AGAIN

ゆー

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☆本編☆

ほんわか舞踏会

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「舞踏会?」
 聞き返した俺の言葉に彼女ははっきりと頷いた。
「なんでまた、そんな華族の遊戯に君が誘われるんだ?」
「カコちゃんが誘ってくれたの」
 そういうアヤネはどこか嬉しげだ。それはそうだろう。アヤネは白い髪に赤い目という外見のせいで、遠巻きに見られることが多かったから、他人に誘われたことなどないのだろう。
「カコって、マナヤの婚約者のあの子?接点あまりないよね?仲良かったっけ?」
「最近、仲良くなったの。リオデレちゃん経由で」
「リオデレラか……あいつ、友好関係広いなぁ」
 素直な感想を述べる。
 リオデレラは物怖じというものをしない。どんな相手にもぐいぐいアプローチをしている。世渡り上手というか、なんというか。
「ふふ。友達が多いのは良いことよ」
 少し羨ましげな、しかし、上品な笑顔を向けられ、確かにそうだと思い直す。
 まあ、俺って単純。
「それで、一人じゃ不安だから、俺に付いてきて欲しい、と?」
 アヤネはコクっと頷いた。
「華族の舞踏会なら俺じゃなくてシュウトに頼んだ方がいいんじゃないかな。華族のたしなみや作法なんて俺は分からないし……。シュウトなら元々貴族の出身だから、国で多少の差異はあるにしろ、上流階級の嗜みも分かっているだろうし」
 是非とも付いていくぜ!という一言を押し込めて、俺は言った。
 俺もアヤネも上流階級の作法やなんやかは全く分からない。それならば、たしなみを分かっているシュウトにアヤネをリードさせた方がいい気がする。だって、華族の舞踏会でアヤネに恥をさらせるわけにはいかないから。
 アヤネは首を横に振った。
「ハヤト君じゃないと駄目なの」
 きっぱりと言い切ったぞ。アヤネにしては珍しいことだ。
 こう言われたら俺とて、頷かないわけにはいかない。舞踏会の日までにシュウトに頼んで、いろいろ教えて貰おう。
「それ、招待されてない俺が行っても大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫!カコちゃんが『恋人さんだったら連れてきても良いわよ(^^*)』って言ってたもの」
 恋人さんだったら連れてきても良い?
 そう言われてアヤネは俺を舞踏会に連れて行こうとしてる?
 ハヤト君じゃないと駄目なの?
 つまり、アヤネの中では俺は恋人さんの立ち位置?
 ……………………………………………………危ない、危ない。危うく昇天するところだった。
「ち、違うの!ハヤト君とは恋人さんじゃないって分かってるよ!で、でも、こんなこと頼めるのハヤト君くらいだし、わたしがハヤト君と一緒に行きたかっただけだから……」
 反応がない俺に一抹の不安を感じたのだろう。まくしたてるようにアヤネは言った。
 恋人さんであることは否定されてしまったが…(正直、少々ダメージを受けたが)、アヤネが俺と行きたいと行ってくれてるのだ。断るわけにはいかない。
「全然大丈夫さ!」
「ほ、本当!?」
 アヤネの表情が一気に明るくなった。
「安心して!舞踏会の服はカコちゃんが用意してくれるって言ってたから!楽しみだね!」




  部屋の隅にある更衣室の中でハヤトは慣れない服を着るのに手こずっていた。普段、仕事柄、騎士団の制服や軽鎧ばかり着ていてファッションにあまり理解の無いハヤトでもわかるほど、高価そうな服だ。デザインはシンプルだが、どこはかとなく豪奢。
  汚すわけにはいかないと一人勝手に心得る。
「ハヤト、着替え終わったか?」
  この服の持ち主であるマナヤの声がカーテン越しに聞こえる。
「ああ」
と、ハヤトが言うや否や、マナヤは更衣室のカーテンをシャッと開けた。
  そして、ハヤトを上から下までじっくりと眺めた後、まぁ、上々じゃん、と言った。
「ハヤトが俺と似たような体格で良かったよ。そうじゃなかったら……考えるのはやめよう」
「うぅ……すまない」
  当時になって、舞踏会に着ていくような服なんぞ持っていないという事に気付いたハヤトは、大慌てでマナヤにダメ元で服を貸してくださいと頼みに行ったのだ。
  シュウトの元で上流階級の嗜みを学ぶことまでするほど下準備に熱心なのに、服の存在は完全に忘れているという失態。ハヤトは真面目ゆえに、時々、変なところが抜けているのだ。
「まぁまぁ、ハヤトらしくていいと思うぜ」
「慰めなくてもいいよ。自分でも結構致命的な欠点だと思ってるし」
  ため息を漏らすハヤトの肩をマナヤは叩く。
「そういえば、マナヤは行かないのか?舞踏会。カコの婚約者で、確か君も華族だろう?」
  そんな疑問を口にしたら、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
「あー、いや、俺はこういうのには行かないよ。華族っつっても、カコの家とは違って、俺の家は完全な没落華族だし……。没落したとはいえ、華族であるのに商業に手を出したフィネガン家を良く思ってない華族もたくさんいるし……。それに、俺は戦闘もそこそこ強くて…いろんな事を幅広くしてるから風当たりも強いんだよ」
「よくわからないけど、大変なんだな」
「大変だぞ。そんな俺がコルトレーン家の一人娘と婚約してるもんだから、たまにアサシンも送り込まれてくるし」
「うわぁ、大丈夫かよ」
「大丈夫、大丈夫。ぶっちゃけ、大して強くないから全員返り討ちにしてやってるぜ。本当にお前は暗殺者かよって言いたくなるくらい弱いの。不意打ちとってる癖に、傷一つつけられないで刑務所に入れられるのってどんな気持ちなんだろうな」
  にっこりとマナヤは笑う。しかし、目は笑っていない。もう少し腕のある奴を送り込んでこいよ!とでも言いたげな表情だ。
「いや……それ、マナヤが強すぎるだけだって」
「そんなことは無い。だって俺、ハヤトに不意打ち食らったら勝てる気しないもん」
「それはねぇな」
  そう即答したハヤトにマナヤはデコピンを与える。
「ハヤトは自分のこと過小評価しすぎだ。王国一の槍使いハイランダーなんだから、胸を張れ。……そういえばアヤネは?」
「アヤネは先にカコと会場入りしてる」
  ほぉ、と訊いて来た割にはあっさりした反応をマナヤは示し、今度はハヤトの背中をばちんと叩いた。
  普通に痛い。
「頑張れよ、ハヤト。こんなビッグなイベント、そうそうないぞ」
「な……っ!?頑張るって何をだよ」
「何をってそりゃ……アヤネとの仲を進展させることに決まってるだろ」 
  ハヤトの耳が赤くなる。
  な、なに言ってんだ、コイツは!?
「正直さ、ずっと思ってたんだけど、ハヤト達ってずっっとそんな感じだよな。友達の延長線上っていうか…、そう、友達以上恋人未満ってやつ」
「そんな感じ……?」
「そりゃ、ハヤトがアヤネ大好きなんだってのは見てればわかるけど」
「見てればわかるのか……?そんなにわかりやすい……?」
「あ、いや。職業柄、俺がそういうのに敏感なだけかもしれないけど……。まぁ、そこそこわかりやすい」
  ハヤトはうなだれた。そんなにわかりやすい人間だったのか、俺は。
「でも、アヤネの方はどうも掴めないんだよな。アヤネはハヤト以外の男と接するのが苦手みたいだから比較できないってのもあるけど……。アヤネのハヤトに対する好き!が恋愛的なものかどうかは*アリ*寄りのグレーゾーンだよな」
「え……そうなの」
  てっきり、アヤネは俺のこと、そういう意味でも好きなのかな~とか思ってた。そうか……グレーゾーンか……。……穴があったら入りたい、とハヤトは思う。
「落ち込むなって。多分、アリだからさ、な?7割方両片思いだから。7割方」
  残り3割は何処行った。
「わからないからこそ、今日のビッグイベントで確かめるんだ!落とせ!」
  バッチン、と先程より強く背中を叩かれた。




  ハヤトはふぅ、と息を吐いて、広間の端に移動した。
  やっぱり、俺には場違いな場所なんじゃないかなぁ、ときらびやかな舞踏会会場の隅で思った。
「あ、ハヤト君!ようやく見つけた!」
  聞きなれた声に振り向くと、そこにいたのは綺麗に着飾ったアヤネがいた。
  薄い水色のおしとやかなドレスに頭には実に可愛らしくきらきらとした小ぶりのサークレット。
  ハヤトは言葉を失って赤面した。
  ここは似合ってる、とか可愛くとか言うべきなのだろうが、あいにく、うぶなハヤトにそんな機転は回らない。
  代わりに正に華族というような箱入り娘の笑顔を浮かべたカコがアヤネの肩に手を置いて「ハヤトさん、アヤネちゃん凄く似合っているでしょう?」と促してくれた。
「ああ、凄く似合っているよ」
  ようやく言ったハヤトの感想に不安げだったアヤネの表情が一変した。
「良かった。ずっとちょっぴり心配してたの」
  照れ笑いを隠すようにアヤネはドレスの裾に視線を向けた。
「あ、あのね、ハヤト君も、その、あの……」
  もじもじしてしまったアヤネの言葉をカコが代弁する。
「ハヤトさんも似合ってますよ」
「あ、ああ。ありがとう」
  誉められ慣れていないハヤトは少し戸惑った様子で礼を言った。
「王国騎士団の方って聞いて、果たしてマナヤさんの服で大丈夫か心配だったんです。ほら、あの方はスピードやヒット数を重視の闘い方をする速攻型のヒトだから……一般的な兵士さんや騎士さんより少々、華奢でしょう?」
「そうですね。自分もどちらかというと攻撃の速さを意識している槍使いですので、できるだけ体重は軽く、かつ効率的な筋肉をつけを行っているので、そのせいかもしれないです」
  シュウトに習った通り、丁寧な言葉遣いと振る舞いを意識しているハヤト。その姿は華族と比べても見劣りはしない。ハヤトはやればできる子なのだ。
「マナヤさんよりはハヤトさんの方がやっぱりガッチリしてますけどね」
  カコは口元に手をあててクスリと笑った後、アヤネになにかを耳打ちし(アヤネはぶんぶんと首を横に振って頬を赤らめていた)、では、楽しんで頂けると幸いです、とだけ言い残して別の人の元へ去って行った。
  おそらく、華族には華族の社交辞令があるのだろう。
  2人残された一般人は顔を見合わせて途方にくれる。
「どう……しようか」
「取り敢えず……食事でもとらせて貰おう」
「ハヤト君がそう言うなら」
「えっと、じゃあアヤネは何が食べたい?取ってくるよ」
「え、わざわざいいよ」
「アヤネは人混みが苦手だろ?」
  なんてことはない様子でハヤトは笑う。
「じゃ、じゃあ、パンをお願いしようかな」
「わかった。ここで待っててくれよ」
  そう言ってシャンデリアの下の長テーブルへと向かう。どうやら、バイキング形式のようだ。
  小さなお皿を手にとり、一つだけパンをのせる。シュウト曰く、ひとつの皿に食べ物はひとつしかとってはいけないそうだ。なんともまあ、難儀なものだ。
  高そうなパンをのせた皿を慎重に持ちながらハヤトは軽やかな動作で人を避けながらアヤネのもとへと向かう。
「……?」
  ちょっと目を離した隙に、アヤネは上品な男性に絡まれていた。(いや、絡まれているという言葉には語弊があるかもしれないが、ハヤトにはそう見えたのだから仕方がない)
  ハヤトが近くに来たことに気づいたアヤネがとたとたと寄ってきた。そして、突如、ハヤトの背中に抱きついて、言った。
「あ、あの、ごめんなさい。わ、私には、もう私の王子様がいるんです……」
  知らない人が駄目なアヤネが精一杯、初対面の男性に訴える。
  華族の男性は諦めたように肩をすくめると、「彼女に王子様がいたとは、通りでなびかないわけだ」と皮肉の欠片も、残念な様子もなく笑って別の女性の元へと去って行った。
  男性が去って行ったのを確認したアヤネはそろそろとハヤトから離れてごめんね、と言った。
「その、一緒に一曲どうですか?って言われて……でも、上手く断れなくて、それで」
「王子様……かぁ……」
  ぼそり呟くとハヤトは側のテーブルの上にパンののった皿を置いた。
  突然の彼の行動に呆気にとられたアヤネの指先を掴み、王子か騎士がするようにそれを下から持ち上げてから、「踊って頂けますか、お姫様」と口にして。慌てふためいた彼女の否定の言葉を面白げに聞き流し、手をとった。
「ほら、行くよ」
  わざとアヤネより前に出て、たくさんの人を避けるようにして、緩む口元を隠した。戯れめいて伸ばした手はしっかりと彼女に繋がれては揺れる。
  指先がくすぐったいような、熱いような気がした。それがどちらの熱だかは知るよしもない。
  そのまま二人は舞踏会会場の真ん中の広間へと向かっていった。
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