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29 ジュディと王妃
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「そうですね、無学な親を持った子供は苦労します」と大司教の声が悲しげでジュディは胸が痛んだ。今、彼は子供時代の痛みを思い出している。権力闘争に勝った策略を巡らす、清貧を気取った嫌な親父じゃなく。
可哀想な子供。身に覚えのあるジュディは彼を慰めたいと思った。
「スペル大司教。その無学な親がその愛を注いだ名前は素晴らしいのでは?先ほど、ご一緒させていただいた子供たちには大司教のお名前を教えております。名前一つでも親は愛を示すとすごくわかりやすい名前ですよ。
だいたい選んだスペルって言葉が素晴らしいですよ。すべての言葉を表す手段ですよ。神の御技ですよ。スペル大司教」
「ほんとうにそうですね。スペル大司教。わたくしも真似して一つ自慢して良いですか?」
「王妃殿下、あなたは自慢するものがたくさんありましょうぞ」と大司教が言うと
「いえいえ、自慢できるのはこちらのジュディです。このお茶会も、大司教が派手で贅沢を嫌うことは皆が承知しておりますでしょう。ですので地味で、それでいて尊敬を表すにはどうしたらいいか、考えてくれましたの。予算が余りました分は孤児院と教会に寄付したみたいですね。ジュディ。わたくしに遠慮しないで良いからそのことを報告してスペルじゃなくてスピーチよ」
「はい、王妃殿下。そうおっしゃっていただくと身が縮みます。単に寄付しただけでございます」
「なに言ってるの宰相に一歩も引かなかったのは知ってるわよ」
「宰相のお立場も」
「確かにそうね・・・まぁこんな風に優しくて強いのがジュディです」
「左様ですか?失礼ながら、王宮には珍しいお方だなと思っておりました」
「まぁ珍しいとは、随分な」
「いやぁ口がすぺりました」
「ほほっほほ」「ははっは」「フォフォッフォ」と笑いが弾んた。ジュディはきりきりしていた胃が、治まるのを感じた。
王妃の実力を舐めていたと思った。バーバラ・ジェーンを締めてやると思った。
「わたしは今日来て、良かったを心より思っておりますよ」と大司教が王妃を見ながら言った。皆が次の言葉を待った。
「美しいものを見ることが出来ました。女性のことを褒めるのは立場上、恥ずかしいのですが・・・いえ、禁止されておりません・・・ただ、わたくしは朴念仁で、賞賛されるのに慣れておられる殿下に申し上げるのが恥ずかしいのですが、実にお美しい。その纏った衣装も、優雅な手の動きも。袖も綺麗で清楚で袖の花もいいですね。艶やかさも美しさも束の間だと教会は教えます。わたくしはその束の間の美は神の寛大さだと思っております。楽しませていただいております」
顔を真っ赤にして、彼がその言葉を言いおわった時、皆は王妃の顔を見た。その表情によって反応を変える必要があるのだ。
意外にも王妃も顔を赤くして
「ありがとうございます。こんな心のこもったお褒めの言葉は初めてです。大司教様、いつ教会は女性信者を喜ばせる方法を見つけたのですか?次は陛下も一緒にお茶を飲みましょう。しっかり教えてあげて下さい」
テーブルを囲んだ面々は、楽しげに笑い
「大司教様が切り開いて下さいました。これで、ジュディ様を褒めていいのですね」と言うともっと笑った。
「わたくしまで巻き込んで下さいました」とジュディは大司教に目でお礼をした。
「この地に参った折には、こうして笑い合いたいものです」と言って大司教が帰って行った。
馬車乗り場まで、送ったジュディに、大司教は
「あのバーバラ・ジェーン。いらなくなったら引き取りますぞ。神は偉大ですから」とささやいた。
不覚にもジュディは
「はっ・・・その」と反応してしまったが、大司教は
「ふふ、待っております」と言うと馬車に乗り込んだ。
馬車が見えなくなるとジュディは疲れがドッと出て、座り込む所だった。
戻るとバージルが呼びつけられて、王妃に詫びている所だった。
「なに、こんな無能をあなたは使っているの?そりゃジュディを貰ったのは悪かったわ。あっもしかしたら、それって意趣返しね。ジュディを取られた恨みで・・・図々しく割り込んで来るのを止めなかったのはわざと・・・」
「ひどいですよ。わたしが女性に強く出られないのを存じてらっしゃるのに」
「そうだとしても」
「でも、見事に収めたそうですね」
「ジュディがいてくれたからよ」
二人がこんな会話を交わしている間、バーバラ・ジェーンは黙って座っていたが
「わたくしのせいではありません。ちゃんと教えなかったジュディが」
「黙りなさい。おまえは解雇よ。だいたいそのドレスはなに!みっともない!お金をかければいいと思ってる、成り上がりの小娘が・・・」
可哀想な子供。身に覚えのあるジュディは彼を慰めたいと思った。
「スペル大司教。その無学な親がその愛を注いだ名前は素晴らしいのでは?先ほど、ご一緒させていただいた子供たちには大司教のお名前を教えております。名前一つでも親は愛を示すとすごくわかりやすい名前ですよ。
だいたい選んだスペルって言葉が素晴らしいですよ。すべての言葉を表す手段ですよ。神の御技ですよ。スペル大司教」
「ほんとうにそうですね。スペル大司教。わたくしも真似して一つ自慢して良いですか?」
「王妃殿下、あなたは自慢するものがたくさんありましょうぞ」と大司教が言うと
「いえいえ、自慢できるのはこちらのジュディです。このお茶会も、大司教が派手で贅沢を嫌うことは皆が承知しておりますでしょう。ですので地味で、それでいて尊敬を表すにはどうしたらいいか、考えてくれましたの。予算が余りました分は孤児院と教会に寄付したみたいですね。ジュディ。わたくしに遠慮しないで良いからそのことを報告してスペルじゃなくてスピーチよ」
「はい、王妃殿下。そうおっしゃっていただくと身が縮みます。単に寄付しただけでございます」
「なに言ってるの宰相に一歩も引かなかったのは知ってるわよ」
「宰相のお立場も」
「確かにそうね・・・まぁこんな風に優しくて強いのがジュディです」
「左様ですか?失礼ながら、王宮には珍しいお方だなと思っておりました」
「まぁ珍しいとは、随分な」
「いやぁ口がすぺりました」
「ほほっほほ」「ははっは」「フォフォッフォ」と笑いが弾んた。ジュディはきりきりしていた胃が、治まるのを感じた。
王妃の実力を舐めていたと思った。バーバラ・ジェーンを締めてやると思った。
「わたしは今日来て、良かったを心より思っておりますよ」と大司教が王妃を見ながら言った。皆が次の言葉を待った。
「美しいものを見ることが出来ました。女性のことを褒めるのは立場上、恥ずかしいのですが・・・いえ、禁止されておりません・・・ただ、わたくしは朴念仁で、賞賛されるのに慣れておられる殿下に申し上げるのが恥ずかしいのですが、実にお美しい。その纏った衣装も、優雅な手の動きも。袖も綺麗で清楚で袖の花もいいですね。艶やかさも美しさも束の間だと教会は教えます。わたくしはその束の間の美は神の寛大さだと思っております。楽しませていただいております」
顔を真っ赤にして、彼がその言葉を言いおわった時、皆は王妃の顔を見た。その表情によって反応を変える必要があるのだ。
意外にも王妃も顔を赤くして
「ありがとうございます。こんな心のこもったお褒めの言葉は初めてです。大司教様、いつ教会は女性信者を喜ばせる方法を見つけたのですか?次は陛下も一緒にお茶を飲みましょう。しっかり教えてあげて下さい」
テーブルを囲んだ面々は、楽しげに笑い
「大司教様が切り開いて下さいました。これで、ジュディ様を褒めていいのですね」と言うともっと笑った。
「わたくしまで巻き込んで下さいました」とジュディは大司教に目でお礼をした。
「この地に参った折には、こうして笑い合いたいものです」と言って大司教が帰って行った。
馬車乗り場まで、送ったジュディに、大司教は
「あのバーバラ・ジェーン。いらなくなったら引き取りますぞ。神は偉大ですから」とささやいた。
不覚にもジュディは
「はっ・・・その」と反応してしまったが、大司教は
「ふふ、待っております」と言うと馬車に乗り込んだ。
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戻るとバージルが呼びつけられて、王妃に詫びている所だった。
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「そうだとしても」
「でも、見事に収めたそうですね」
「ジュディがいてくれたからよ」
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