王妃はわたくしですよ

朝山みどり

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38 葬儀が終わって

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 長い葬列の行き着く果ては、墓地だ。国王の遺体は霊廟のなかに収められた。

 扉が閉められた音を聞いた時、ジュディは自分が涙を流したことに気づいた。そばにいるリチャードがハンカチを渡してくれて気がついた。

「ありがとう。リチャード」

「王妃様。わたしは泣けません。悲しくないです。国民として国王陛下が亡くなったことは悲しいですが・・・」

「そうよね。殆ど、知らない人。わたくしもあまり知らない。ただ、陛下はいろいろなことを我慢して、周りも陛下に我慢して・・・」

「大人になったら、わかるでしょうか?」

「どうでしょうか?」

「行きましょうか」とジュディが手を差し出すとリチャードはその手を握った。


 霊廟を出るとカール王太子が、立っていた。

「おい、女。命を助けてやるから出て行け」と得意満面の顔で言った。普段なら言葉の途中でバージルが取り押さえる所だが、最後まで言わせた。

 第二妃ジャンヌはカールの少し後ろで自信に満ちて笑っている。第三妃シルビーはビリーの手を引いている。シルビーは緊張していて、ビリーは驚いている。

 貴族は無表情で立っている。この段階で表情を出すのはよくない。喜んでいるのは、ガーディナー伯爵。アルトナー子爵。一番青くなったのは宰相。

 そして王妃、ジュディは面白そうに笑った。

「反逆ですね。王が亡くなった時点でわたくしに、王位が移ってますから。わたくしの王位継承順位一位は帝国の保証があります。わたくしがそこの馬鹿のやらかしで人質になる時に設定されました。
 もう忘れたのですか?カール。もう忘れたのですか?それとも忘れたふりですか?宰相」

「なんだと。たかが人質に行ったくらいで」

「そうです。たかが人質です」とバージルが答えた。そしてバージルは金髪、金目の護衛から、黒髪、青い目の帝国宰相に変わった。

「宰相、反逆者の始末は帝国がしてもいいですが、王国でやりますか?裁判の必要もないですね。目の前で起こったことですから」とバージルが言うと、宰相が答えるまえに

「皆、この女なんか殺せばいい」と第二妃ジャンヌが言った。

「そうよ。こんな女」と第三妃が言うと

「こんな女じゃない。王妃様だ。ミックがいつも褒めてる」と母親のシルビーの手を振り払ってビリーが言った。

 それを見たジュディがビリーに頷くとビリーはミックのそばにやって来た。ミックはビリーに

「王妃殿下のもとへ」とささやいた。

「ビリー。なんてことなの。そんな女に」と第三妃が言うとカールが

「そうだ。そんな女なんか、殺せばいいのだ」言った。するとカールとミックがさっと動いた。

 カールの周りにいた護衛と騎士団が倒されてかすかにうめき声を上げ、カールは跪かされた。

「葬儀の席で見苦しい。わが夫の死を第二妃も第三妃も悼んでないことは知っていましたが、ここまでとは。謀反人を牢へ。貴族として扱う必要はありません」と宰相へ向かって言った。

 宰相は青い顔をしていながら

「陛下のおっしゃる通りに、謀反人を牢へ。怪我をした者は手当を」と言った。

「倒れた者はしばらくすると動けるようになる。わたしが説明するからこのままでよい」とカールが訂正した。

 宰相はバージルへ向かって

「帝国より来ていただいていたとは、存じませんでした。騒動になる前に抑えることが出来ました。感謝いたします」と深く頭を下げた。

「あぁ。あなたも大変だな」と答え、すっと近寄ると耳元で

「後始末をしてくれるのに、感謝している。今回も申し訳ない」とささやいた。

 宰相は
「いぇ」と小さく返したが、半分はため息だった。



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