王妃はわたくしですよ

朝山みどり

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18 夜会にて

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 ジュディはライリーと会場の中央で踊っていた。二人は気づかなかったが、とても優雅で上品だった。

 続いて、二曲踊るとライリーはジュディを食べ物のところに誘導すると

「今日は自分で取るな。どれが欲しいか教えて」と囁いた。

「えーと、あの肉と野菜を巻いたの。サーモンのカナッペ。あの煮込み。白いサブレ・・・黒いのも・・・」

「待て、一度とって来る」とライリーは言うと

 隅にあった椅子をちょっと動かし、まわりが広くなるように置いた。ついでジュディを座らせると

「ここから動くな」と言うとジュディの手を取り指先に口を近づけると、去って行った。

 ジュディは自分への視線に気づかぬ振りで座っていたが、少し体を斜めにした。すると片方の靴のつま先がスカートの裾からのぞいた。

「お嬢さん、そばにいることをお許しいただけますか?」と声がした。片手に椅子を持った緑の目の男性が立っていた。
 ジュディはその目を見上げたがなにも言わなかった。

「お許しはまだのようだが」と言いながら椅子を置くと自分が座り

「名乗ってもよろしいでしょうか?」と優しい口調で囁いた。

 今度は視線も動かさないジュディに

「はぁ見つめるだけで幸せですが・・・」と言い、そばに近づいて来た男を睨みつけた。

 その間に反対側に椅子を持って来た男が黙って座っていた。

 そして瞬く間に椅子を持って来た男たち五人が取り囲み

「始めてお見かけしました。どちらの姫様ですか?」

「ご令嬢、せめてお名前を」

 とジュディに話しかけお互い同士は

「君、令嬢に無礼だぞ」

「無作法すぎるぞ。わきまえろ」とか言い合っていた。

 会場の視線はこの一角に集まった。ジュディは内心焦ったが、心を無にして遠くを見てまわりに頓着していないと必死に見せかけた。

 そして、バーバラ・ジェーンが騒ぎに気がついた。

「まぁ、お盛んですこと」とジュディに話しかけたが、答えはなかった。ジュディは視線も向けなかった。

「あなた、この騒ぎはなんですの?はしたないと思いませんか?」と立て続けに言い立てた。しかし返事はなかった。

 ただ、不思議そうな目で見られた。

「答えなさい。この騒ぎはなんですの?」と重ねて言うと珍しいものを見るように、細かく観察されると

「尋ねる対象が違うのでは?」と返って来た。

 なにこの女、侯爵令嬢の自分に対する態度ではないとバーバラ・ジェーンは今更ながら気がついた。

「名を名乗りなさい」とバーバラ・ジェーンが言うと

「え?」と女は変な声を出し、改めてバーバラ・ジェーンをじっと見て

「あなた、バーバラ・ジェーンで間違いないわね」と言った。

「当たり前でしょ」と答えたが声に引っかかった。

「あなた、あなた誰よ!大体無礼よね。このわたしに向かって挨拶もないなんて」とバーバラ・ジェーンは言うと待った。
 相手がひれ伏して詫びるのを。

 だが、相手は涼しい顔で座っていた。そしてこの躾の悪い猿の名前は?と・・・・

 黙っている相手に圧倒されたバーバラ・ジェーンは無意識に一歩下がった。

 そこに

「やぁ、待たせたね。ちょっと捕まって。ってなに随分手狭になったね」と戻って来たライリーが言った。

 バーバラ・ジェーンはまた怒鳴りそうになった。その男は彼女を気にかけずに近寄って来ると隣りに置いた椅子に座る男に
「失礼だけど・・・」と声をかけた。するとその男はなにやら声にならないことを言うと席を立って去って行った。

 戻って来た男は持っていた皿を渡すと

「どうぞ」と言った。

「ありがとう」と女が囁くと男は嬉しそうに笑った。

 皿を受け取った女は、美味しそうに食べ始めた。肉と野菜を巻いたものは切り分けられていたが、ちょっと女の一口には大きいようで、女はフォークを皿を持った左手の指に預けると右手で、手づかみで食べ始めた。

「食べたの?」と女が男に聞くと

「全部どうぞ」と答えた。それを聞いて女はフォークを右手に戻すと、残りを食べた。

 その光景に見入ってしまったバーバラ・ジェーンははっと気を取り直すと

「あなた誰よ。無礼よ」と再び騒ぎ出したが、男が小さく

「下がれ」と言ったときに背中がぞっとした。

 そしてひるんだことを誤魔化す為に、椅子に座っていた男に向かい

「ダンスをすることを許します」と手を差し出した。ずっと状況を見ていた男は手を取るとその場を離れた。

 ジュディを取り囲んでいた男たちは、ライリーが戻って来てジュディに傅くのを見て、やはりこの方は手の届かない方だと思った。

 お皿を空にしたその方は、なにか付き添いに囁いた。すると付き添いはニコリと笑い再びテーブルに向かった。

 戻って来た男性の皿には果物と菓子が盛られていて姫様はニコリと笑った。


 食べ終わった姫様はもう一度ダンスをすると、会場を出て行った。

 思わず礼をとって客は見送ったが、彼女は見向きもしなかった。


「よく出来ました。合格です」とライリーは囁いた。




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