婚約解消しましょう、私達〜余命幾許もない虐遇された令嬢は、婚約者に反旗を翻す〜

望月 或

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10.証拠を掴む為に

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「あぁ……それなら尚の事、早くあの子に会いに行かなきゃ……! エイリック様への説得が駄目なら、どうやって『婚約解消』すれば良いのでしょうか……」


 セルジュの事が心配で堪らないアーシェルは、顎に人差し指を当て考える。


「――あっ! 私の親とエイリック様の御両親に、私が余命僅かだと訴えれば、そんな私の事なんて“不要”と判断されるのでは……?」
「……いや……向こうがそれを知れば、君の意思関係なく、今すぐにでも無理矢理婚姻させられるだろう。言い方は悪いが、君が生きている間、少しでも多大な幸運を得る為にな。困った事に君の婚約者は、何があろうと君が自分の事を好きだと信じて疑っていないようだ。親にもそう伝えている可能性が高い。寿命の事は、君の親や相手の親には知られない方がいいだろう」
「……あぁ……。そうですね……」


 レヴィンハルトの納得のいく言い分に、アーシェルは大きな溜め息をついた。


「どうしましょう……。親ぐるみの婚約だったら、親に何を言っても絶対に解消させてくれないに決まっています……。私は何もかも清算して、早くセルに会いに――隣国に行きたいのに……。もう時間が無いのに――」


 しょぼんと項垂れるアーシェルに、レヴィンハルトは眉根を寄せながら腕を組み考えると、ゆっくりと口を開いた。


「婚約は、“正当な理由”があると解消出来ると聞いた」
「“正当な理由”……?」
「例えば、相手が暴力を振るったとか、借金があるとか、浮気をしたとか……な。今の状況だと、浮気の証拠が掴みやすいんじゃないか?」
「……っ! そうです、エイリック様はパリッシュさんと……! 二人の仲睦まじい姿を証拠にすれば、“正当な理由”として『婚約解消』が出来ますっ」


 パァッと、アーシェルの顔が花が咲いたように明るくなる。
 けれどそれは、すぐに花が萎んだように影を落とした。


「だけど、それをどうやって証拠にしましょう……? 浮気の現場を見ただけでは、頭の良い彼なら、上手な言葉を使ってしらばっくれそうで……」
「それならば、俺が良い物を持っている」
「え? “良い物”……?」


 アーシェルの問い掛けに、レヴィンハルトが頷く。


「俺達がいる大陸の隣の大陸では、魔術は『魔法』と呼ばれていてな。そこに、魔法の素質は無かったが、とんでもない魔力を持っている子爵令嬢がいるんだ。彼女は、その膨大な魔力を活かして、魔法を使った器具や新しい魔法の研究に力を注いでいる」
「へぇ……。その御令嬢、すごいですね。まだ若いんですよね?」
「あぁ。若いが、彼女は本当に凄い発明家だ。それで、ある道具の開発に、俺も魔法の知識の提供として関わったんだが、礼としてその完成品を貰ったんだ。それは、特別なレンズと魔力を使って、物体の像を記録する事が出来る道具だ。それを現像処理して可視化する事も出来る」


 レヴィンハルトの説明に、アーシェルは瞳と口を大きく開かせた。


「そ、それって……とっても凄いものですよね!?」
「あぁ、凄い。商品名は『写真機』というらしい。ただ、結構な魔力を使うから、使う者が限られてしまい、『改良が必要』としてまだ製品化までは至っていないんだ。魔力の問題を解決し、使用出来る者が増えて製品化されれば飛ぶように売れるだろうな」
「はい、絶対そうですよ!」
「被写体を撮る時、盗撮防止の為に通常は音が出るんだが、その子爵令嬢から特別に音が出なくなる方法を教えて貰ったから、気付かれずに撮れるだろう」
「それは助かります……!」
「では早速明日持ってこよう。奴は君が自分から離れないと思っているようだし、昨日の事があっても編入生と一緒にいるだろう。狙う機会は多いと思うぞ」
「はい! 必ずや証拠を撮ってみせます!」


 アーシェルはレヴィンハルトに向かって、グッと決意の握り拳を作って見せた。



 ――こうしてアーシェルは、『婚約解消』の為、エイリックの浮気の証拠を掴む作戦を実行する事になったのだった。




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