婚約者を借りパクされました

朝山みどり

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17 辺境の生活

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「初めまして、アリス・コートロードと申します。いらして下さってありがとうございます」
バージルの婿入り先は大きな商家で、屋敷も大きくて明るくて活気があった。
「初めまして、デニス・サンダースです。バージルが結婚なんて、ついこの間学校に行くと王都を立ったような気がします」とデニスが余所行きの顔で挨拶をするから、わたしも黙って静かに頭を下げた。わたしがなにも言わないのでデニスが真面目くさって
「こちらは妻のサンダース夫人です」と言った。

そこに兄が入って来て
「二人ともなにを済ましているんだ」と言ったのでわたしとデニスは吹き出してしまった。
「初めましてアリス様、レイチャルです。バージル久しぶり。素敵な人を見つけたのね」と言った。
「レイチャル様、どうぞアリスと呼んで下さい」
「えぇアリス。わたしのこともレイチャルと」
「お義姉様と呼ばせて下さい」とアリスはわたしに言った。

その翌日、わたしはアリスに街を案内して貰った。辺境と名がついているから、田舎の辺鄙な所だと思っていたが、人々は明るいし、街は清潔。

「今が一番過ごしやすい時です。一年の半分が冬です。だからこの季節にいろいろ詰め込みます。だから活気があるんです。だけど冬も好きです。家の中も冬は変えます。雪の合間に近所を尋ねるんです。安否確認とおしゃべりを兼ねて。
ミルクをたくさん使った暖かい飲み物を飲んで、お菓子を食べて、縫い物や編み物をしながらおしゃべりします」
彼女の後ろに微笑む大勢の女性が見えたような気がした。
「素敵でしょうね。想像して見てるけど。わたしの想像よりずっとずっと」と言うと
「良かったら冬にもいらして下さい」とアリスは笑った。わたしより若いけど人生の達人って感じだった。

平民に婿入りするバージルだが、次期辺境伯夫妻。帝国の皇子夫妻。それに宰相の名代が王都からやって来たから、そのへんの貴族より豪華な顔ぶれのゲストが揃った。

「僕、皇子を前面に出すからね。レイのお支度が楽しみだ」と出席を決めた時、デニスが宣言した通りの高価なドレスを着たわたしは花嫁より豪華だったが
「お義姉様、ありがとうございます。格式が上がりました」とアリスから感謝され、デニスも満足そうに頷いていた。
そして、なんとわたしとデニスの衣裳はコートロード商会の玄関ホールに飾られることになった。
バージルのお嫁さんは義姉のドレスを譲って貰った幸せな人になった。
いつかのバージルの言葉が半分実現した形になったのを思うとちょっとにやにやしてしまう。

帝室が辺境の商会の後押しをしている確かな形が功をなし、コートロード商会はその販路を帝国へも広げた。
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