手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり

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第四話 破局の兆し

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そして一年が過ぎたが、テリウス様は仕事を辞めさせて貰えず王都を動かなかった。
わたしは王都と領地を往復というより、ほとんど領地に滞在して仕事をした。

この間、領地を視察中、偶然アドレー様に会った。
「あぁ、ちょうど良かった。荷物の集積所を作りたいと思って土地を探していたのですよ。ずうずうしいお願いですが、お口添えをお願いできませんでしょうか?」
「集積所ですか?」
「はい、港に着いた荷物を一時的に置いておく場所が欲しいのです。そのう、港の倉庫は高いのですよ。それでこの辺りに・・・土地を貸していただければいいのですが・・・」
「道に面しているほうがいいのですね」
「出来れば」
「わたくしの屋敷の横が空いてますが、広さが充分かどうか・・・もう一箇所回りますが、その後案内致します」
「助かります」
わたしたちは、橋を視察した。緊急で修理が必要ではないと専門家に言われているが、大きな事業になるので、心して心して、えいやって踏み切る案件だ。
「エリザ様、一つ言っていいですか?」
「はい。どうぞ」
「思い切って、隣りにもう一つ橋をかけるのはどうですか?」
「え?もう一本?」と変な声が出てしまった。
「はい。もう一本です」とアドレー様は遠くを見るように呟いた。
「ここは交通の要衝になります。馬車が行き交うでしょう。自動車も増えます。すれ違えなくなるでしょう。ですからもう、一本です。長期の投資になるでしょう。出資者を募りませんか?」
「あぁ、最近のやり方ですね」
「えぇ一つの領地でやる事業ではないですね」
「わたしは、学院で経営を学びました。卒業はしてないですが・・・でも今のご意見を伺って・・・自信がなくなりました。領民のためにと思って行動してます。ですがアドレー様のように先を見る目を持っていません。この橋だって人が、たまに荷馬車が渡ることしか考えられませんでした。ご一緒して良かったです。今年は節約して来年は修復と建設に取り掛かります」

「そうですね。税金が増えるようにしましょうね」というアドレー様の言葉が理解できずに
「え?」と間抜けな声が出てしまった。


領地の屋敷の隣りはアドレー様の気に入った。わたしが思ったより広く借りたいと言うことだった。

これが税金を増やすってことだと気がついたが、今頃お礼を言うには遅い。
わたしはまだまだ足りない。恥ずかしい。

天候に恵まれて領地経営はうまく行っているが、家族との関係は悪くなっていった。

先ず祖父との仲だ。
わたしが長老貴族院議長就任祝いの晩餐会の開催を渋ったことから気まずくなっている。
長老貴族院は王城に本部を持っていて、名前はご大層だが、早い話、御隠居さんの親睦団体だ。

その議長になったと言われても・・・だからどうなの?としか思えない。
だけど、ちょっと無理してお祝いはした。
父の葬儀の後、すぐに家族で祝った。
家族全員で食卓を囲んだ。祖父の好物を用意してワインもいい物を飲んだ。
だが、それでは足りないと祖父は言うのだ。

貴族院全員を招待して晩餐会をしたいと言うのだ。

無理だ。給仕が足りない。掃除する侍女も。食卓も大きさが足りない・・・まぁ二回に分ければなんとか? いやそんなことはどうでもいい。なによりかによりお金が足りない!!
父が生きていればとも思うが、父は死んだ。
父の葬儀費用の支払いがやっと終わったばかりだと言うのに!

そして腹立つことに義母が祖父の味方をしたのだ。

「せっかくの名誉を祝わないなんて・・・御義父様に尊敬が足りません。だいたい親の葬式を粗末なものにして」
「ありがとう。そう言って貰えるとは、わたしはあなたを誤解しておりました。本当に大切に思ってくれる相手になんてことをすまなかった」
「いえ、至らないわたくしがいけないのですわ。どうしても口下手で・・・お上手が言えなくて」
「お祖父様がお母様の真心に気づいて下さって嬉しいですわ」
「おぉラーラ。優しいお前に冷たくして悪かった」
「エリザ。税金がたくさん入って来たであろう。誤魔化すな」と祖父が大声で詰って来た。
「使い道はもう決まっております。どれも今年やらないと領民が苦労します。将来に渡る事業もあります。余裕はありません」と反論したが
「領民は領主の為に生きておるのじゃ。わからないのか?」と祖父は譲らなかった。
わたしも譲れない。
そこにテリウス様が来てくれた。わたしは思わず、テリウス様に駆け寄った。

「エリザ、気に病むことはない。借り入れをすればいいのだ。来年の小麦の税金を前取りすると思えばいいのだ。悪いことではない」
わたしは、自分の笑顔が消えるのを感じた。思わず、一歩下がって
「でもテリウス様、小麦の出来は確実なものではありません」と言った。
お願い、わかってと強く思った。なのに返って来た言葉は
「可愛い人だ。なにも心配はいらないよ。ちょっとの借金で貴族の矜持が守られるのだ。お金には変えられないよ。わたしに伝手がある」とテリウス様が言えば
「ほんとに可愛げがないわ。テリウス様がいいと言ってるのよ。言うこと聞きなさいよ」とラーラが言った。
四人がかりで責められたが、わたしは首を縦に振らなかった。
しまいには部屋に逃げ込んだ。

四人はその夜、わたしの悪口を言いながら過ごしたみたいだ。

その夏は涼しかった。とてもしのぎやすくて、王都は貴族の社交で盛り上がった。

そしてわたしは、借り入れをしなくて良かったとほっとしていた。
多分、税は例年より少なめにしないと領民は辛い冬になるだろう。もしこの涼しさが寒い冬につながるとすれば、薪の援助をしないといけないかも知れない・・・わたしはダイスに薪を多めに確保するように指示を出した。
ダイスはちょっと驚いたが、すぐに笑って了承してくれた。

夏の終わりのある日、テリウス様から、会いたいと手紙が来た。

当日、テリウス様だけでなくあちらのご両親や父方の親戚が集まった。
正直、とまどったが、最悪の展開に備えた。
と言っても、コルセットを緩めにしただけだが・・・

客間にはいると、すでにテリウス様とラーラが並んで座っていた。

祖父は迷ったようだが、わたしの隣りに座った。義母は微笑みを浮かべてラーラの隣りに座った。親戚はテリウス様の後ろに立った。
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