AGAIN

ゆー

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サブストーリー

戦場の、ハマナス 前編

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 事の原因である室待ノ国が滅びても、戦争は終わることを知らなかった。いや、むしろ、これからが本番だとでもいうように戦いは加速していった。
 元々、仲の悪かった国同士が大国である煌覇帝国すらしのぎ、最強と吟われた室待ノ国を倒す為だけに同盟を結んでいたのだ。室待が滅び、目的が達成されると今度は同盟を結んでいた筈の国々で争いが起こった。
 もう、止めることなどできはしない。戦火は大陸中に飛び散った。

 しかし、私が住んでいた村はそんなこととは関係なしに、いつもの日々を送っていた。
 大きな煌覇帝国の海沿い、借金だらけの小さな漁師の村など、誰も見向きもしなかったのだ。
 戦前と変わったことを強いてあげるとするならば、税金を多くとられるように生活が更に質素になったことと、国境近くの町に住む子供が疎開してきて賑やかになったことくらいだ。

 そんな中で私は自ら軍入りを志願した。
 理由は金だ。軍に入って戦果をあげれば、金が貰える。それこそ、こんな田舎で細々と生活していては手に入れることができないような額を。
 その時、私は14歳だった。
 ……私の生まれた大陸では、一般的に13歳で成人とみなされていたから、両親は止めはしたが、最後には私の意思を尊重してくれた。

 自惚れではないが、漁師の娘であり、自身も漁に出ていた私は"武器"となる銛の扱いが飛び抜けて上手かった。その実力を買われた私は直ぐに大隊から小隊……それも前線の小隊……に移された。
 前線の小隊に移されるということは名誉なことだったのだ。

 その小隊で私は生意気そうな少年とバディを組むことになった。前線の小隊に移されるだけじゃなくて、各小隊1組と決まっているバディまで組めるなんて。
 20歳ほどの青年や30代の剣士なども小隊にはいたのに、バディを認められたのは13歳の少年と14歳の少女。成人したとはいえ、まだまだ子供の領域に片足を残していた私は単純に喜んでいた。

「私はアズサ。アズサ・ウォルターズよ。よろしくね!」
 笑顔で言った私を、眼帯を着けた小生意気な少年はきれいに無視した。
「ちょ、無視するんじゃないわよ! 」
 首根っこを捕まえてやると、成長期半ばの少年は面倒そうな顔をした。
「ヒトキ・オブライエンだ。……ねぇ、もういいでしょ。ちゃんと名乗ったんだから」
 年下のくせに偉そうな物言いと態度。まだ私より少し低い身長。こんなガキが戦線にいて大丈夫なのか。
 このクソガキと、思った記憶がある。
 これが私達の始まりだった。



 バディの少年は小生意気で性格のよろしくない奴だったけど、印術のセンスは抜群だった。大人の印術師にも劣らない威力と判断力には目を見張った。
 前衛の私の射程から外れた敵を的確に落とし、私の背に回ってきた敵は押し出し印術でぶっ飛ばす。

 雷、炎、水、中でも彼が得意としていたのは無属性印術だった。
「無属性?アンタそんなの使ってたっけ?」
 そう訊ねた私を小馬鹿にしたように奴は嗤った。
「お前、実は馬鹿だろ。お前がいっつもお世話になってる押し出しや吹き飛ばしは無属性の代名詞だ」
「へ、そうだったの?」
「それに元々、印術ってのは魔導師の魔術だの魔導だのみたいに体内魔力じゃなくて、空気中のルーンとやらをマナで変換して生成するって仕組みらしいからな。全部無意識にやってるから意識したことねェが。だから、必然的に無属性がメインになるんだよ」
「へ、へぇ……」
「まぁ、今まで無属性を知らなかったお前には分からないだろうがなァ」
「な、そんな馬鹿にしなくてもいいじゃない!アンタの言い方は癪に触るのよ!」
 ヒトキは鼻で嗤ってそっぽを向いた。
「わ、私だって、マナで武器に水属性を付加することができるわ!こんなこと、アンタみたいな術者にはできないでしよ!」
「できないな」
「あら。案外素直なのね?」
 意外にもすんなり認めたヒトキに私は得意気に胸を張った。が、次の奴の一言で私の気分は壊された。
「お互いにできないところを埋めあって"最高"を出すのがバディだろ。だから俺は素直にできないことはできないって認めてやるよ」


 戦場では基本的には小隊全員で戦う。バディが用いられる時は敵の戦力を分散させたい時や、道を切り開く時だ。
「ふーん。今回のはそこそこだったんじゃねぇの?」
 傷だらけの私を嗤いながら回復薬をぶっかける。
「痛っ!痛たっ!急にぶっかけるんじゃないわよ!これ、凄く滲みるのよ!痛っ!」
「我慢しろ、馬鹿女。こういう言葉を知らないのか?良薬は口に苦しってやつ」
「知ってるわよ!」
「あー、お前が馬鹿みたいに突っ込むから回復薬がまた消費される。この小隊に支給されてる回復薬の半分はお前が使ってるぞ、馬鹿女」
「な……さっきは今回はそこそこだって言ってたくせに急に馬鹿みたいに突っ込むってアンタ」
「さっきはさっき。今は今」
「何を偉そうに。アンタは私の後ろで芋ってるだけじゃないの」
「芋ってるってのは聞き捨てならねぇな、馬鹿女。こっちだってお前が取り逃がして後陣まで来た奴や魔物の相手はしてるっての。お前が取り逃がした、な」
 お前が取り逃がした、を強調しながら、両手の甲に取り付けた赤の滴る手甲鉤を見せてくる。
「……このチビ、銛で腹を射抜かれたいの?」
「まぁ、射抜かれたって回復薬10個くらいかければ治るけどな、残念ながら」
「だから言ってるのよ」
「は?まてまておい、冗談じゃねぇのかよ。やめろよ。死ぬほど痛いのには変わりねぇじゃねぇかやめろって。回復薬も痛いんだよ、痛みのショックで気絶するってショック死するって」
「なんなら心臓や肺を狙ってもいいけど」
「お前、この馬鹿女。俺を殺す気かよ」
「大丈夫よ。完全に内臓機能が止まる前に上級回復術師に診てもらえば治るわ」
「ちょ、やめろっての。間に合わなかったら死ぬじゃねぇか!」
「あら?大丈夫よ、大丈夫」
「目が怖い目が怖い」
 そこにヒトキにとっては丁度良く、小隊の隊長が仲間を引き連れてやって来た。どうやら、帰りが遅い私達の援軍か瀕死で倒れてるか死体になった私達の回収に来てくれたらしい。
 その後、私は隊長にこってり怒られた。冗談とはいえ、仲間に銛を向けたことは反省したが、そんな隊長の後ろでニタニタ嗤っていたクソガキは赦さない。



 それは私のミスだった。

「今回は楽勝だったじゃない?」
 そう笑う私をヒトキはいつものように無視するものだとばかり思っていたから、「そうだな」とおざなりにでも返事をしてくれたのが凄く嬉しかった。
 ヒトキはそれだけ言って、みんながいる場所に戻ろうと歩みを進めようとした、が。
 唐突にヒトキの目が見開かれたと思った次の瞬間、駆け寄って来た彼の腕に突き飛ばされた。
 成長期半ばの、私と変わらないような大きさの体に、そんな力をどこに隠していたのだろう?倒れながら、ああ、彼はやっぱり男の子なんだな、実感した。
 ゴンッと鈍い音がして、地面に頭を打ち付けた。火花が散るような感覚。
 それを堪えて上半身を起こすと、目に入ったのは、崩れる敵兵と、お腹を剣で貫かれたヒトキの姿。
「なるほど…アンデット化の術式を埋め込まれた兵士だったか…油断したな」

 油断したな。

 違う。油断したのはアンタじゃなくて私だ。終わったと思って気を抜いたのは私だ。
 後ろに倒れるヒトキを眺めるまま、私は馬鹿みたいに唖然としていることしかできなかった。
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