初夜開始早々夫からスライディング土下座されたのはこの私です―侯爵子息夫人は夫の恋の相談役―

望月 或

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13.波乱のパーティー

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 第一皇子主催のパーティー当日。
 私は旦那様の用意してくれたドレスと装飾品を身に付け、お化粧もバッチリして貰い、我ながら別人のように綺麗になった……と思う。

 シルヴィもパーティーに出席するので、先に皇城へと向かって行った。


 支度が終わった時、扉からノックの音が聞こえ、正装した旦那様が姿を見せた。
 私のドレスと同じ色合いのウエストコートとコートをバッチリ着こなし、髪を整え、美麗な顔も相まって眩し過ぎて目を開けていられない。
 私の支度をしてくれた使用人さん達も、前に手を翳して目を思い切り細めている。両目を押さえて呻きながら蹲る使用人さんもいた。


 旦那様っ、そのキラキラオーラを今すぐに封印して下さい!! 皆の目がやられてしまいます……!!


 そんな旦那様は、私を見てポカンとした表情をしている。


「だ、旦那様……?」


 私が不思議に思い声を掛けると、何と旦那様がライトグリーンの瞳を潤ませ、ポロポロと泣き始めたではないか!!


「……ぼ、僕とお揃いの色のドレスが似合い過ぎて……。リファレラが綺麗過ぎて可愛過ぎて……。い、今……この場所この日この瞬間に僕という個体が存在して良かった……。い、生きていて……産まれてきて良かった……う、ううぅっ……」



 ――おっ、大袈裟過ぎませんか旦那様ぁっ!?!?



 私はメソメソと泣いている旦那様を馬車に乗せ、ハンカチで涙を拭きつつ宥めながら、皇城へと向かったのであった――




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「サオシューア侯爵並びに侯爵夫人、侯爵令息並びに侯爵令息夫人の入場です」


 私達の入場の番となり、旦那様と腕を組んだ私は、彼のお父様とお母様の後に続いて会場に入ると、周りが大きくどよめいた。
 皆、旦那様に目が釘付けだ。そりゃそうよね、あの髭もじゃらの下に、こんなに美形な顔を隠し持っていたんだものね……。


 私達は玉座に座る皇帝と皇后に挨拶をすると、その両脇に座るトリスタン様とシルヴィにも挨拶をした。


「よく来たな。時間の許す限り、存分に楽しんでくれ」


 トリスタン様はそう言うと、ニッと綺麗な歯を見せて笑った。


 ……この、笑顔……。シルヴィが何かを企んでいる顔によく似ているわ……。


 私がシルヴィに目を向けると、彼女は私の視線に気付き、兄と同じようにニコリと笑った。


 その企む顔が二人共とてもよく似てるのよ!! 頼むから平穏無事に終わらせてよねっ!?


 私は二人に『平穏大事!! 平穏万歳!!』と視線とジェスチャーで訴えると、その場から離れる。
 後ろから「ブフッ!」と吹き出す音がしたけれど、聞かなかったことにした。
 旦那様のお父様とお母様は、他の貴族のところへ挨拶に向かった。


 ……それにしても、さっきから沢山の視線が刺さりまくってるわ……。特に女性の……。グサグサッと痛い痛い……。
 あぁ、今日だけ髭もじゃらを復活させる魔法があれば良かったのに……。

 そう思いながらパートナーである旦那様を見上げると、彼はいつからそうしていたのか、私をジッと見つめ微笑んでいた。


「さっきは感情が高まってしまって言えなかったけど、すごく綺麗で素敵だよ、リファレラ。僕の選んだドレスと装飾品も君にとてもよく似合ってる。本当に最高だ。いつまでも君を見つめていたいよ」


 ヒエェッ!? そんな歯の浮く台詞、何処で覚えてきたんですかぁ旦那様っ!?

 そこで最後に、


「君の太陽のような煌びやかな瞳にカ・ン・パ・イ☆」


 ってウィンクパッチーン☆ 決めていたら、流石の私でも


『ズッキュゥーーンッ☆』


 ってハートを貫かれていたかもしれないわ……。危ない危ない。


「あ、ありがとうございます。旦那様もとても格好良いですよ。眩しくて目を開けていられないほどです」


 比喩じゃなくて本当にね!? 被害者は私と使用人さん達!!


「ははっ、ありがとう。君にそう言って貰えて、本当に天にも昇る気持ちだよ」


 くぅっ、満面の笑顔までもが眩し過ぎる! 今すぐ貴方の体内のキラキラ発生装置の電源を切って下さい!



「グラッド様ぁ!!」



 その時だ。聞き覚えのある甲高い声が飛んできて、オーカー色の髪の女がこちらに向かって駆けてきた。
 髪はすぐに見て分かるほどにチリチリで、あちこちが傷んでいる。
 旦那様から、あの女は髪を赤く染めていたと聞いていたから、きっと使った塗料に髪が負けてしまったのだろう。



 ……やっぱり現れたわね、エリーサ・ストラン!!



「グラッド様、そんな……とてもステキで麗しいお顔をお持ちだったのですね。それが分かっていたら、アタシ――」


 エリーサは頬を染め瞳を輝かせながら、挨拶も無しに一方的に喋り始めた。
 この女、本当にマナーがなっていないわね……!


「……何の御用でしょうか? 貴女と僕はもう何も関係ない筈ですが。御用がないならお引き取り願えますか」


 旦那様が冷めた目でエリーサを見下ろす。
 エリーサはその冷たい瞳に一瞬たじろいだけれど、負けずに声を張り上げて言った。


「何でそんな冷たいことを言うんですかっ!? アタシ達、あんなに愛し合った仲だったじゃないですかっ!! 逢瀬も数え切れないくらいにして、身体も重ね合って!! 奥様と離婚したら一緒になるって約束もしたじゃないですか!! すぐに離婚するから待ってろって!! それなのに……っ!」


 エリーサの叫びが会場中に響き渡り、一斉にシン……と静まり返った。


 旦那様は眉間に深く皺を寄せ、奥歯を強く噛み締めている。ギリッと歯が鳴る音が聞こえた。


 腕を組む場所から、彼がカタカタと小刻みに震えているのが伝わってきた――





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