王妃はわたくしですよ

14 夏期休暇

　夏期休暇の前の試験はバーバラ・ジェーンが一位だった。

『勝った』と思ってジュディを見るとジュディはクラスの友だちと結果を見て、お互いに祝福しあっていた。

『あの程度で喜ぶ相手だったのね』とバーバラ・ジェーンは気が抜けた。

『あの馭者たちを見ただけで、なんで気になったのかしら、バカバカしい。所詮は平民じゃないの』と思った。

　久しぶりに明るい気持ちで、バーバラ・ジェーンは迎えの馬車に乗った。

　夏の社交は別荘地で繰り広げられる。そこのお茶会で、お嬢様としての価値しかない人たちに才能を見せつけてやるんだと、意気込んだ。

　屋敷に戻ると

「お嬢様、すぐにお手入れ致しますよ。こんなに美しいのに、勿体無い」と侍女長がすぐに言って来た。

「おいおい、先に娘を迎えたいのだが」と父親のモルフィ侯爵が冗談交じりに言うと

「だんな様が甘いから」と侍女長が言った。

「ひどいなぁ、勉強させているだけだよ」

「お嬢様は充分に賢いし、美しいです。これ以上は」と侍女長が言うのに、バーバラ・ジェーンは

「わがままの自覚はありますわ。お父様。だけど・・・人形のような生活は嫌ですの」と言った。侍女長は

「お嬢様はお人形さんのように綺麗なんです。すぐにお手入れをします」とバーバラ・ジェーンを部屋に連れて行った。
　痛いマッサージに耐えながら、バーバラ・ジェーンは『容姿端麗で頭脳明晰で身分も申し分ない・・・恐れることなんてなかった』と思った。


　さて、避暑地にある別荘にやって来たジュディは、今召使たちに頭を下げられて困惑していた。

「ジュディ様、軽くうなずいて『よろしくね』と言えばいいですよ」とパメラに小声で教えて貰ったジュディは

「よろしくね」と言うとギクシャクと歩いて、部屋に向かった。

「召使の名前と経歴、特に実家は覚えていますね」とパメラに言われて

「はい」と答えた。

「使用人は名前を呼ばれると喜びます。用事を言いつける。命令する。その度に名前を呼んで下さい」

「はい、パメラ」と答えるとパメラはにっこりと笑った。


　その時ノックの音がして

「入るよ」と三人が入って来た。

「さっそく、町に行こう。ボートに乗れる池もあるよ」とライリーが言うとパメラが

「本当にどちらが子供でしょうね。ジュディ様付き合ってあげて下さい」と言うと、クローゼットから大きな帽子を取り出して

「日焼けしないようにこれをかぶって行って下さい」とジュディに手渡した。

「いいですか、邪魔だからと脱いだらダメですよ」と念を押すと

「お気をつけて行って下さい」と送り出した。

「学院は申し分ないようだね。特別に報告はいらないくらいだ。この夏は上の者の態度を身につけて」とバージルが馬車のなかで言った。

　ジュディがうなずくと二人も力づけるように笑った。

　それから四人は街を散策してボートに乗った。

　湖の真ん中でバージルが真面目な顔で言い出した。

「残念だが、ジュディ。君の夫が弱っている。いますぐってことはなさそうだが。第二妃ジャンヌ、あの王太子の母親がのさばって来ている。それと第三妃の実家が動き出している。第三妃の子はまだ十歳だが担ぐ者もいる。正妃の君を狙う者も出てくるかも知れない。居場所は帝国の離宮だと思わせているから、今のところは安心だが、ただ情勢によっては帰国が早まる可能性が・・・頭の隅にこのことを」

「承知しました。そのつもりで過ごしてますので大丈夫です。王妃をやります。民の為なんて崇高な思いは持ってませんが、復讐の為に・・・それだけではありませんが・・・王妃になり権力を使います」

　ジュディの言葉に三人は顔を見合わせた。

「ジュディ。いいよ。思い切りやっていいし、協力するって言うか最初からこの方向だけどね」とバージルが言うと

　ライリーが

「さっそく今夜はモルファイ侯爵家の夜会に顔を出す。エスコートはこの俺だ」

「え？もう」と思わずジュディが言うと

「そうだ。覚悟を見せて貰おうか」とバージルが言うと

「楽しみにしてる」とミックが付け加えた。


　パメラはこう言って指導した。

「ジュディ様、女は演じてこそです」