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37.お母様の想い
しおりを挟む「え……えっ、ええぇっ!?!?」
私の素っ頓狂な叫び声が余程面白かったのか、少女――アーシアさんはコロコロと笑う。
「あはっ! やっぱりビックリするよね? ここでは年齢の概念がないから、動き易い少女の姿になってるんだ。――えっと、順を追って説明するね。わたしがレクサールを産んだ時、『ブラックコア』の力が強過ぎて、わたしの魂が半分ソレに吸い取られちゃったの。このままだと全部が吸い取られそうだったから、わたしの中にあったライアンの『レッドコア』に、残りの半分の魂を自ら移したの」
「へ? 魂を移す……? え……?」
「あはっ、魂を移すとかワケ分かんないよね? んとね、普通は“番”が相方の龍人より先に亡くなるの。“番”は『コア』の力で半分龍人になっているけれど、寿命は龍人より短いから」
アーシアさんは紅茶を美味しそうに啜りながら話を続ける。
「“番”が亡くなった時、自分の中にある『コア』が相方の龍人のもとに還るの。その時『コア』に自分の魂を移して相方が亡くなるまで一緒にいるか、先に天に昇るか選べるんだけど、大抵の“番”は『コア』に魂を移す選択をするよ。それだと、身体が失くなっても、相方限定でお話することが出来るから」
「……と、いうことは……。アーシアさんは今も国王陛下と……?」
「うん、ライアンが『レッドコア』を肌身離さず持ってるから、ずっと一緒にいてお話してるよ。わたしの場合は魂が半分に分かれてるから、『ブラックコア』に吸収されたこのわたしは、それを身体の中に取り込んだフィーリアの中に一緒に入っちゃったの。それで、勝手に心の奥底を借りて暮らしていたんだ。ここ、とても快適で気に入ってるよ。フィーリアの心が澄んでいるからかな?」
シフォンケーキをお代わりしてモグモグと頬張り、アーシアさんはニコリと無邪気な笑顔を見せた。
「そ、それは良かったです……」
私の心の中に、レクサールさんのお母様が住んでいたなんてビックリだよ……。全く気が付かなかった――
……あ! そうか、だから――
「国王陛下がいきなり頭を撫でてきたり、ガーロッドさんが急に抱きしめてきたりしたのは、アーシアさんの気配を私の中に感じたから……?」
「あはっ、そんなことがあったの? ここと『コア』の中は外界が見えないから、外でどんなことが起こってるか分からないんだよね。うん、きっとそうかも。レクサールが特に何も感じないのは、わたしと過ごした時間を持ってないからだね」
国王陛下もガーロッドさんも、突然行動に移すからこっちはわけが分からず意味不明だったよ……。
「あっ! そうそう、フィーリアは死んでないよ。ここに住まわせて貰ってる代わりに、わたしと『ブラックコア』がフィーリアを守護してるから。致命傷以外の傷は治せるよ」
「えっ、そうなんですか!?」
お腹の深くまで刺されたから、もう駄目かと思ってた……。
「致命傷まではいかなかったけれど、結構深い怪我しちゃったんだよね? だからその衝撃で、フィンリーの意識が“心の奥底”まで落ちてきちゃったんだね。大丈夫、もう治ってると思うよ」
「あ……ありがとうございます、アーシアさん……!」
「ふふっ、いいえー。ここにいると、フィーリアの感じたことが何となく分かるから、怪我をした時も分かるんだ。怪我を負った時、レクサールも近くにいたんだよね? 全く、何やってんのあの子は! 大事な子も護れないで!!」
プンプンと怒り始めたアーシアさんに、私は慌てて声を出す。
「ち、違うんです! 不意打ちに短剣を向けられて、私が勝手にレクサールさんを庇ったんです! ……今思えば、彼はすごく強いから、私が庇わなくても対処出来ましたよね……あぁ……」
「んーん、そんなことないよ? あの子が動けなかったと言うことは、そのまま刺されてた可能性があるから、フィンリーはよくやったよ! 龍人は五感は冴えてるけど、皮膚は人間並に弱いから。フィンリーのことばっか考えてて油断しちゃったんじゃない?」
「あ、ありがとうございます……」
落ち込みそうになったけど、アーシアさんの言葉で救われた気持ちだ……。
――そうだ! 奇跡的にレクサールさんのお母様に会えたんだから、“あのこと”を訊かないと……!
「アーシアさん。レクサールさんは、自分を産んだことでアーシアさんが亡くなってしまい、貴女が自分を恨んでいると思い込んでいるんです……」
「えぇっ!? そうなのっ!? もうっ、バカね! それは絶対に違うから! 戻ったら、わたしはあなたを産めて本当に幸せよって伝えてくれる? わたしはあなたを愛しているわ、って」
……うん、アーシアさんなら絶対にそうだと思ってた。
思い込みは良くないよ、レクサールさん……。
「はい、必ず伝えますね。あと、ガーロッドさんのことなんですが……」
「ロッドのこと? 相変わらずヤンチャしてるの? あの子、昔っからそうなの。普通に叱っても効き目なくてねー、そりゃもう色んなイタズラをしていたわ」
「えっと、そのヤンチャ以上のことをしていまして……。レクサールさんを産んでアーシアさんが代わりに亡くなってしまって、すごく悔しかっただろう、まだ生きたかっただろうって……。アーシアさんの代わりにレクサールさんを殺すって固く決意してて、現在も生死に関わる壮絶な兄弟喧嘩をしています……。と言っても、ガーロッドさんが一方的になんですが……」
私の言葉に、アーシアさんはテーブルをバンッ! と両手で叩きながら立ち上がった。
「はああぁぁっ!?!? 何やってんのあの子はっ!? 兄弟揃って勝手に思い込んで、ホントにバカだわっ!! そんなこと、ライアンから一言も聞かされてないよっ!? 何で止めないのっ!? ちょっと訊いてくるから待ってて!!」
そうアーシアさんはまくし立てると、椅子に座り直し、急に真顔になって黙った。
暫く待っていると、アーシアさんが顔を顰め、深い溜め息を吐いた。
「お待たせ。『レッドコア』の中にいるわたしの魂と、ここのわたしの魂は意思が共有出来るんだ。ライアンに訊いたら、あのバカ何て言ったと思う?『仲睦まじく真剣で兄弟喧嘩をしているから、口出しせず微笑ましく眺めていた。だからお前から子供達の様子を訊かれても、「問題ない、仲良しだ」と答えていた』だって!! もーーバカ揃いだわ!! うちの男ども大バカ過ぎてホンット呆れるわ!! 思いっ切りあのバカタレに説教してやったわ、ったく!!」
……アーシアさん、お疲れ様です……。
「ロッドだけど、ライアンが言い聞かせても言うこと聞かないと思うんだよね。あの子、結構頑固なとこあるから。だから、今から取っておきの“魔法の言葉”を教えるね。これであの子を止めることが出来るよ」
私はアーシアさんからその“魔法の言葉”を聞き、瞳を何度も瞬かせた。
「え……それでガーロッドさんを……?」
「うん、効果バツグンだよ。戻ったら試してみて。効果あり過ぎて土下座までしちゃうかも? あはっ」
「ふふっ、土下座しているガーロッドさんなんて、全然想像出来ませんよ」
私達は笑い合うと、アーシアさんが椅子から立ち上がり私のもとへ歩いてきた。
「そろそろ戻らないと、レクサールも倒れちゃうかも。ライアンに似たのなら、きっとあの子、寝ないでフィンリーに付きっきりでいると思うよ。私が病気で寝込んだ時、ライアンは一睡もしないで看病してくれたから」
「……っ! そんな、レクサールさん――」
「『ブラックコア』がフィンリーに馴染んできたら、夢の中でお話出来るようになるから、またその時会おうね。今日は会えてすごく嬉しかったよ」
「……はい! 私もです、アーシアさん」
アーシアさんは微笑むと、その小さな身体で私をギュッと抱きしめる。私も彼女をそっと抱きしめ返した。
「またね、フィンリー。わたしの愛しい家族によろしく伝えて」
「はい、アーシアさん。また夢の中で――」
刹那、私の意識が急激に遠くなり、あっという間に視界が真っ黒になっていった――
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