極悪魔女は英雄から逃亡する 〜勇者を求め逃げ続ける魔女と、彼女を溺愛し追い続ける英雄の、誤解から始まる攻防〜

望月 或

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24.魔女の過去 ――日に日に募る苦しみ

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 イグナートは、突然仲間になった彼女を訝しんでいるのか、暫くは堅苦しい態度のままだった。

 この前、イグナートが魔物との戦闘で負傷してしまった事があった。スティーナがすぐに駆け付け回復魔法で治した時、

「……助かった」

 とぶっきらぼうに言われ、顔を見ると目を逸らしているが少し頬が赤くなっており、照れていると分かってクスリと笑ってしまった。

「……何で笑うんだよ」
「ううん。また怪我したらすぐに呼んでね。痛いのは、とても……辛いでしょう?」

 そう言ってスティーナはふわりと微笑むと、イグナートは顔を赤くし、ビキッと固まってしまった。

「……どうしたの?」
「…………いや、何でもない」
「うん……?」

 その日から、イグナートの態度が少し緩和したように感じたのは、彼女の気の所為だっただろうか。


 エメラルド色の子供ドラゴン、エルドと出会ったのもこの頃だ。
 凶暴で屈強な魔物に襲われ、大怪我して横たわっていたのをスティーナが回復魔法で治したのだ。魔物はラルスとイグナートによって倒された。
 それがキッカケで子供ドラゴンがスティーナに懐き、彼女も楽しげにドラゴンとお喋りしていた。

 ラルスとイグナートは、スティーナが一方的にドラゴンに話し掛けてると思っていたが、実際は普通に一人と一匹で会話していた。
 スティーナはドラゴンの言葉が分かるのだ。魔族には、稀に魔獣やドラゴンと話せる者がいるのだが、彼女がそれに当てはまった。

 子供ドラゴンは、親がどこかに行ったまま戻ってこない、まだ名前が無いと言うので、スティーナは名付けについて二人に訊いてみる事にした。

「この子の名前を付けたいんだけど、どんな名前がいいかな?」
「名前ねぇ……。んー……そうだなぁ、『ドラ坊』なんてどうだ?」
「ドラゴンを略して『ドン』でいいだろ」
『やだーっ! どれもやだーっ!!』
「……あの、私が決めていいかな……? エメラルド色から取って、『エルド』はどうかな……?」
『カッコイイ! それがいいーっ!』
「……オレ達の時は怒ってたのに、スティーナが付けた名前にはめっちゃ喜んでるな……。何だよ、『ドラ坊』かわいいじゃん~」
「『ドン』、言いやすいのにな……」
「あはは……」

 エルドは『スティについてく!』と言ったが、子供ドラゴンは魔物に襲われやすく、ラルス達は強力な魔物達を日々相手にしている。
 一緒に行くのは危険だと判断した三人は、ここで別れる事にした。

「じゃあね、エルド。自分の棲み家にちゃんと帰るんだよ? もしかしたらお父さんやお母さんが戻ってくるかもしれないから。大きな魔物が出てきたら、すぐ逃げる事! もし困ってる人がいたら守ってあげてね? また会いに来るから」
『……うん、分かった。ボク、スティが会いに来るのずっと待ってるね!』

 エルドと別れた後、寂しそうにしていたスティーナの頭を優しく撫でてきたラルス。


 スティーナは、彼に少しずつ心を許している自分を感じていた。
 それと比例して、心の重苦しさがどんどんと増していく。

(……いずれラルスを殺さなきゃいけないのに……。私は、どうしてこんな――)

 スティーナは、「決して離さずに付けていなさい」とブラエから渡された腕輪に目を落とす。
 赤い色の、何の飾り気もない簡素な腕輪だ。
 本当は今すぐにでも投げ捨てたかったが、家族の命が掛かっている為、無闇な行動は出来ない。


 その腕輪が、ずっしりと岩のように重たく感じた……。


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