婚約解消しましょう、私達〜余命幾許もない虐遇された令嬢は、婚約者に反旗を翻す〜

望月 或

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11.婚約者のとんでもない誘い

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 そして、翌日の昼休み。
 レヴィンハルトから『写真機』を借りる為に、アーシェルは昼休みの鈴が鳴り終わったらすぐに席を立ち、例の穴場に向かおうとした。

 ……が、彼女の前に立ち塞がる一人の影があった。


「え、エイリック様……」
「アーシェル、そんなに急いで何処に行くんだい? 昨日も昼休みが始まってすぐに姿を消してしまったから、声を掛けられなかったんだよ」


 エイリックが口元に微笑みを称えながら、アーシェルに話し掛けてくる。
 アーシェルは半歩後退りながら、エイリックに頭を下げた。


「そ、それは申し訳ありませんでした……。何か御用でしたか……?」
「うん。最近、君と昼食を食べてないなと思ってね。一緒に食べよう。
「…………え?」


 エイリックの最後の言葉に、アーシェルは我が耳を疑った。


(い……今、『ジェニー』って言いましたよね? 学園内で? 婚約者なら問題無いですが、今のところは自分と何も関係の無い御令嬢を名前で呼び捨て!? 目の敵にされている相手と一緒にお昼を食べるっ!?)


 この学園では通常、生徒が女子生徒を呼ぶ時は名字か名前に『さん』を付け、男子生徒の場合は名字か名前に『さん』か『君』を付けるのだ。
 格上の相手には『様』を付ける生徒もいる。

 突っ込み所満載の台詞に、アーシェルの頭がクラクラと揺らいだ。


「君ならジェニーと仲良くなれると思うんだ。彼女になかなか友人が出来なくてね。引っ込み思案だから、こちらから声が掛けられないらしい。そんな彼女に、君が是非友人になって貰いたいんだ。そうしたらいつも三人一緒にいられるだろう? 君は僕と一緒にいれて寂しくないし、彼女も友人が出来て嬉しい。一石二鳥で素敵な提案だと思わないかい?」
「………………」


 更に格段に突っ込み所が増えた台詞に、アーシェルはその場でバターンッと卒倒しそうになった。
 下手をしたら吐血までしてしまいそうだ。

 エイリックの少し離れた後ろにはジェニーがいて、アーシェルを鋭い目つきで睨みつけている。


(この展開……またですか……)


 アーシェルは、心の中で盛大に溜め息を吐いた。


「……エイリック様。後ろでパリッシュさんが私を睨んでいます。それはもう悪意を込めた視線で。私はパリッシュさんに嫌われているんです。私を嫌っている人と一緒にお昼は食べられませんし、パリッシュさんもそう思っている筈です。エイリック様はパリッシュさんとお昼を取って下さい。明日もその明日も、ずっとお二人だけで。私なら全く心配はいりませんので、もう二度と構わなくて大丈夫です。それでは失礼します」


 アーシェルは三人でのお昼を諦めて貰う為に、今度はハッキリとエイリックに告げた。
 あんなに敬愛し従順だったエイリックに、こんな捨て台詞のような言葉が言えた自分に自分で驚いたが、心はスッキリした気分だった。

 ポカンとしているエイリックに礼をし、アーシェルは踵を返して軽やかにその場を去ろうとした。
 そんな彼女の手を、エイリックが突然ガッシリと掴んできた。


「え……っ?」
「待ってくれ、アーシェル! そんなつれない事を言わないでおくれよ。彼女はただ照れていて、睨んでいるように見えるだけだよ。大丈夫、話してみれば気が合う事が分かるさ。さぁ行こうか、ジェニーが待ちくたびれているしね」


 エイリックは笑顔でそう言うと、アーシェルの手を引っ張りジェニーのもとへ向かおうとする。


「な……? は……離して下さい、エイリック様っ」
「ん? どうしてだい? ――あぁ、そうか。君と手を繋ぐのは初めてだったね。恥ずかしがっているのかい? ははっ、可愛いな。これからはもっと繋いであげるよ」


(違いますーーっ!! そんな提案、断固として拒否させて頂きますーーーっ!!)


 何とか踏ん張って阻止しようとするが、やはり男性のエイリックの力には到底敵わない。


(ただでさえクラスの皆から面白半分に見られているのに、三人一緒にいた日には……周りからの好奇の視線がグサグサととんでもない事に……っ。そんなの絶対に耐えられません……! 吐血確定です!!)


 エイリックに無理矢理引っ張られて抗えず、アーシェルの心が絶望の色に染められた時、教室の入り口の方から声が飛んできた。


「アーシェル・レイノルズ、いるか? 君、今日は学級当番だっただろう? 授業で生徒に配る資料をまとめるのを手伝って欲しいんだ。頼めるか?」


 扉から顔を覗かせたのはレヴィンハルトだった。
 あちこちできゃあ、と女子生徒が湧き立つ。


「……ローラン先生、アーシェルはこれから僕達とお昼を――」
「はっ、はい! すぐに行きます! ――エイリック様、これは当番の私の役目ですから。お昼はパリッシュさんとお二人で行って下さい」
「…………」


 エイリックはレヴィンハルトを睨みつけると、渋々とアーシェルの手を離す。
 アーシェルは急いでレヴィンハルトのもとに駆け寄った。


「済まないな、昼休みなのに」
「いえ、全然大丈夫です……!」
「魔術教室に行こうか」
「はい!」


 アーシェルはホッとしながら頷くと、クラスの生徒から様々な思いの視線を背に感じつつ、レヴィンハルトの後ろについて歩き出した。


 チラリと後ろを見ると、どこか剣呑な視線でエイリックがこちらをジッと見つめていて、アーシェルは慌てて顔を前に戻したのだった……。




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