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19 宰相のやり方
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宰相補佐目線
長いことアミスト宰相の補佐をやっていた。それがある日突然退任することになった。後任は御子息ではなく、まさかの第二王子殿下だった。
ご自分から臣下に下ると言い出した。確かに王位をめぐって水面下の争いが始まっていた。だから第二王子殿下が自ら臣下に下り、宰相として第一王子殿下を支えられるのは素晴らしいことだ。わたしは引き続き補佐の任を仰せつかった。
この若い清廉な殿下を支えるつもりだ。
殿下が始めて会議に出席なさった。就任の挨拶はもう済まされていたが、今回が本当のデビューだ。
初回はお手並み拝見の意味もあるのか多数の貴族が並んでいる。王子殿下が、いや宰相閣下が口を開かれた。
「兄とともに歩むため、兄を支えるため、国に尽くすためになにをするのが良いか子供の頃から考えて来た。そして宰相となった。
先ず、最初の仕事は皆の声を聞くことだと確信している。わたしは皆の声。王太子殿下の声を聞いて二つを融合させることだ。上役が最初に話をしては下の者はやりにくいだろう。だからそちらの端の者から氏名を名乗り、今日ここになにをしに来たのか、聞かせて欲しい」
素晴らしい。挨拶だ。だが、がやがやしはじめた。
静かにと思ったが、閣下は注意しようとしたわたしを目で制した。そしてご自分でこう言った。
「いきなりだと困るだろうか?素直に一言でいいのだ。宰相の顔を見に来たでもいいし、実は婚約話の相手の身内がいるかなと見に来たとか・・・それではそちらから」
いきなり指名された彼はひっと息を飲んだが
「はい。えっとですね。宰相閣下が新しくなって、若いと聞いたものですから見学をしたいと思いまして」と彼が言うとあたりに軽い笑いが起こった。その笑いが収まると
「来てよかったと思います。希望だと感じました。上手く言えなくてすみません」と彼は言って頭をペコリと下げた。
ここからはわたしが仕切った。
「そうですね。わたしは宰相贔屓ですので、嬉しい言葉です。次の方どうぞ」
同じような話が続いた。そしてなごやかに会議は終わった。
和やかだったが、宰相閣下を舐めているとわかる者が多々出てきた。
彼らは帰り際
「閣下、わたしたちを頼ってくれればいいようにしますから、安心して下さい」と帰って行った。
その次の会議も出席者は多かった。わたしは時間より早く会議場で待機していた。
集まった貴族たちは
「やはり若造は甘いですな」「若いのは可愛げがあるほうがいいですよ」「そうですね、しっかり導いてあげましょう」などと話している。
閣下は間違えたのだろうか?広く意見を聞くと言うのは流行りのやり方だと聞いたのだが・・・わたしが思い悩んでいると時間になった。
ピッタリの時間に部屋に入って来た閣下は
「始めよう。今日は王都の西の領地の橋の修理の話をしよう。手元の資料を見てくれ。そこの領主は税収を別に使って橋の修理が出来なくっている。領民も困っているがそこは交通の要衝だ。そこで国が主体となって修理をしようと思っている。どんな形で修理すれば良いと思う?爵位の下の者から意見を出して欲しい」と会議を始めた。そこでわたしは
「それでしたら、ケアンズ子爵。どう思いますか?」
「はい・・・いきなりで・・・橋がないと困りますので閣下のおっしゃる通りにすればいいと思います」
「つぎは、ズーラン子爵」
「はい、橋は必要ですね」
何人もが同じ意見を出して
「マーシャル公爵閣下。いかがですか?」
「すぐに作るべきだ。そして」と公爵が言いかけた時、宰相閣下は
「同じご意見を頂けてありがとうございます。それでは、橋を作ることに意見が統一されました。今後、この件は全員ではなく委員会を作って話し合おうと思います。皆さんに集まっていただくのは心苦しいですから。委員はこちらで決めました。補佐が名簿を読み上げます」と一気に言った。
長いことアミスト宰相の補佐をやっていた。それがある日突然退任することになった。後任は御子息ではなく、まさかの第二王子殿下だった。
ご自分から臣下に下ると言い出した。確かに王位をめぐって水面下の争いが始まっていた。だから第二王子殿下が自ら臣下に下り、宰相として第一王子殿下を支えられるのは素晴らしいことだ。わたしは引き続き補佐の任を仰せつかった。
この若い清廉な殿下を支えるつもりだ。
殿下が始めて会議に出席なさった。就任の挨拶はもう済まされていたが、今回が本当のデビューだ。
初回はお手並み拝見の意味もあるのか多数の貴族が並んでいる。王子殿下が、いや宰相閣下が口を開かれた。
「兄とともに歩むため、兄を支えるため、国に尽くすためになにをするのが良いか子供の頃から考えて来た。そして宰相となった。
先ず、最初の仕事は皆の声を聞くことだと確信している。わたしは皆の声。王太子殿下の声を聞いて二つを融合させることだ。上役が最初に話をしては下の者はやりにくいだろう。だからそちらの端の者から氏名を名乗り、今日ここになにをしに来たのか、聞かせて欲しい」
素晴らしい。挨拶だ。だが、がやがやしはじめた。
静かにと思ったが、閣下は注意しようとしたわたしを目で制した。そしてご自分でこう言った。
「いきなりだと困るだろうか?素直に一言でいいのだ。宰相の顔を見に来たでもいいし、実は婚約話の相手の身内がいるかなと見に来たとか・・・それではそちらから」
いきなり指名された彼はひっと息を飲んだが
「はい。えっとですね。宰相閣下が新しくなって、若いと聞いたものですから見学をしたいと思いまして」と彼が言うとあたりに軽い笑いが起こった。その笑いが収まると
「来てよかったと思います。希望だと感じました。上手く言えなくてすみません」と彼は言って頭をペコリと下げた。
ここからはわたしが仕切った。
「そうですね。わたしは宰相贔屓ですので、嬉しい言葉です。次の方どうぞ」
同じような話が続いた。そしてなごやかに会議は終わった。
和やかだったが、宰相閣下を舐めているとわかる者が多々出てきた。
彼らは帰り際
「閣下、わたしたちを頼ってくれればいいようにしますから、安心して下さい」と帰って行った。
その次の会議も出席者は多かった。わたしは時間より早く会議場で待機していた。
集まった貴族たちは
「やはり若造は甘いですな」「若いのは可愛げがあるほうがいいですよ」「そうですね、しっかり導いてあげましょう」などと話している。
閣下は間違えたのだろうか?広く意見を聞くと言うのは流行りのやり方だと聞いたのだが・・・わたしが思い悩んでいると時間になった。
ピッタリの時間に部屋に入って来た閣下は
「始めよう。今日は王都の西の領地の橋の修理の話をしよう。手元の資料を見てくれ。そこの領主は税収を別に使って橋の修理が出来なくっている。領民も困っているがそこは交通の要衝だ。そこで国が主体となって修理をしようと思っている。どんな形で修理すれば良いと思う?爵位の下の者から意見を出して欲しい」と会議を始めた。そこでわたしは
「それでしたら、ケアンズ子爵。どう思いますか?」
「はい・・・いきなりで・・・橋がないと困りますので閣下のおっしゃる通りにすればいいと思います」
「つぎは、ズーラン子爵」
「はい、橋は必要ですね」
何人もが同じ意見を出して
「マーシャル公爵閣下。いかがですか?」
「すぐに作るべきだ。そして」と公爵が言いかけた時、宰相閣下は
「同じご意見を頂けてありがとうございます。それでは、橋を作ることに意見が統一されました。今後、この件は全員ではなく委員会を作って話し合おうと思います。皆さんに集まっていただくのは心苦しいですから。委員はこちらで決めました。補佐が名簿を読み上げます」と一気に言った。
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