気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり

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第43話 メアリーの試練

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「殿下、殿下・・・起きて下さい」と体を揺さぶられてメアリーは目が覚めた。
こんな乱暴な目にあったことがない。

「殿下。殿下! あっ メアリー様。メアリー様」とライラに揺さぶられてはっきり目が覚めた。
「あっメアリー様、起きて下さい。寝坊です。すぐに服を着ます」とライラは言うと

メアリーの寝巻きを脱がせて、頭から服を被せた。

手早くボタンを留めると、髪にざっとブラシをかけ、三つ編みを二本編んで頭に巻きつけた。
手抜きもいいとこだが、メアリーは怒鳴りつける暇がなかった。

「浴室で顔を洗ったら行きますよ」と浴室のドアを開けられたからだ。

顔はベッド・・・浴室で洗うって・・・あれ・・・とメアリーは思ったが

「急いで下さい。先に行ってます」とライラに畳み掛けられてメアリーは浴室に入った。

メアリーが通路に出るとライラの姿は遠くになっていた。

「待ちなさい・・・ライラ」とメアリーは言ったがライラは止まらなかった。

メアリーはライラを追って急いだ。

食堂についたときメアリーは息が切れて汗をかいていた。

部屋に入ったときはお給仕はすんでいたが、汗びっしょりのメアリーをパールが見とがめて

「出て行きなさい」と言った。

「え?」とメアリーが言うとパールはメアリーの腕をとらえ外に連れ出した。

「遅刻するなんて、お側に仕えるつもりがあるの?それに汗臭い!このまま掃除の手伝いにはいって貰います。それとちいおじ様たち悲しんでますよ。無視されたって」と言うと腕を持ったまま

廊下の外れで掃除をしていた集団のところへ連れて行って

「教えてあげて、面倒をかけて悪いけど・・・」と言うなり去って行った。


「アッシュ様のお側に仕える準備でここにいる女ってあなたよね。わたしはルーシー。取り敢えず今日は一緒にいましょう。ゆっくり教えられないから、この雑巾を持って近くにいたらいいわ。へたになにかやろうとしないでね」
とメアリーに雑巾を手渡した。

「あっ名前は?」
「メアリー」
「メアリーね。みんなメアリーよ。一人にしないようにしてあげて」


メアリーはルーシーのそばを雑巾を持ってうろうろした。

そうしているうちにお昼になった。控え室に行くとスープの鍋とお肉を焼いたものとパンが置いてあった。

「メアリーのお肉はないわね。急に配属されたから、スープとパンだけよ」とルーシーが言った。

「なんですって・・・ほんとに信じられない」とメアリーは言ったが

「全然働いてないのよ。当たり前でしょ。だいたいアッシュ様のお側に仕えたいってねぇ。図々しいのよ。その程度で」とルーシーが言うと周りが笑った。

「なんですって・・・」と言うとメアリーは雑巾を投げ捨てた。

去って行くメアリーの後ろ姿を見て彼女たちはお互いに目配せし合って、笑いあった。

メアリーは部屋に戻ったが、ベッドは、朝、起きた時のまま。洗面所のドアも開いたままで、メアリーがびしょ濡れにした床はまだ濡れていた。

「なんてこと・・・侍女はなにやってるの!」とメアリーは、腹正しさに枕を壁に投げ付けながら言った。

それから、いらいらと部屋を歩き回り、勢いよくベッドに寝転がった。

「もう、宝石なんていらない。買えばいいのよ」「ちゃんと理解わかるように説明しないから・・・騙された」「そうだ。正式な国賓として扱って貰えば」とかブツブツ言っているうちに空腹を思いだした。

朝、食べてないしお昼も粗末だった。と思うと立ち上がり部屋を出ると歩き出した。

「おや、メアリー様。一人でどうなさったのですか?」と前からニールがやって来た。
「おなかがすいたから、食事の用意をさせようと思ってライラを見なかった?」

「ライラさんでしたら、侍女の皆さんとお茶してましたよ」

「なんですって・・・わたしをほったらかして・・・しつけ直さなきゃ」とメアリーが歩き出すと素早く前に回り込んで

「いや、まずい。それはやめたほうがいい。部屋で待っていて下さい。なにかお持ちします」と言うとニールはメアリーが部屋に戻るように促した。

「・・・そう、頼んだわ」とメアリーは部屋に向かった。

ニールはメアリーの後ろ姿を見ながら

「はて、さて? どうしてここに来ようと思ったんだろ? あの手紙は彼女の作じゃないだろうが・・・あんな嘘まで書いてっていうか、親もあの手紙がやばいってわからなかったのか?ちゃんと説明してるみたいだし。ライラさんは、ここのことを理解していたしね。あの娘がアホってことか?アホなら国外に出さないよなぁ・・・船を早めるように連絡入れたが・・・穏便に帰って欲しい。面倒はいやだ。身ひとつになる前に船が来てくれるといいけど」と呟いていたが

「おっと、食い物。食い物。腹が減るとライラさんに当たるだろうからね」と厨房に向かった。


いつのまにかメアリーは午前中だけ、雑巾を持ってうろうろするだけの存在になった。時々ライラが部屋の掃除とベッドのシーツを取り替えてくれたが、メアリーはいつも不満でたまにライラをぶった。


ある日、メアリーが部屋に戻ると、おば様たちが部屋にいた。

「なにを!」と大声を出したメアリーを平然と見て

「わたしたちの物を取りに来たんだよ。いつまでたっても持って来ないから取りに来てあげたんだよ」

「ここにあるのはわたしの物です。どろ」と言いかけると

「黙んなさい。なにを言おうとした?」

「ひぇ」とメアリーは後ずさりした。


しばらくすると

「これくらいかね」
「こんなもんだね」
「期待はずれだね」
「虫けらに 手間暇かける 遊んでる」
「ひどいね。遊んでるとか、せめて、めんどくさ これくらいにしておいて」
「もしかして 才能とやら ひけらかす」
そこでおば様たちは、ふぉっふぉっふぉおおと笑うと出て行った。

なんてこと、なんてこととメアリーは、散らばった荷物を見た。ドレスが乱雑にたたまれ、装身具が散らばり、ドレスのリボンがちぎれて床に落ちていた。

無理だ。無理だ。船を出させるとドアを開けると、ニールがこちらへ歩いて来ている。

「おなかが空きましたか?」とのんびりと言うのを睨みつけて

「帰る。船を呼んで。それから王族が話をすると国王へ伝えて。正式に国の代表として話したいと」

「それはやめたほうがいいですよ。判断できないでしょ。後で怒られますよ」

「怒られるってなに?子供じゃないから」

「やめたほうがいいですよ。命取られるわけじゃない。今のままで船を待つのが一番です」

「いいえ。王族として王女として話しています」とメアリーが思わず地団駄踏むと

「いや、そんなんじゃ無理よ。やめて・・・食べる物持ってくるし、ライラさん呼んできます」

とニールは走って行った。
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