見栄と友情

朝山みどり

文字の大きさ
15 / 21

15 相続 浮気相手目線

しおりを挟む
あの相続の席に行く朝、わたしは鏡の前で何度も自分を見直した。
黒いワンピース。まとめた髪。
本家の跡取りの母の地位に相応しい、格好だ。

娘しか産めなかった本妻と違い、わたしは息子を産んだ。親戚も息子を跡取りと認めている。
その一点だけで、わたしは勝ったと思っていた。


「跡取りは男じゃないと」
「母親のあんたもしっかりしとるし」
葬儀の席で、みんなが挨拶に来た。喪主も親戚に押されて息子がやった。

だから、今日。
わたしはようやく正式な勝利を手にする。あの女は法律がとか、戸籍がとか、言ってるけど私が息子を産んだのは事実。それは揺るがない。


家、土地、財産、すべて息子のものになる。
わたしはその母親だ。本家はわたしのものだ。

本家のリビングは広く、やけに洋風で洒落ていた。
高そうなソファ。大きなテーブル。
その中央に、丁寧に手書きされた財産目録が置かれていた。

親戚がぎっしり集まっている。
誰もがわたしの息子を見てニコニコしていた。

本妻が、お茶を運んで来た。お茶請けにはお菓子もあるが、漬物、煮物。おにぎりを盛った皿もある。

こんな席なのに、こんなもてなしなの?親戚もあの人も当たり前の顔してる。

やがて、あの人は自分のマグカップを手に席についた。

「それでは、本家の相続について報告します。当主は息子が受け継ぎます」
彼女は静かに座り、目録を一枚ずつめくった。

「では、説明しますね」

(あんたに説明されたくない)
と心で毒づいたが、親戚が全員、彼女のほうを向いているので黙るしかなかった。

「まず、この家と土地、そして蔵の中身もですね。当たり前ですが……」

親戚の年長者がうなずいて言った。

「そうじゃのう。この家は息子が継ぐ。代々そうして来た」

「次に現金で三千万。相続税込みですが、渡します。まぁ息子の教育費を出していませんので」

「いい心がけだ。さすがだ」と一人が言うと、親戚一同がうなずいた。
でも、一人がわたしに向かって湯呑みをあげた。何お代わり?ってこと。
別の一人も湯呑みをあげた。

仕方ない、急須を持ってお茶を注いで回る。わたしが席に戻るのを待ってあの女が

「あと、わたしの嫁入り道具は持って行きます。確認お願いしますね」とわたしに向かって言った。

「あぁ、それがいい。わしたちはここで待っとるよ」
おにぎりに手を出しながら、笑顔で言われた。

古い畳の部屋に案内された。ちょっと高そうなタンスがあって、あの女が中から、黄色い布に包まれたのを出した。その中の紙の包み紙から着物を出していく。これは何々と色々言っているが、覚えきれない。全部にちゃんと実家の紋が入っているとか。それから子供の着物。お宮参りとかそんなの、娘の成人式。に娘の着物。嫁入り先に持って行ってないからここにあるけど、これは娘の物だから持っていくとか……それくらいはいいよ。

あとは鏡台とか、整理ダンスとか。

「明日、運び出します。立ち会いをお願いしますね」

と言われて、反射的にうなずいてしまった。


翌日、本家、ううん、わたしの家に行くと、美味しそうな匂いがしていた。

テーブルには、すでに煮物、漬物、お菓子におにぎり。今日は炊き込みご飯のおにぎりと、色々な具のおにぎりが並んで、湯呑みが用意してあった。

「お客さんが来るんですか?」
「そうね、引っ越しだから来ると思うわよ」

そう言うと、あの女は自分のマグカップにお茶を入れてソファに座った。

「ここも見納めね。ここはわたしが来た時は畳の部屋だったけど、膝が悪い親戚が増えてこんな風にしたのよ」とあの女が言ったけど、わたしは返事をしなかった。

「へーーこんな、器があるんですか?」と食器棚を見て言うと、
「あぁそれね。素敵でしょ。プリンを食べたりするのに使っていたのよ」と返事があった。

この足付きの器は、この部屋によく似合う。漬物だの煮物だの、嫌だな。

やがて、運送会社が来て、あの女の荷物を積み込んだ。あの女はエプロンを外してマグカップを包むと手提げに入れた。

運送会社のトラックを見送ると女は、門のところで頭を下げた。

「これで、嫁の役割は終わりました。お世話になりました。失礼します」

そして車に乗り込むと去って行った。

「じゃあ、ご本家さん、祝いでもするか?」と親戚は言うと家の中に入った。

わたしは、お茶を淹れたり、ビールと出したり、出前の寿司を頼んだり、ピザを頼んだり、親戚の奥さんもやって来たり孫も来たり……

「普段からこんなんじゃないのよ。今日はお祝いね」と誰かの奥さんがわたしの肩を叩いたが、笑う気力もなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

処理中です...