一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり

文字の大きさ
10 / 15

10 王妃

しおりを挟む
義姉を城へ呼んだ。粗末な服を着てやってきた。

服は粗末だが見た目は驚く程変わっていない、この二十年がうそのようだ。

若い騎士がみとれている。手も肌も髪の毛もきれいなままだ。

「顔をあげて」というわたしの声に顔をあげた。なんの感情もみせずにわたしの顔をみている。

先に目をそらしたのはわたしだった。侍女に声をかけさせる。

「内密な話がありますので、部屋を移ります。わたくしについてきてください」

姿勢をくずさぬまますっと立ち上がった義姉をみて、侍女の目に一瞬、賞賛の光が浮かんだ。

そのまま部屋をでて行く後ろ姿を見送った。


しばらく待たせてから部屋に行くと、優雅に椅子に座ってお茶を飲んでいた。

王妃であるわたしが入っても立ち上がることはなかった。

「無礼な」と侍女長が言うと

「平民はマナーを存じません」と涼しい声で返ってきた。

「よい」と鷹揚に言ったが、飲まれたのはわたしのようだ。

正面に座ったわたしをなんの遠慮もなく義姉はみた。途端に自分がとてつもなく野暮ったい小娘だと感じてしまった。

いつも感じていた劣等感。品がいいのに、ふとした時に見える愛嬌。振り返る時のあの感じ・・・色気?乙女の硬さと清らかさがあるのに、女を感じさせる所作にあこがれて鏡の前で練習した。

「助けて欲しいの。国王が怪我をしました。足が動かなくなって」

「王妃様は聖女様ですね、ご自分でどうぞ」

「正直に言うとね。街である女をみかけ抱いている最中に彼女の亭主がやって来て、膝を割られてしまって・・・・歩けなくなって・・・」

「わたしはただのポーション屋。田舎のギルドでは大切にされてますが・・・・ポーションを作るだけですよ」

「いろいろな貴族がお姉さまを追放したことを、非難しますわ・・・自分たちも賛成しておいて・・・ローゼンブルグが尋ねて行ったでしょ。息子のためにプライドを捨てたのね。彼女帰りに殺されたのよ。それもただの野盗に・・・惨めな死よね。いやな女だったけど・・・長く一緒に居たから・・・いないと寂しいわ」

「わたしは平民のミーナ。あなたのおねえさんではありません」

「そうですわね・・・・助けてもらえないと・・・脅してもだめでしょうね。目の前でお父様を殺したって・・・・」

「隣の部屋にオセランがいます。会ってやって」
わたしが席を立つと義姉も黙ってついて来た。

部屋にはいると長椅子で半身を起こして夫は外をみていた。わたしが部屋にはいっても知らんふりをして外をみたままだった。

「オセラン」と声をかけると面倒そうにこちらを向いた。そしてわたしの後ろをみるなりその目を張り裂けんばかりに見開いた。

それから手で顔を覆った。切れ切れにこう呟いていた。

「来てくれたのか?ルミー会いたかった・・・ルミーが馬車に乗った瞬間からずっと後悔してる。ずっと恋しかった。かわらず綺麗だ・・・お願いだ・・・そばにいてくれ」

ルミー・・・オセロンだけが使った愛称・・・義姉もオセロンの事は愛していたはず・・・
予想はしていたが、胸が痛かった。曲がりなりにも二十年、ふたりで乗り越えた物もあったのに・・・・

確かにわたしはひどいことをして、義姉を追放したけど・・・・馬鹿だけど・・・・

オセロンのその姿を義姉はなにも言わず、表情も変えずみていた。

しばらく見ていたが、オセロンが咳き込む様をみて

「お医者様を」言った。声にはなんの感情もこもっていなかった。

医者が来たので義姉を今晩泊まってもらう離宮に案内させた。部屋は最高の部屋を用意した。

義姉に仕えさせた侍女を呼んで、どうすごしたかを聞いたら庭を散歩して図書館に行くと本を数冊借りて、その後それを読んですごしたそうだ。

この国の歴史書と歴代の王の伝記と貴族年間だった。義姉らしい。

翌日わたしが部屋を尋ねるまでそれを読んで過ごしていた。それからもう一度オセロンを見舞ってくれと頼んだが、断られた。


義姉が庭を散歩するとき、貴族がまわりをうろうろするようになってきた。かれらも義姉の能力を欲しているのだ。

彼らがそばに寄ってくると、挨拶は返しているようだ。それも正式に名前を呼んで・・・・・

オセロンは義姉が散歩している姿を食い入るようにみている。あの日、義姉が馬車に乗り込んだ時に後悔した・・・・オセロンの言葉がよみがえる。
わたしはある指示をだした。

その夜、離宮が火事になった。念の為、義姉の手足を縛るように言っておいた。

騒ぎは夜通しつづいた。ギルド長が護衛を次々倒して義姉の部屋へ入って行ったと聞いた。護衛とて手練、ギルド長を悩ませたようだ。


その後火の勢いが強くなり、誰も離宮に近づけなくなった。この夜、城から出たものはいない。

義姉の部屋からはなにも見つからなかった。義姉の生死はわからない。

庭から腕が見つかったが誰のものかわからない。ギルド長の腕が飛んだというものもいるが、腕がなくなった護衛もいるから・・・


オセロンは庭をずっと見ている。わたしのほうをみるが、わたしの後ろにだれかを探している。

この二十年、幸せだと感じたのは何日あったのだろう・・・・

明日は両親が見舞いにくるが・・・・恨み言を述べて帰るだろう。


それからしばらくしたある夜、誰かが・・・・いえ・・・あの男がわたしの寝室に忍び込んだ。

予想していたわたしは罠をしかけていたが、そいつは罠を掻い潜りわたしにせまった。

その黒い影はわたしの顔を切りつけた。隣の部屋で待機していた魔道士が一斉に攻撃をした。攻撃をかわしたそれがわたしのそばを通り過ぎたとき、わたしは床に横たわっていた。

それは空に消えたが血のあとが残っていた。血のあとを追って騎士たちが出て行った。

わたしは助け起こされて、ベッドに寝かされたが、顔の痛み以外はなにも感じなかった。

なにも感じない?? 感じない???どうゆうこと? と意識が闇に沈んだ。

次に気がついた時、ベルを鳴らそうとして手が動かなかった。手を怪我したのだと気付いた。

誰かを呼ぼうとしたが、のどがひりついて小さな声しか出なかった。

侍女はなにをやっているのと腹をたてていると、新入りがぼーっと入ってきて、わたしが目覚めているのをみて、慌てて部屋を出て行った。ほんとに気が利かない子ねと思いながら待っていると、医者と戻ってきた。
医者は水を飲ませるように指示をだした。医者は布団をめくるとわたしの体を調べた。気づくとどこも動かない。あの男め・・・こんなに怪我を負わせるなんて・・と同時に不甲斐ない護衛に腹が立った。

しばらくすると侍女長もやってきた。ローゼンブルグも気に入らなかったけど後任の、このイボンヌも気に入らない。

声が出にくいので睨みつけたが、平気な顔をしている。


「あなたなんて首よ」とどうにか声を出すと

「王妃殿下、わたくしは側室のエリーゼ様から、改めて侍女長を仰せつかりました。首にはできません」

「なんでエリーゼがそんなことを・・・・」
「王妃殿下。落ち着いて医者の説明を聞いてください。それからまたお話しましょう」と医者に目で合図をした。医者が話し始める。

「王妃殿下は怪我をなさいました『知ってるわよちゃんと手当してよね』その怪我は外傷こそ」といったところでドアが開きエリーゼが入ってきた。

「おそくなりました。宰相との打ち合わせ中に貴族がどんどん挨拶に来て・・・」と自慢げに言い、
「邪魔したわね続きを」と医者に言った。

医者は、はいと恭しく、エリーゼに礼をとるとわたしに向かい
「つまり、怪我で王妃殿下は全身麻痺となられました」
「え?」慌てて体を動かそうとするがどこもぴくりとも動かない。

叫ぼうとしたが、かすれた声?音が精一杯だった。すると侍女長が
「王妃殿下お気を確かに。王妃様。おいたわしいーー」と大声をだした。

侍女長の頭越しにエリーゼをみると笑っていた。

それからのわたしは侍女のお披露目の道具となった。

顔の傷は残ったが痛みはない。たまに貴族の誰かしらが見舞いに来る。その時にわざと体を拭いたり髪を手入れしたり、せめてマッサージをとみせつけるように世話をされる。

そこで見初められた侍女は貴族の家に勤めを変えるようだ。

見舞い客は世話が行き届いていることを褒めて、侍女長をねぎらう。侍女長はここぞとエリーゼを褒める
わたしに向かって見舞い客は
「これも王妃殿下の人徳ですね。こんなに大事にされて」というとさっさと出て行く。

侍女まで
「こんなに大事にしてくださるなんてエリーゼ様はよくできた方ですね。そうだ今日はレモンパイが届いてますよ」と口にいれてくる。レモンパイは義姉が好きだったものだ。
あれから誰も食べなかったのに・・・・わたしはパイを口に詰め込まれてむせた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

感情の贈与税 〜光の加護より、確かな契約。没落令嬢による国家再生録〜

しょくぱん
恋愛
「君のような地味な女、僕の隣にふさわしくない」 魔王軍を討伐し、凱旋した公爵令息カシアンが放ったのは、婚約者エレナへの冷酷な決別だった。 彼の傍らには、可憐な「救国の聖女」レティシア。 だがカシアンは忘れていた。彼の眩い金髪も、魔王を圧倒した剣技も、すべてはエレナが十年間「愛の贈与」として捧げ続けた魔力の賜物であることを。 「……承知いたしました。では、滞納分を含め、全魔力を今この場で『徴収』いたします」

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...