冷徹公爵様にお決まりの「君を好きになることはない」と言われたので「以下同文です」と返したら「考え直してくれ」と懇願された件について

望月 或

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◆本編◆

8.続く言葉は……

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 見上げると、同じくこちらを見ていた彼と至近距離で目が合う。
 今度は睨んでなどなく、何だかとても悲しそうに眉尻を下げていた。


「すまない……アディル」


 一言そう呟くと、自分の部屋に着くなり私をベッドの端にそっと降ろす。
 そして上着を脱いでラフな格好になると、私のすぐ隣に座り、間も置かずギュッと強く抱きしめてきた。


「!?」


 突然の彼の行動に驚く私は、この温もりの異様な既視感……いや既触感? にも驚きが隠せない。
 そして毎晩眠っている時に、これと同じ温もりを感じていたことに気が付いた。
 布団の温もりじゃなく、人の体温の温もり――


(ま、まさかヴァルフレッド様……帰って来てから私を抱きしめて寝てたの!?)


「本当にすまない、アディル。俺は多忙にかまけて、君との時間を疎かにしてしまった……。『夫婦』になったのだから、いつでも君との時間を作れると仕事を優先してしまった……。今優先するべきなのは、仕事より君との時間だったのに……。ジェニーの件も含めて、俺の無知と愚かさの所為で君を酷く深く傷付けてしまった……。本当に……どのように詫びたらいいのか……」
「い、いえ、大丈夫ですよ。どうかお気になさらずに」


 傷付いてなんかなく、寧ろ使用人さん達と楽しく過ごしていましたよ? ジェニーさんの悪戯や意地悪は笑い話にしてたし。
 公爵夫人の勉強は大変だけど、沢山の新しいことを覚えられて達成感と充実感もあったし。

 たまにヴァルフレッド様を忘れる時があったりもして……なーんて、この雰囲気では絶対に言えないわ!?


 私は安心させるようにニコリと笑うと、それを見たヴァルフレッド様は、どうしてか顔をクシャッとさせ泣きそうな顔になった。
 

「……君は……本当に……。――アディル、最後まで聴いて欲しいことがある。俺が言い終わるまで、何も言わずに聴いていてくれないか? 頼む……」
「え? あ、はい……」


 至極真剣な顔つきで、ヴァルフレッド様は震える唇を開いた。



「君を好きになることはない」



 あ、それ初夜に聞きましたけど。
 義妹さんがお相手じゃなかったみたいだし、他に別のお相手がいるのかしら?

 くぅっ……。ツッコみたいけど、約束したし我慢我慢……。


「君を好きではなく、――あ」


 ……“あ”?



「ああああ」



 ちょっ!? どうしたっ!?
 RPGのゲームで主人公の名前を適当に付ける人になってるけどっ!? 

 
「い」


 ……“い”?



「いいいい」



 今度は仲間の名前を適当に付け始めたっ!?
 きっと戦士ね!?
 次の仲間の名前は「うううう」かしら!?
 きっと僧侶だわ!



「し」



 あっ、違った!
 一文字だけだと何か怖い言葉!



「てる」



 “てる”? てるてる坊主? この世界にもあったの? 作って欲しいの?



「……んだ」



 “んだ”? 日本の方言!? “そうだ”、って!? てるてる坊主作れって!? 明日は楽しい遠足の日かな!? 先生! バナナはオヤツに含まれますか!?



 ――って、さっきから一体何なのっっ!?



 ……ん? ちょっと待って?
 今言った言葉を続けて読むと……?



「あ、ああ……あ――『愛してるんだ』……!!」



 私が口にするより早く、ヴァルフレッド様が先に言葉を繋げてくれた。


「え……? あ、あい……?」
「い……言えた! やっと……やっと君に言えた……!!」


 ヴァルフレッド様は何故か感無量といった感じで、私を強く抱きしめてくる。


「そうだ、君を好きになることはないんだ。“好き”ではなく、もう“愛して”しまっているのだから。君を、本当に心から愛しているんだ!!」
「え……ええぇっ!?」


 私はヴァルフレッド様の世紀の大告白にビックリ仰天だ。


「あぁ……。やっと君に言えた……。『愛している』、と……。君に言いたくても言えなかった言葉を、やっと……やっと……」
「……? それは……どういうことですか……?」
「……。実、は――」


 ヴァルフレッド様は、ポツポツと理由を説明してくれた。
 彼のお父様は浮気性で、実のお母様以外の女性に簡単に「愛している」と言っていたそうだ。
 そんなお父様の姿を目撃する度、お母様は悲嘆に暮れ、ヴァルフレッド様は自分の母親に辛い思いをさせる「愛している」という言葉を次第に嫌い、憎んでいった。

 結局、お母様は耐え切れず離婚し家を出て行ってしまい、ヴァルフレッド様はいつの間にか「愛している」の言葉が言えなくなっていて、言おうとすると身体が拒絶し、口が固まってしまっていたそうだ。


 初夜の時に自分の気持ちを伝えようと決意していたのに、いざとなるとやっぱりその言葉が出てこなくて、固まっていたところに私からの「以下同文」の台詞を貰ってショックを受けた……ということだった。


「ご、ごめんなさい! その台詞に続きがあるなんて知らなくて……!」
「いや、いいんだ。君はあの噂を信じて、俺を想ってそう言ってくれたんだろう? 最初に誤解を招く言い方をした俺が悪かった」


 ……ウン、ホントニネ!!



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