【本編完結】番って便利な言葉ね

朝山みどり

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62 十年後 ジークフリード目線

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 ウィルヘルム様が国王となって十年。あの素晴らしい即位の様は今でも折にふれて語られる。

 思えば、あの番たちはウィルヘルム様が王位へ、つく為に現れたのであろう。


 神は番を通して、伴侶をも、もたらして下さった。

 ウィルヘルム様は凛々しい茶色の狼の姿になり、大事な伴侶を背に乗せてゆっくり歩いている。



 番たちの最初のお子様。シーナ様は、始めてウィルヘルム様を見たとき、フイーフイーと声を出すとプクプクの手を伸ばしたのだ。

 するとウィルヘルム様は狼の姿になり、鼻の先をその手に押し付けたのだ。その時のシーナ様のはしゃぎようにサミー様は

「あら、犬さんが好きなの」と笑い

「犬などもっと可愛いのを連れてくる。その姿をやめよ」とアーネストがウィルヘルム様を押しのけた。

 それをサミー様は

「やめてよ、アーネスト。シーナが喜んでいるのに」とたしなめて下さった。

 以来、ウィルヘルム様はシーナ様のそばを離れず、人の姿の時は優しく抱き上げて話しかけ、狼の姿となり一緒に眠るなど、それは甲斐甲斐しく伴侶に尽くされた。

「ねぇジークフリード。ウィルヘルムとシーナは兄と妹として仲良しなの?それとも?」とサミー様に聞かれた時は

「それともです」

「まぁこんなに小さいのに?それにウィルヘルムは同じ年頃の女性と付き合う必要もあるのでは?」とサミー様が心配して言っているとアーネストが

「そうだ。こっちに来るな。勉強してろ。留学でもしたらどうだ。国政は俺がやるから」と言いだし、

 サミー様までその気になり、

「そうね、女性とのお付き合いがないのは良くないわ」と

 シーナ様が五歳になるまで、ウィルヘルム様は各国を回って勉強した。

 どの国の女性もウィルヘルム様に多大な好意を寄せた。

 ほんとうにこのわたし、ジークフリードがいなければ、危なかったと思う。だが、いろいろな女性を見たことはウィルヘルム様の大きな糧になった。その点はアーネストに感謝してやってもいいだろう。

 そして、留学を終えて戻ったウィルヘルム様を見たシーナ様は、アーネスト様の手を振り切りウィルヘルム様の元へ走って来たのだ。

「ウィル。ウィル。ワンワン」その声を聞いたウィルヘルム様は見事な狼となった。

 それは大きくて、シーナ様の頭より上に顔があった。そして大喜びのシーナ様はウィルヘルム様にしっかりと抱きついた。背伸びして、首にしっかりと抱きついたのだ。

「シ、シーナ」とアーネストがこの世の終わりのような顔をしたのは見ものだった。

「まぁシーナ」とサミー様は笑っておっしゃると、

「クリスとヘンリーを紹介してあげて」と双子の男の子を指さした。

 なんと、弟が二人とは・・・将来ウィルヘルム様を補佐して貰えると思っていたら、いきなり尻尾を掴んだり、よじ登ろうとしている。

 なんと・・・アーネストの子供なら仕方ないか・・・

 しばらくウィルヘルム様と遊んだ三人が疲れてお昼寝を始めると、ウィルヘルム様は人型に戻った。


「ジーク、わたしは考えていたんだ。大切のものは、手放したほうがいいって。サミー様とアーネストは一度離れたから、強く結びついた。わたしたちも離れたが、再び会えた。
 一度離れたシーナと会って、間違いないとはっきりわかった。これって番って事?」とウィルヘルム様が首を傾げる。

「どうでしょうね?わたしはわかりません。番って言わずにただただ、大切にすればいいと思います」

「そうかな? そうだね。言葉じゃないよね。この気持ちをどう言えばいいのか・・・わからないから」

「そうですよ。番って言葉を便利に使うのは、良くないですね」

 わたしの言葉にウィルヘルム様は

「そうだよね・・・シーナがいるせいか、この城は空気まで甘いよ」と言いながら、狼に変身すると走って行った。

 思わず変身して追いかけようとしたが、思いとどまった。わたしの役目はそばにいる事でなく、後ろから見守る事に変わったのだ。

 ウィルヘルム様の道は明るく開けている。
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