私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或

文字の大きさ
25 / 45

25.彼とお兄さんとの確執

しおりを挟む



「……兄上。俺一人に斬り掛かるのはいいですが、彼女には今後一切手を出さないで頂きたい」


 斬り掛かるっ!?

 不穏な言葉に、ギョッと目を剥き私はレクサールさんを見上げた。


「あぁ? ――あー、ソレがてめぇの“番”か。んなモン関係ねぇな。オレは誰が近くにいようとてめぇをブチ殺すまでだ」
「彼女に手を出したら、いくら兄上でも許しません」
「はっ! だから何だ? オレを殺すってか? やってみろよ。返り討ちにしてやるぜ!!」


 お兄さんは嗤いながら叫ぶと、地面を蹴ってレクサールさんに斬り掛かってきた。


 ――って、えぇっ!? いきなり兄弟喧嘩っ!? それも“殺す”レベルの!? それがこの国じゃ当たり前なのっ!? どうなってるのこの国の基準はっ!?


 レクサールさんは私を強く抱きしめると、身を屈め、お兄さんの右手に向かって素早く蹴りを入れた。
 それは見事に彼の右手首に当たり、持っていた長剣が遠くに弾き飛ばされる。


「チッ、クソが……っ!! 仕方ねぇ、今日も見逃してやるよ!! 次はぜってぇ殺してやっからな!!」


 お兄さんは悔しそうにそう捨て台詞を吐くと、床に転がった剣を拾い上げて走り去ってしまった。


 ……ゴウゴウ吹き荒れる嵐が綺麗に去った気分だ……。


「レクサールさん、大丈夫ですか……?」
「あぁ、問題ない。こちらこそ驚かせてしまって悪かった。あれは俺の兄で、第一王子のガーロッドだ。昔から俺の命を隙あらば狙っている」


 平然と言ってのけるレクサールさんに、私は思わず絶句してしまった。
 う、うちより過酷な状況じゃない……!?


「……そ、そんなの駄目じゃないですか!! 兄弟なのに何でそんな辛辣な関係になってるんですかっ!?」
「兄上はとても母上を慕っていたらしくてな。しかし、俺を産んだと同時に母上は亡くなってしまったんだ。だから兄上は『お前がお袋を殺した』と言って、母上の仇として俺の命を狙ってくるんだ」
「……そんな……」
「……母上も、俺を産んだばかりに亡くなってしまって……。まだ生きていたかっただろうに、きっと俺を恨んでいるだろうな」
「……!! そんなこと……っ!!」


 私は言いかけて、グッと唇を噛み締めた。

 レクサールさん家族のことを何も知らない私が何か言ったところで、何の慰めにもならない……。


 私の表情を見つめたレクサールさんはフッと笑うと、私を抱きしめたまま頭を撫でてきた。


「……君の気持ち、十分伝わった。ありがとう。君が気に病むことはない。あれが兄上と俺の“いつもの日常”だから」


 ……そんな物騒な“いつもの日常”は絶対に嫌だ……。


「父上に挨拶を済ませたし、城下町を案内しよう。賑やかで良い町だぞ」
「……はい、お願いします。楽しみです」


 私に気を遣ってくれていることが分かったので、私もいつものようにを心掛けて、笑顔で頷いた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 城下町の探索はとても楽しかった。
 龍人達は皆活気が良くて、町も賑わっていて。気さくに声を掛けてくれる人もいて。
 隣に王子のレクサールさんがいても、皆の態度は全く変わらなくて。王子の彼と普通に世間話をしているし。
 “番”の女性達も、出会う人皆優しくて。私は心が弾んで終始笑顔だった。

 レクサールさんは、私の気になったお店に連れて入ってくれた。そこでお揃いの小さなお守り袋を買ってくれて。
 お昼は、彼のお勧めの料理店で美味しいご飯を食べて。

 あの人と妹のデートを尾行している時に、彼が言ってくれた言葉を全て有言実行してくれて、とても嬉しかった。


 あぁ……こんなに楽しい気持ち、本当に久し振りだな……。


「君がすごく楽しそうで良かった」


 レクサールさんが、微笑みながら私の頭を撫でる。


「はい! 龍人と“番”の皆さん、とても良い方ばかりで……。すごく素敵な王国ですね」
「ははっ、ありがとう」
「レクサールさんも楽しんでいますか?」


 私の質問に、レクサールさんは軽く目を瞠った後、ふわりと微笑んだ。
 うっ、眩しさで人の目を潰すくらいの微笑みだ……!


「君とデートが出来て、君のはしゃぐ姿を見て、俺もとても楽しいよ」
「へ? わ、私……そんなにはしゃいでました……?」
「その姿が可愛くて堪らなくて、今すぐに抱きしめたいくらいに、な」


 耳元で囁かれたその言葉にボッと顔を熱くさせた私を見て、レクサールさんは笑う。


 ……どうしたんだろう……。さっきから心臓がドキドキしっ放しだ。
 それに、朝から身体全体がムズムズしていたけれど、少しずつそれが大きくなっているような……?
 この町の熱気に感化されたのかな?

 うん……きっとそうだよね……?


 私はそう結論付けると、夕方になるまで町の探索を楽しんだ。





しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】21距離をおきたいと言れたので、隣国に逃げたけど、、、

華蓮
恋愛
距離をおきたいと婚約者であるレイト王子から告げられ、その横には、妹がいた。 私のもの全てを奪っていった妹。もう、嫌になり、隣国に渡ったアオイ。

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

31【完結】王太子を支えるために頑張っていたけど、婚約破棄をされました。

華蓮
恋愛
フロンティアは王太子妃になるための教育を、幼い頃からしていた。 王太子の婚約者になったら、王太子、王妃の実務をら押し付けられたが、王太子のために頑張った。 彼は妹を王太子妃にし、わたしを側妃にすると、、、、

【完結】23侯爵の跡継ぎのはずですが、突然平民になりましたが。

華蓮
恋愛
ラインスズ侯爵のリサは、後継ぎとして、10歳から、当主教育をさせられ、実務を仕切り、家のための婚約者もいた。 妹のマリは、可愛いから、ニコニコしていたらいい。何もしないで育った。 ある日、突然、妹に婚約者を奪われ、跡継ぎも奪われた。 リサは、どのように幸せになるのか?

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

処理中です...