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31.終わりにしましょう
お店までの道中をゆっくりと歩きながら、私はリュシカさんと色んな話をした。
彼女は素直で、とても良い子だと感じた。
「リュシカさん、本当に王様のもとへ行っていいの? その、貴女にお相手は……?」
「いえ、いません。そこは心配いりませんよ」
「そうなの? こんなに可愛くて良い子なのに、周りの男達は見る目がないわね、全く!」
「あははっ、そう言ってくれて嬉しいです」
「ふふっ。でも、大丈夫……? その、噂では王様は好戦的だって……」
「はい、戦争をしたがっていると私も耳にしました。気性が荒い性格だとも」
「えぇ……。だから正直、貴女の事が心配だわ」
私の言葉に、リュシカさんはニコリと微笑む。
「初めて会った相手を心配してくれるなんて、リシィさんは優しいですね。勿論不安はあります。けどあたし、噂に振り回されたくないんです。実際会って、あたし自身の目で王様を見てみようと思います。それでもしも噂通りの人だったら、“番”の特権で叱り飛ばしてやります!」
「まぁ……リュシカさん、とても格好良いわ!」
「えへへ……。とか言って、内心ビクビクですけどね。でも、しがない平民のあたしが王様の“番”に選ばれたんだから、光栄でもあります。精一杯、自分の出来る事をやれたらなって思います」
「すごく素敵ね、心から応援してるわ! でも辛くなったら、いつでも周りに頼っていいのよ。決して一人で抱え込んじゃ駄目よ」
「はい、ありがとうございます!」
リュシカさんは、とても前向きに“番”を受け入れてくれている。
(そんな彼女の想いを妨害する事は絶対にさせやしないわ……!)
「ね、リュシカさん。一つお願いいいかしら?」
「え? はい、あたしに出来る事なら」
「実は――」
*・。*・。*・。*・。*・。*・。
お店の前でリュシカさんと手を振って別れ、私は屋敷への帰路に就く。
「リュシカさん、とても良い子だったわね。私、絶対にあの子を死なせたくないわ。だから必ずクローザムさんを止める。ユーク、頑張りましょうね」
「あぁ。アイツを殺してでも止めてやるよ」
ユークの真剣な声音に、私はギョッと上を向く。
「ちょっと、何言ってるの!? 殺すのは駄目よ! 貴方の唯一の家族でしょ!? 何とか捕まえて動きを止めるのよ!」
「それが出来たら今までアイツを逃がしはしてねぇよ。オレはガキん時からアイツに勝った試しはねぇんだ。魔力を増幅し、属性関係なく術を使える秘術をオレに掛けているが、それでもアイツに敵わねぇ」
「そんな術を……。だから貴方の魔力はそんなに凄いのね……」
「……まぁな。今までは躊躇していたが、覚悟を決める。もうこれ以上アイツに罪を重ねて欲しくねぇ」
「ユーク……」
ユークは本気だ。次にクローザムさんに会った時、全力を尽くして彼と対峙するだろう。
それはきっとクローザムさんも――
(どうしよう……。ユークとクローザムさんとの間に、何の力もない私が割って入れるはずないわ。このまま黙って二人の対決を見ているしかないの……?)
自分の思考に没頭して、私は民家の角を曲がる時に前を見ていなかった。
「きゃっ」
ドンッと何か柔らかいものにぶつかったと同時に、女性の短い声が聞こえた。
人とぶつかってしまったのだ。
「あっ、ごめんなさい! 前を見ていなくて……。大丈夫ですか!?」
私は尻餅をついてしまった女性の側に慌てて跪き、怪我をしていないか確かめる。
「あ、大丈夫です。驚いただけなので……。こちらこそすみません。この町に来るのは初めてなので、キョロキョロしていて前に人がいる事に気付きませんでした」
女性はそう言うと顔を上げ、私を見る。
私とユークは彼女の顔を見、同時に鋭く息を吞んだ。
「あ、貴女は――」
*・。*・。*・。*・。*・。*・。
「いってきまーす」
夕方近く、リュシカさんは両親に声を掛け外に出掛ける。
そして町外れにある丘へと向かった。
彼女は暇があれば丘の上に行き、そこから見える景色を眺めるのが気分転換の一つになっていた。
丘に着くと、リュシカさんは早速草原に腰を下ろし、徐々に地平線へと沈んでいく夕日を眺めた。
「――こんにちは、お嬢さん。こんな所で一人でいると危ないよ」
不意に後ろから男性の声が飛んできた。リュシカさんは振り返らず、赤紫色の空を見つめながら言葉を返す。
「大丈夫ですよ。魔物はいませんし、ここは平和な町ですから」
「そうだね、ここは確かに良い町だ。でもこの国の王が戦争を行う事によって、君の住む町がなくなるかもしれない」
「…………」
「君はそんな野蛮で愚かな王の“番”として、彼の妃になってもいいのかい? この国を戦争によって不幸にさせる王の妃に。僕なら君を助けてあげられるよ。逃げたければ手を貸そう。王を殺したければ僕が素晴らしい案を提供してあげる。大丈夫、君は何の罪にも問われない。保証するよ」
「…………」
リュシカさんは男性の話を黙って聞き続けると、徐ろに立ち上がった。
「……そうして私に王と殺し合いをさせ、貴方はそれを高みの見物でニヤニヤしながら眺めるのね。本っ当悪趣味だわ」
「……は?」
そして、リュシカさん――否、『私』は身体ごと男性――クローザムさんの方へ向く。
私の顔を見て、クローザムさんの両目が大きく見開かれた。
「君は……、あの時の……!」
――そう。
リュシカさんと私は、背格好がよく似ていたのだ。
髪の長さと色もほぼ同じで、声音も似ていて。
クローザムさんは既にリュシカさんの行動を把握していると読んだ私達は、彼女に「貴女を王のもとへ行かせないように妨害する者がいる。それを阻止したい」と話して協力を仰ぎ、彼女の服を借りて成り代わったのだ。
リュシカさんが一人になる時を見計らって声を掛けてくるだろうと推測して。
時間を、薄暗く視界が見え難くなる夕方に選んだのも、クローザムさんを騙す大きな手助けとなった。
「クローザムさん、貴方のやり方は間違ってるわ。獣人が皆、コバルテリナ王国の王子みたいに愚か者じゃない。“番”に恋人や連れがいた場合、獣人の殆どが“番”と話をし、拒否されたら潔く諦めるわ。諦めた場合、第二の“番”が現れる可能性があるから。無理矢理“番”を奪おうとする獣人は極僅かよ」
「……君は……そうか、ユークリットから僕達の事を聞いたのか。内情を話すなんて、本当に君には心を許してるんだな。けど、赤の他人の君が何を言ったって無駄だよ。僕の“復讐”はこれからも続ける。僕の心に、獣人に対する憎しみがあり続ける限りね」
「……そう、聞く耳持たないってわけね……」
私は深く溜め息を吐くと、真っ直ぐにクローザムさんを見つめた。
「――クローザムさん。もうここで終わりにしましょう」
私の声が、夕映えで赤く照らされる丘の上に響いたのだった――
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