、温かくて小さかった。
俺は、この感触を、君の温度を、胸を握られるような感覚を、一生忘れない。
 ふっと君が不意に笑った。君らしい笑い方だった。
 その笑顔を見て「やり直せないか」と、思わず口についてしまった。
 君は首を横に振り、手を離して、
「さよなら、だよ、ゲンキ」
と言った。
 これが合図だった。
 ベッドに横になるよう指示し、俺は君の目蓋に目隠しするよう手を当て、催眠の術式を詠唱する。
 ……あっという間に君は眠りに落ちた。眠りに落ちる前、囈言のようにごめんね、と呟いて。
「なんで謝るんだよ」
 独り言い、手を離す。
 君は静かに眠っている。次に目が覚めたとき、君の記憶に俺はいない。
 いや、大会の記憶だけは残さないと不自然だから、それだけは残すのか。俺の名前くらいは覚えていてくれるのかもしれない。
 ……どちらにせよ、そんな事務的な記憶に意味など無い。俺らが過ごした日々は君の中から抜け落ちる。それだけが事実。
 俺が提示して、君が望んだ結末。
 起こさないよう、そっと、シオリの額に手を当てる。
 にっと、最後に笑ってみせる。上手く笑えた自信はない。
「じゃーあな、フランクフルト」
 冗談交じりに吐き捨てて、禁術の詠唱を開始する。
 この禁術は実は相手から記憶を消す術式ではない。正確には、相手の記憶を部分的に根刮ぎ自分に移し込む術式だ。
 ……相手から記憶は消えるが、代わりにその記憶を自分のものとする、禁術。
 元々、秘密の暗号や相手から機密情報を奪いとる為に開発されたものらしい。
「……っ」
 記憶の濁流が襲いかかってきて、思わず目を閉じた。
 耐えなければならない。流れ込んでくる映像が自分でも。拒絶すれば、記憶が逆流して、今度こそ君を修復不可能に壊してしまう。
 これが唯一、最初で最後、君の為にできること。
 君はどんな風に俺を見ていたのだろう。憎い魔導師?それとも、友人?
 流れる平坦な映像からは読み取れない。
 どちらにせよ……更に自分が嫌いになれそうだ。
 ………………………………。
 次第に流れが緩やかになってきた。
 最後に目蓋に映ったのは魔道都市。雨の中、裏路地でうずくまっている少年の姿。
 そこで、ぷっつりと暗転した。
 成功だ。
 頬を伝う汗を感じながら、大きく息を吐いて目を開ける。
 視界に入ったのは安らかな寝息を絶てる君。
 ……俺なんかに好かれなければ、君はこんな目には遭わなかった。俺なんかに出会わなければ、きっと君は幸せだった。
 だから、これが最も正しい選択肢だ。
 パイプ椅子を壁に寄せ、病室の扉に手をかける。
 こんなこと思える立場じゃないけれど、
 俺の知らないところで、俺の居ない未来で、君が笑っていますように。
























「調子はどうっすか?」
 目を開けたシオンの視界に入ったのは、心配そうな表情のコウキだった。
「ん……ああ……」
 ゆっくりと体を起こす。辺りを見渡すと、そこは個室の病室だった。
 なんで私は入院などしているのだろう?
「ノゾミとキョウスケは家っす。代わる代わるで病室の姉貴の面倒を見てたんすよ~。姉貴が起きたと知ったら喜ぶっす」
 コウキは、お見舞い品だろうか…脇に置いてあった籠からリンゴを取り出してクルクルと鮮やかに皮を剥き始めた。
「リクなんて姉貴が入院したと知ったら出張先から飛んで帰って来たっすよ。毎日、騎士団帰りに此処に来てるっすし。ちゃんとお礼、言っとくんすよ」
 はい、と兎型に切ったリンゴを一切れ、シオンの口に運ぶ。
「起きたばっかりだと胃が小さくなってるっすからね、無理して食べることはないっすよ」
「……長い」
「え?」
 おもむろにシオンは口を開いた。
「長い、夢を見ていた気がする」
 辛かったような、悲しかったような、楽しかったような、そんな夢。
 しかし、内容は全く思い出せなかった。
「拙者は……どれくらい寝ていたんだ?」
「入院してから2週間っすね」
「そうか」
 刹那、遠い目をした後、シオンはコウキが手にしていたリンゴの兎に勢いよく齧り付く。
「うわあだっ!危ない!噛み付かれるところだったっすよ!?」
「素晴らしい反射神経だったぞ、コウキ」
 もう、なんすか~。まぁ、元気そうで何よりっす、とコウキは笑った。
「ノゾミとキョウスケに連絡するっすね。姉貴はゆっくりしてるんすよ。あ、あと、そろそろリクが来るはずっす」
 そうコウキが言っている間に、病室のドアが開いた……。





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