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22.捜査は行き詰まり ◇
しおりを挟むフォアレゼン公爵が“主犯者”だという尻尾は、やはりなかなか掴めなかった。
城の重鎮は職務を終えた後、国王に『日報』を提出する義務がある。
ゼベクが国王であるリオーシュに『日報』閲覧の許可を貰い、私とリオーシュが結婚してからの公爵の『日報』を確認しても、カトレーダと会っていたと思われる用事が何処にも無いのだ。
外出の用件も、他の者の『日報』と照らし合わせると辻褄が合っているし、怪しい点が見つからない。
それならば、公爵が休暇の時にカトレーダと会ったのかもしれない。
確認の為、ゼベクがシルヴィス侯爵家に赴き、お父様とお母様を安心させる点も含めて、カトレーダが唆されてリオーシュを誘惑した可能性がある旨を伝え、私が結婚した後の彼女の動向を訊いてみた。
お父様とお母様が言うには、カトレーダはいつも通りで、外出も「友達と会ってくる」や「買い物行ってくる」と、笑顔で楽しそうに出掛けて行って、不審な点は特に見当たらなかったそうだ。
もし公爵と会う約束をしていたなら、彼女は公爵と話した事も無いし、倍以上歳の離れた男性と二人きりで会うとなると、天真爛漫な彼女でも緊張して笑顔なんて出ないだろう。
それに妹はすぐ顔に出るので、暗い表情をしていれば、お父様達もいつもと違う事に気が付く筈だ。
「……簡単に尻尾を掴ませてくれないと思ってはいましたが、やはり手強いですね」
私の部屋にゼベクが訪れ、これまでの進捗状況と、公爵の証拠集めが難航している事を聞かされる。
何故か私はゼベクが来て早々、彼の肩の上に乗せられていた。
(何なの? また父親気分を味わいたいとか? ――あ、父親と言えば、お父様とお母様の様子はどうだったのかしら……? 落ち込んでなければいいのだけど……)
私が両親の事を考えていると、ゼベクがふと思い出したように口を開いた。
「そうそう、貴女の御両親ですが、落ち込んでる様子は見受けられませんでしたよ。貴女と貴女の妹は必ず意識を取り戻すと信じているようですね」
(お父様、お母様……)
下を向くと涙が零れそうだったので顔を上げると、ゼベクの目の下に隈がある事に気が付いた。
(あ……そうよね……。ゼベクは一人で調べてくれてるんだものね……。有難いけれど、無理はしないで欲しいわ。私にも何か出来る事があればいいんだけど……。役立たずでごめんなさい……)
思わずゼベクの頬をぽふりと触ると、彼は軽く目を見開いてこちらを見ていて、不意にニッと笑った。
「大丈夫ですよ、徹夜には慣れてますから。それに陛下の為とあれば何て事ないです。貴女に心配されるのは何だかこそばゆいですね。ありがとうございます」
ゼベクは目を細めてもう一度笑うと、私の頭をポンポンと軽く叩く。
そして、真面目な顔に戻り話を再開した。
「……宰相と貴女の妹ですが、奴の動向からして、恐らく直接は会っていないと思われます。そうなると、宰相ではない“誰か”が彼女に『媚薬』を渡した事になるのですが……」
(……っ! もしかして『協力者』……?)
「別の『協力者』……その可能性が高いですね。けれど、宰相なら陛下を誘惑するよう彼女を脅す事が出来るのですが、宰相の他にいるでしょうか? 彼女に対して言う事を聞かせられる人物が」
(そう……なのよね……。いくら素直なカトレーダでも、知らない人に「『媚薬』を飲ませて陛下を誘惑しろ」なんて言われたら警戒するに決まってるわ。公爵と関わりがあって、カトレーダの知っている人物? そんな人いたかしら……)
「……何にせよ、今の所手詰まり状態ですね……。『協力者』が分かれば、一気に解決に光が見えてくるのですが……」
……ゼベクはさっきから、私の頭を撫でたり毛糸の髪の毛を引っ張ったりしている。無意識なのか、手持ち無沙汰なのかは分からないけれど……。
(頭を撫でるのはいいんだけど、髪を引っ張るのは止めて欲しいわ! 地味に痛いのよっ。痛覚もちゃんとあるのよっ。貴方にもこの痛みを味わわせてあげるわっ)
私がゼベクの頭をポカスカ叩くと、何故か彼は嬉しそうに「ふはっ」と笑った。
「それ、貴女のモコモコの手ですると逆に気持ち良いですよ。もっとやって下さって結構です。――あぁほら、貴女にも出来る事があったじゃないですか。『俺を気持ち良くさせる』って事が」
(はぁっ!? 貴方を気持ち良くさせたって何の得にもならないのよっ!)
更に強くポカスカ殴っても、ゼベクは何処吹く風で楽しそうに笑っている。
その時、扉からコンコン、とノックの音が聞こえ、私は慌てて動きを止めた。
そして間も置かず入ってきたのはリーデルだった。
「…………」
リーデルは、肩の上にリーエちゃんを乗せている大の男のゼベクをあんぐりと口を開けて見つめる。
(……っ! そうよ、リーデルに変な目で見られて多大な羞恥を味わって頭を抱えて蹲るといいわっ! 私の髪の毛を引っ張った罰よ! フンだっ!)
するとゼベクは、美形な顔に、それはもうキラキラと輝かしい星が飛び交うような眩し過ぎる笑みを瞬時に浮かべ、言った。
「こんにちは、リーデル嬢。御機嫌は如何かな? エウロペア様に何か御用で?」
「え? ――あっ、えっ、あのっ、……え、っと……。――ま、また後で来ますっ!」
(あぁっ!? リーデルーッ!?)
リーデルは真っ赤な顔で踵を返し、部屋を飛び出して行ってしまった。
「……残念でしたね?」
心情的に唖然としている私を横目で見ながら、ゼベクが先程の笑顔とは正反対の意地悪い笑みを作り、ニヤリと笑う。
何が残念なのかは分からないけれど、その言葉が何故だか無性に悔しくて、私は心の中で思い切り地団駄を踏んだのだった……。
――ゼベクの懸命の捜査も空しく、このまま平行線を辿るかと思われたこの事件は。
『ある人物』の訪れによって状況が大きく覆される事に、その時の私は知る由も無かった――
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