冷徹公爵様にお決まりの「君を好きになることはない」と言われたので「以下同文です」と返したら「考え直してくれ」と懇願された件について

望月 或

文字の大きさ
6 / 16
◆本編◆

6.イジワル義妹さん登場

しおりを挟む



「あっらぁー? ごめんなさーい。存在感が薄過ぎて、そこにいるのが全っ然分からなかったわー?」


 せせら笑いながらそう言ってきたのは、ヴァルフレッド様の義妹で、彼と相思相愛と噂されているジェニーさんだ。
 彼女はヴァルフレッド様の継母様の娘で、彼のお父様と継母様が五年前の馬車の事故で亡くなってからも、この公爵家の屋敷に一緒に住んでいるのだ。

 確か彼より四歳年下だったはずだから、私より二歳年上の二十五歳だ。
 もう立派な大人なのに、私に対して物を隠すなど地味~な嫌がらせをしてきて、今もこんな調子だ。
 まぁその嫌がらせがホントに子供じみてて、使用人さん達も苦笑するレベルで。


 それに、私は前世でそういった内容の小説を沢山読んできたから、「今度はどんな嫌がらせをしてくるんだろう? 私の知らない嫌がらせあるかな?」って、面白さも感じていた部分もあったから、今まで笑って許せてきたんだけどね。


 恋人を取られた悔しさからだろうけど、そんな嫌がらせをしても自分が惨めになるだけなのに、そこら辺分からないのかしら……。


 ……と、憎まれている私が彼女を諭しても、逆に火に油を注ぐだけなので黙っている。


「ジェニー様」


 咎めるように、ローレンさんがジェニーさんの名前を口にすると、彼女はキッと私を睨みつけてきた。
 兄妹共に睨みつけられる私……。そんな共通点なんていらないわ……。


「何よ、この泥棒ネコがいけないのよ! アタシとお義兄様はお互いに好き合ってるのよ!! アタシが訊く度、いつもお義兄様は『好きだよ』って言ってくれるもの! それをこの女が横から割り込んできて! アンタとは早々に別れて、アタシ達は近い内に結婚するんだから! あの婚姻式のキスだって、お義兄様はホンットに仕方なく、嫌々ながらしたに決まってるわ!! 意地汚い泥棒ネコは引っ込んでて!!」
「っ!? ジェニー様、何てことを仰るのですか……!!」


 泥棒ネコ……。猫、かぁ……。
 実家にいた頃、よく家に来ていた人懐っこい猫ちゃんと遊んでたなぁ。あの猫ちゃん元気かしら? 毛並みが艷やかで綺麗だったから、どこかの飼い猫だと思うけど……。

 頭の良い猫ちゃんで、来る度に私の膝の上に乗って丸まって、話し相手になってくれてたのよね。私が話す度「にゃあ」って相槌を打って。
 他の猫ちゃんと違って抱っこが好きで、胸の中に抱きしめると目を瞑って喉をゴロゴロ鳴らして可愛かったなぁ。

 私の結婚が決まった時から、何故かパッタリと来なくなってしまったけれど……。
 あの猫ちゃん、また会いたいなぁ……。


 ――っと、今は目の前のジェニーさんを何とかしなきゃ。私があーだこーだ言われるのは別にいいんだけど、私達の間に立っているローレンさんが可哀想だもの。

 興奮状態の彼女に、政略結婚の説明をしても聞く耳持たずだろうし、ここは私の気持ちを正直に話しますか……。


「……この結婚の前に、お二人の仲の噂は聞いていました。政略結婚とはいえ、あなたの恋人を奪ってしまったことは申し訳なく思っております。愛し合うお二人の邪魔をする気は毛頭ありませんし、すぐに離婚出来るかどうか、公爵閣下にお伺いしてみますね」


 先日、ヴァルフレッド様とジェニーさんが並んで歩いているところを見掛けたのだけれど、彼は優しい表情で彼女を見ていた。時折微笑みながら。
 私と全く正反対の態度に、改めて思ったのだ。


 ――あぁ、この婚姻は間違っていたのだ、と。
 私の私利私欲で受け入れた結婚の所為で、二人に苦しく切ない思いをさせてしまっている、と。


「お、奥様……。そ、そんな……。そのように思って……!?」


 ローレンさんが何故か大きくショックを受けてよろめいている隣で、ジェニーさんは勝ち誇ったように口の端を大きく持ち上げる。


「何よ、ちゃんと分かってるじゃない。お義兄様に訊く必要はないわ。アンタと別れるって絶対言うはずだもの。だからさっさと離婚して――」
「“離婚”……だと? 一体何の話をしているんだ?」



 その時、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
 振り向くと、何時の間に現れたのか、ヴァルフレッド様が眉間に皺を作り、不機嫌な表情で腕を組みそこに立っていた。



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処理中です...