私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或

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25.彼とお兄さんとの確執




「……兄上。俺一人に斬り掛かるのはいいですが、彼女には今後一切手を出さないで頂きたい」


 斬り掛かるっ!?

 不穏な言葉に、ギョッと目を剥き私はレクサールさんを見上げた。


「あぁ? ――あー、ソレがてめぇの“番”か。んなモン関係ねぇな。オレは誰が近くにいようとてめぇをブチ殺すまでだ」
「彼女に手を出したら、いくら兄上でも許しません」
「はっ! だから何だ? オレを殺すってか? やってみろよ。返り討ちにしてやるぜ!!」


 お兄さんは嗤いながら叫ぶと、地面を蹴ってレクサールさんに斬り掛かってきた。


 ――って、えぇっ!? いきなり兄弟喧嘩っ!? それも“殺す”レベルの!? それがこの国じゃ当たり前なのっ!? どうなってるのこの国の基準はっ!?


 レクサールさんは私を強く抱きしめると、身を屈め、お兄さんの右手に向かって素早く蹴りを入れた。
 それは見事に彼の右手首に当たり、持っていた長剣が遠くに弾き飛ばされる。


「チッ、クソが……っ!! 仕方ねぇ、今日も見逃してやるよ!! 次はぜってぇ殺してやっからな!!」


 お兄さんは悔しそうにそう捨て台詞を吐くと、床に転がった剣を拾い上げて走り去ってしまった。


 ……ゴウゴウ吹き荒れる嵐が綺麗に去った気分だ……。


「レクサールさん、大丈夫ですか……?」
「あぁ、問題ない。こちらこそ驚かせてしまって悪かった。あれは俺の兄で、第一王子のガーロッドだ。昔から俺の命を隙あらば狙っている」


 平然と言ってのけるレクサールさんに、私は思わず絶句してしまった。
 う、うちより過酷な状況じゃない……!?


「……そ、そんなの駄目じゃないですか!! 兄弟なのに何でそんな辛辣な関係になってるんですかっ!?」
「兄上はとても母上を慕っていたらしくてな。しかし、俺を産んだと同時に母上は亡くなってしまったんだ。だから兄上は『お前がお袋を殺した』と言って、母上の仇として俺の命を狙ってくるんだ」
「……そんな……」
「……母上も、俺を産んだばかりに亡くなってしまって……。まだ生きていたかっただろうに、きっと俺を恨んでいるだろうな」
「……!! そんなこと……っ!!」


 私は言いかけて、グッと唇を噛み締めた。

 レクサールさん家族のことを何も知らない私が何か言ったところで、何の慰めにもならない……。


 私の表情を見つめたレクサールさんはフッと笑うと、私を抱きしめたまま頭を撫でてきた。


「……君の気持ち、十分伝わった。ありがとう。君が気に病むことはない。あれが兄上と俺の“いつもの日常”だから」


 ……そんな物騒な“いつもの日常”は絶対に嫌だ……。


「父上に挨拶を済ませたし、城下町を案内しよう。賑やかで良い町だぞ」
「……はい、お願いします。楽しみです」


 私に気を遣ってくれていることが分かったので、私もいつものようにを心掛けて、笑顔で頷いた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 城下町の探索はとても楽しかった。
 龍人達は皆活気が良くて、町も賑わっていて。気さくに声を掛けてくれる人もいて。
 隣に王子のレクサールさんがいても、皆の態度は全く変わらなくて。王子の彼と普通に世間話をしているし。
 “番”の女性達も、出会う人皆優しくて。私は心が弾んで終始笑顔だった。

 レクサールさんは、私の気になったお店に連れて入ってくれた。そこでお揃いの小さなお守り袋を買ってくれて。
 お昼は、彼のお勧めの料理店で美味しいご飯を食べて。

 あの人と妹のデートを尾行している時に、彼が言ってくれた言葉を全て有言実行してくれて、とても嬉しかった。


 あぁ……こんなに楽しい気持ち、本当に久し振りだな……。


「君がすごく楽しそうで良かった」


 レクサールさんが、微笑みながら私の頭を撫でる。


「はい! 龍人と“番”の皆さん、とても良い方ばかりで……。すごく素敵な王国ですね」
「ははっ、ありがとう」
「レクサールさんも楽しんでいますか?」


 私の質問に、レクサールさんは軽く目を瞠った後、ふわりと微笑んだ。
 うっ、眩しさで人の目を潰すくらいの微笑みだ……!


「君とデートが出来て、君のはしゃぐ姿を見て、俺もとても楽しいよ」
「へ? わ、私……そんなにはしゃいでました……?」
「その姿が可愛くて堪らなくて、今すぐに抱きしめたいくらいに、な」


 耳元で囁かれたその言葉にボッと顔を熱くさせた私を見て、レクサールさんは笑う。


 ……どうしたんだろう……。さっきから心臓がドキドキしっ放しだ。
 それに、朝から身体全体がムズムズしていたけれど、少しずつそれが大きくなっているような……?
 この町の熱気に感化されたのかな?

 うん……きっとそうだよね……?


 私はそう結論付けると、夕方になるまで町の探索を楽しんだ。





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