イージスの盾

第４章「ジョニー、娘と添い寝する」

20

　大型コンテナを牽引して走行するトレーラーバスが夜の街角に停車する。

　コンテナの後部ドアが開き、数台の監視用ドローンが解放され、飛び立った。

　コンテナの中に設置されたモニタールームにはＦＰＶドローンFirst Person View用ゴーグルとインカムを付けた数名の若者たちが胡坐をかいたり、椅子に腰かけたり、思い思いの恰好でプロポを操作した。

　やがて、一人の若者が誇らしげに片手を上げた。

「ターゲット、発見！」

　他の若者たちは悔し気に舌打ちをした。

「コリンズ通りを徒歩で北上中。他に人影はありません」
　
「よくやった！ルイス！ボーナスはお前のものだ！」

　フィフス・ストリーのアジトの警備室、壁一面に並んだモニターを監視していた警備部長のリカルドは、マイクに向かって言った。

「ルイス。君の見ている映像を私に送ってくれ」

　監視用ドローンを操作しているルイスは、自分の顔につけているゴーグルのスイッチを切り替えた。

　すると、リカルド警備部長の目の前にあるモニターの一つに、高度から暗視ＩＲカメラで撮影された夜の街が映し出された。

　通りを一人歩いている男は、ジョニーであった。

　八基の特殊静音プロペラに暗視カメラと集音マイクを装備した監視用ドローンは、ジョニーに気づかれないように頭上を尾行しているのだった。

「手に何か持っているな？拡大してみろ！」

　リカルド警備部長がルイスに命令すると、モニターのジョニーの姿が拡大された。

「何だ、あれは？金属バットか」

「そのようですね」

「何で標的は、金属バットなんか持ち歩いているんだ？」

「さあ？護身用じゃないんですか」

「フィフス・ストリートに金属バットで戦うつもりか！？はっ！つまらんジョークだ！」

　リカルド警備部長はマイクをつかむと、ルイスに命じた。

「そのままルイスはターゲットを尾行したまえ。他の者は攻撃用ドローンを発進して、夜が明ける前に標的を殺すんだ！」

　エリック達暗殺部隊が壊滅したと、先ほど知らせが入ってきた。

　ホテルで寝ていたフィフス・ストリートのボス、ミゲル・トレビノは激怒し、その知らせをもって来た暗殺部隊の生き残りをその場で処刑した。

　もはやどんな手段を使おうとも、あの標的を始末しないと、こっちの首が飛ばされる。

　攻撃用ドローンは、元々は自動でビルを警備するガードロボットとして開発されたドローンに、工学部出身のリカルド警備部長が独自の改良を加えた物だ。

　三軸ジンバルを備わったＨＤカメラと顔認識システムを搭載し、あらかじめインプットされたターゲットに突進し、爆発するようにプログラムされている。

　虎の子の攻撃用ドローン五機にジョニーの顔データがインプットされると、監視用ドローンが飛行している座標に向かって出撃した。

「リカルド警備部長！」

「どうした、ルイス？」

「監視用ドローンが標的に発見されました！」

「ま、まさか！？」

　モニターに映るジョニーが上空を密かに飛行している監視用ドローンに向かって手を振っている。

　ジョニーはまるで隣にいる誰かと会話しているように唇が動かしている。

「ルイス？標的の声を拾えるか？」

「やってみます」

　やがて、雑音混じりのジョニーの声が、モニターのスピーカーから聞こえてきた。

（だから、あんなのほっときゃいいだろ！えっ？別のドローンが向かってきている？爆発するのか？そいつは近所迷惑だな。どうすればいい？あれを捕まえたらいいのか？わかった！）

　ジョニーは不思議な行動を始めた。

　彼はその場でジャンプを始めたのだ。

「何をしているんだ、標的は？」

　ジョニーはジャンプし続け、彼が地面に着地するたびに反動でより高くジャンプするようだった。

　ジョニーはばねのように膝をのばして跳び上った。

　最初、数十センチの位置しか到達できなかったジョニーの身体は、ジョンプを重ねるごとに高度を増し、鳥のように飛び上った。

　リカルド警備部長がモニターに映るジョニーの顔を徐々に大きくなるのを、呆然と見ているだけだった。

　やがて、モニターにジョニーの掌が大きく映し出されたかと思うと、モニターは真っ黒になった。

　上空を飛行していた監視用ドローンは、跳躍したジョニーに捕獲されたのだった。