極悪魔女は英雄から逃亡する 〜勇者を求め逃げ続ける魔女と、彼女を溺愛し追い続ける英雄の、誤解から始まる攻防〜

望月 或

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23.魔女の過去 ――三人の旅路

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 『移動ロール』を使ってサブルフェード帝国に連れて来られたスティーナは、帝都近くで暴れていた巨大な魔物と対峙した。
 ブラエの手筈通りに、なるべく派手で目立つ魔法を使って一撃で倒す。
 凶悪な魔物を瞬殺した女魔道士の噂は一気に帝都内に駆け巡り、それが皇帝の耳に入るのは時間の問題だった。

 そして順調に事は進み、スティーナは無事に勇者の仲間として迎え入れられる事になった。

 それから数日後、トゥディルム神殿の謁見室で、スティーナは初めて勇者と対面した。

「スティーナ・ウェントル、だったな? 初めましてだな、オレはラルス・フォルティマ。年は二十四だ。よろしくな」

 長身で引き締まった体躯。癖っ毛の短い金髪に、澄んだ大空のように鮮やかな蒼色の瞳。ニッと笑う顔は無邪気な少年のようで。
 勇者と言えば、もっと偉そうで高飛車なイメージを持っていたスティーナは面食らってしまった。

「は、はい……。よろしくお願いします……」
「タメ口でいいぜ? その方がオレも気が楽だし。年上だからって気にすんなよ?」
「は……う、うん……」
「よし、素直でいい子だ。で、こっちにいるのが、イグナート・エレシュム。オレの幼馴染で友人の、もう一人の仲間だ。えーと、歳は確か二十一……だっけ?」
「忘れるなよ……。どれだけ一緒にいると思ってんだ」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」

 からからと笑うラルスの隣で仏頂面を見せているのが、アクア色の髪を後ろで一つに束ね、パープルの神秘的な瞳を持つ美青年、イグナートだった。

(仲、良いんだな……。私も勇者と仲良くなれるかな……。でももしなれたとしても、最後は殺さなきゃいけないし……。……やれるかな……。――ううん、やらなきゃ。もう一度、私の家族と一緒に暮らす為に)

「……スティーナ? そんなに見つめられると、流石のオレも照れちゃうぜ?」
「あっ……ご、ごめんなさい」
「いや? こんな可愛い子に見つめられて、男冥利に尽きるってな」
「またお前は軽々しくそういう事を言う……」
「お前が堅っ苦しいだけだろ~。もっと柔らかくなんなきゃ女の子にモテないぞ? 折角カッコイイのに勿体無いぜ?」
「空の広さより大きなお世話だ」

 くだらない言い争いを始めた二人が可笑しくて、スティーナは思わずクスリと笑ってしまう。
 二人はそれを見てお互いに顔を見合わせ、また彼女の方を向いた。

「……お前、そういう顔も出来るんだな」
「すっげぇ可愛かったよな?」
「え? ……え?」
「いや、そんな顔をこれからもっと見せてくれって事で、今後ともよろしくな!」


 こうして三人は常に共にいるようになった。
 魔界へ行く為の『移動ロール』を作成するのに月日が必要との事で、完成を待つ間、ラルスの希望で、魔物で困っている人達を助ける為にあちこち旅をした。

 一緒に旅をして分かった事は、ラルスは本当にお人好しで、困っている人が目の前にいたら放っておけず、例え急ぐ用があっても助けるのだ。
 イグナートはそんな彼に文句を言いながらも補助をする。気心の知れた仲のようで、お互いを大切に想い合っている事が伝わってきた。

(……そっか、この二人は多分――)

 もう一つ分かったのは、ラルスは自分の力を過信していない。時間を見つけて修練している姿や、イグナートを相手に剣を交えている姿を何度も目にしている。
 勇者という肩書きに驕る事もなく、素直にすごいな、とスティーナは思った。

 ラルスは気さくな性格で、スティーナにも気軽に話し掛けてきた。
 人間界は魔界と生活が似ている所があるが、節々で違う点もある。
 スティーナは度々とんでもない間違いをし、ラルスには笑われ、イグナートには呆れられていた。
 今まで周りに接点を持たず、家族だけで暮らしてきた事も、スティーナの世間知らずを助長していた。

「箱入り娘だったのか、お前? よくそんな知識で生活出来てたな~。ある意味尊敬するわ」

 と、ラルスにも感心(?)されたほどだ。
 けれどそういう軽口を叩きつつも、スティーナが失敗をする度、ラルスはいつも優しく教えてくれたのだった。


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