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34.家族の絆 ※第三者視点
気付くと、クローザムとフィーシルは大きな川の前に突っ立っていた。
周りは草原で、枯れた木がポツポツと生えている。
目の前の川は流れは早くないが、歩いて渡れない位に深く、広い。
その向こうは真っ暗な闇が広がっていて、目を凝らしても何も見えなかった。
ふと視線をずらすと、ここから少し離れた場所に、小さな舟がこちら側の川岸につけてあって、そこに誰かが乗っているのが見えた。
その者はくたびれた灰色のローブを着て、フードを頭から深く被っているので、老若男女の区別がつかない。
手には船を漕ぐ為のパドルを持っていた。この川の渡し守だろうか。
あの者が川の向こう側に連れて行ってくれるのだろう。
「ここは……?」
フィーシルがキョロキョロと辺りを見回し、ポツリと呟く。
「ユークリット――君の叔父さんと一緒に書物で読んだ事がある。ここは『生と死の狭間』だ。この場所から、天国への道か、地獄への道か、行き先が別れる」
「へぇ……そうなんだ」
「フィーシル」
クローザムは愛娘の名を呼ぶと、その小さな手をしっかりと握った。
「……本当に……いいのかい?」
「えー? ここまで来てそれはないでしょ? お父さん」
「……そうだね、ごめん」
父子は顔を見合わせ、笑う。
「――あーぁ、来ちゃったね、お馬鹿さん二人が」
不意に後ろから女性の声が聞こえ、クローザムとフィーシルはバッと弾かれたように頭を振り向かせる。
そこに、片手を腰に当て、苦笑しながら立っていたのは――
「……ティ、ティール……?」
肩までのウェーブ掛かった橙色の髪と、同じ色の瞳。
『あの頃』と変わらない可愛らしい顔立ちの彼女は、忘れるはずもない――クローザムの愛する女性、ティールだった。
彼の両目から、ボロボロと涙が零れ落ちる。
「え……? お、お母さん……?」
「そうよ、フィーシル。すっかり大きく、美人さんになって……。今まで、本当によく頑張ったね」
「……っ! お母さんっ!」
フィーシルは目に涙を溜めながら駆け出すと、ティールに抱きついた。
「お母さん……お母さんっ! 会いたかった、すごく会いたかった……っ! ごめんね、わたしの所為でごめんね……っ」
「わたしも会いたかったよ、フィーシル。あなたの所為じゃないよ。わたしの方こそ、育ててあげられなくてごめんね。あなたの居場所は王子に絶対に言いたくなかったの。あなたを守る為なら、わたしの命なんて全然惜しくなかった。でも結局“ここ”に来ちゃったね、もう……」
「だって……あんなお父さんを一人にしておけなかったんだもの……。お母さんだってそうでしょ? だからここにいるんでしょ? 天国にいかずに、ずっとここでお父さんを待ってたんでしょ?」
「え……?」
フィーシルの言葉に、クローザムは大きく目を見開くとティールを見つめる。
「……そうなのか? ティール……。何もないこんな寂しい場所で、僕を……ずっと……?」
「だって、あなたってば暴走してとんでもない事をしでかすんだもの。そんなあなたを置いて向こうにいけるわけがないでしょ? 正気を取り戻してくれて本当に良かったわ」
「ティール……。――ごめん、本当にごめん……! 僕は……僕は本当に馬鹿で愚かな真似を――」
クローザムはその場に両膝をつくと、俯き身体を強く震わせる。
ティールは静かにクローザムのもとへ歩くと、その肩にそっと手を置いた。
「……あなたはこれから、罪相応の“罰”を受けなきゃいけない。人を沢山殺めて、色んな人達を沢山不幸にしてきたんだもの。当然だよね?」
「……うん、分かってる。どんなに苦しくても辛くても……僕は僕の【魂】を『浄化』出来るまで耐え抜く。耐え抜いてみせる。来世で君達と共に歩む為に。君達と心から笑い合える為に――」
「うん。だから待ってる」
「…………え?」
クローザムがキョトンとしてティールを見上げると、彼女はクスリと微笑んで口を開いた。
「あなたの【魂】が『浄化』され、またここに戻ってくるまで待ってる。最初からそのつもりだったしね」
「ティ、ティール……。でも、また寂しい思いを――」
「じゃあわたしもお母さんと一緒に待つよ! それならお母さんも寂しくないでしょ? 話し相手がいるんだから」
「フィーシル!?」
ティールとクローザムが同時に声を上げる。
「先に天国に行けなんて言わないでよね? わたし達、“家族”でしょ? お母さんと一緒なら、何年……ううん、何十年でも待てるよ。話したい事沢山あるし! でも流石に何百年はキツイかなぁ。エマおばさんも天国で待ちくたびれちゃうよ」
「ふふっ、お母さんも流石に何百年はキツイかなぁ。【魂】は年を取らないけど、気持ち的にヨボヨボのおばあちゃんになっちゃうわ」
「……ふ……ははっ。そうならないように、死に物狂いで頑張るよ。君達が待っていてくれると思うと、力が湧いてどんな辛い事でも乗り切れそうだ」
クローザムは涙でグシャグシャになった顔で笑うと、ティールとフィーシルを両腕で包み込んで抱きしめた。
「行ってくるよ。なるべく早く戻るから。――僕を見捨てないでくれて、本当にありがとう。心から愛しているよ、ティール、フィーシル」
「うん、わたしもよ。いってらっしゃい、クロム」
「頑張ってね、お父さん!」
クローザムはゆっくりと二人を離すと、決意を込めた表情で大きく頷き、踵を返して歩き出す。
振り返る事は、決してしなかった。
クローザムが川の渡り守の所まで来ると、向こうから声を掛けてきた。
「別れの挨拶は済んだか? オマエは完全な地獄行きだからな。……ふむ、【魂】の『浄化』を望んでいるようだな。オマエの罪なら……かなり過酷で悲惨な毎日が待っているぞ。あまりの惨さに血の涙、大絶叫は当たり前、【魂】がそれに耐え切れず塵となって消滅するかもしれない。それでもいいか?」
「構わない、頼む」
「……決意は固いようだな。分かった、乗れ」
クローザムはゆっくりと舟に乗り込む。
それと同時に舟が岸を離れ、動き出した。
ティールとフィーシルは手をしっかりと繋ぎ合いながら、その舟が暗闇の向こうに消えていなくなるまで、ずっと目を逸らさずに見送っていたのだった――
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