イージスの盾

櫃間 武士

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第3章「ジョニー、お見舞いに行く」

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 昼過ぎ、俺とクラウはすんなりと警察から解放された。

 というか、とっとと厄介払いをされた雰囲気だった。

 俺はせめてクラウだけでも警察で保護するように頼んだが、丁重にお断りをされて、二人とも警察署内から追い出された。


 俺たちがクラウの経営するメキシコ料理店の、開店前の薄暗い店内に入ると、ウェイトレスのマリアナが一人、モップで床を磨いているところだった。

「遅いスよ、クラウディアさん!」

 マリアナが唇をとがらせて言った。

 マリアナはクラウの横に俺がいることに気づき、露骨に嫌そうな顔をした。

「クラウディアさん!昨夜はこいつと一緒だったんスか?」

「そうよ!」

「――――趣味悪いスね………」

 マリアナは再び、俺たちから目をそらし、黙々と床磨きを続けた。

 マリアナは美人を鼻にかけた無愛想な女の子だったが、ハツラツとした若さに輝く美しい娘だ。

 実際、店の常連客たちからモテモテで、俺みたいなオタクには鼻も引っかけない。

 クラウがエプロンをつけながら、俺に微笑みかけた。

「お腹すいたでしょ、ジョニー。何か作るわね。マリアナも手伝って」

「はーい……」

 マリアナがモップをポンと俺に渡して、厨房に入っていった。

 俺に床磨きをしていろと言うことだ。


 一人残された俺は思い詰めた表情で床を磨きながら、考えに耽っていた

 まさかこんなに早く、フィフス・ストリートが襲って来るとは夢にも思わなかった。

 俺はどうせ余命半年の人間だからどうなってもいいが、クラウを生命の危険にさらしてしまった。

 ペドロ刑事の言うようにクラウを連れて町を出たとしても、ヤツラは追ってくるだろう。

 他人に迷惑が及ぶのを避けるため、恋人のマリーと別れたばっかりなのに、俺は一体何をしているんだ。

 悲愴な顔つきをした俺は、どうにもやりきれない感慨に押しつぶされそうになっていた。

「――――それはそれとして…………」

 俺は中腰になって床を磨きながら、前方を見た。

 翼が生えた金髪美少女―――意地でも天使なんて呼んでやらねぇぞ―――が、俺の目の前に佇んでいる。

 モップが少女の足元に近づくと、少女は避けるように体を少し宙に浮かせた。

 こいつ、何者なんだ。

 俺にしか見えないみたいだが、幻覚じゃない。

 俺はまだ、そこまでトチ狂ってはいない。

「おい、お前!今朝、一回喋っただろう!もう一度、何か言ってみろよ」

 だが、少女は、マネキンのような固い表情をして黙ったままだった。

 俺は溜息を吐いた。

「――お前、名前はないのか?」

 俺はさして返事を期待もせずに尋ねてみた。

「セェラァベェラァム」

 俺は驚いて思わず少女を二度見した。

「セェラァ…、セェラァ……、何だって?」

「セェラァベェラァム」

 コミュニケーション、とれるじゃねぇか!

 少女の声は抑揚がなく感情がこもっていなかったが、日本のアニメ声優のように、可愛く綺麗な声だった。
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