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第十一話 王妃の懐妊
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[おい、ママ。驚いたな。突き落とすとはな。でも大丈夫だ]
[これで大丈夫とか、大丈夫じゃないわよ!正気?]
[あぁ、あの女のところの怨念と悪意が使えるやつらでな。お前の腹から出たのを取り込んでな。王妃の腹に入り込んだ]
[入り込んだ?!]
[そう、文字通り。はいれた。うまく行った]
[そうなんだ。喜ばせるのは嫌だけど]
[そう言うな。あの男の種にママが血肉を与えたのを。怨念と悪意と恨みと妬みが育てるんだ。あの女の腹でな!どんな怪物が出るのか。楽しみだ。あの女から生気を吸い取ってやるみたいだぜ]
[確かに・・・楽しみね]
[これから、王宮は面白くなる。ママ! うんと楽しんで]
[そのつもり]
[そうこなくっちゃ。ママ]
王妃の懐妊がわかると国王は驚くとともに嬉しかった。妊娠が嬉しかったと言うより自分の判断が正しかったと胸を張れるのだ。正直、妊娠するとは思っていなかったが・・・
「エミリー。辛い目に合わせた。だが、診断は間違いだった。この子は大事な我が子だ」と王妃の腹を撫でた。
王妃の実家であるサンダース侯爵は、第一王子アレクの披露を大々的に行ったことを後悔していた。
国王の青い目とエミリーの金髪の王子。世継ぎとなるべく受け継いだ色合いだ。お披露目には生母は体調が悪いと欠席させた。アレクの金髪と青い目を見て、まるでお二人の子供のようだと皆が誉めそやした。侯爵は得意の絶頂だった。だのにエミリーが懐妊した。今更だ。今更だが、やはり血を分けた孫に期待してしまう。
「あの邪魔な王子が事故に遭わなければいいが・・・」孫を心配する祖父の独り言は大きかった。
そんなある日、アレクが庭で倒れていた。首に指の跡がつき意識不明だった。
「アレク様は動くのが早くてすぐに見失ってしまいます」
「元気は嬉しいですが、追いかけるのが大変です」
「皆さん気をつけましょうね」
そんな会話が交わされていた矢先の出来事だった。
幸い駆けつけた医者の手当で、すぐに息を吹き返した。
命を取り留めて胸をなで下ろしたが、アレクはその小さな手にボタンを握り締めていた。
それは侍女の制服の袖口に付いているボタンだった。
ただちに部屋の侍女の制服が調べられたが、全員ボタンは揃っていた。ただ、手首周りに引っかき傷のある侍女がいた。
パトリシア・スミスだ。彼女は傷をこう説明した。
「歩いていたら、誰かに押されて生垣に飛び込んだんです。傷はそのときのものです。先ほどのことです。そのとき、袖口が汚れたので着替えました」
「まぁそう言うことなら、その制服を見せてちょうだい。それで解決ね」とクッションに寄りかかっていた王妃が言うと護衛がパトリシアと一緒に出て行った。
しばらくして二人は戻って来た。護衛の手にある制服の袖口にボタンはついてなかった。
「違うんです。ちゃんとボタンはついていました。誰かがボタンを取ったんです」とパトリシアは涙ながらに言った。
そのとき知らせを聞いた国王が部屋に入って来ると先ず王妃に向かい
「アレクが心配なのはわかるが、エミリーも大事な体だ。このような場にいるのは良くない」と言った。すぐにジョシーが動き王妃を寝室に連れて行った。
目に見えて王妃は衰弱している。金髪は色褪せて艶がなくなり、肌も分厚くかさつき今にも粉を吹きそうだ。侍女長の指示のもと手入れをしているが、追いつかない。
王妃が姿を消したのを確認して国王が
「そのほう、銀灰宮を追い出されて王妃に拾われたと聞いたが」と国王が睨みつければ
「はい、王妃殿下には深い恩がございます」とパトリシアは泣き伏したが
「王家のものを殺そうとした・・・伯爵家の考えか?」と国王は続けた。
「違います・・・」とパトリシアは泣きながらも必死に言った。そこへサンダース侯爵が現れた。
「聞きました。陛下。アレク様が害されたと・・・この女が犯人ですか?銀灰宮にいたものですね。無礼を働いたのを王妃殿下が慈悲を持って雇われたと言うのに恩知らずな・・・」
「いいえ。いいえ・・・そんな・・・」とパトリシアは嗚咽でなにも言えなくなった。
「なんということだ。おまえの父親の伯爵は王家に忠実であるので、娘のお前がこんなことをするとは・・・」
「そうなのか?」と国王が言うと
「左様です。この娘の私怨です。銀灰宮にいるときから、あちらの妃殿下に楯突いていました。妃殿下に対する気持ちをいたいけな幼子に向けたのでしょう」とサンダース侯爵は言った。
パトリシアは即刻、籍を抜かれて平民となった。ただ、王妃の侍女が王子を殺そうとしたことは伏せられた。そして王妃の懐妊中に血なまぐさいことを起こしたくないということで、下手なことを広めないようパトリシアはサンダース侯爵家があずかった。
アレクは元気になった。侍女だけでなく護衛もアレクのあとを追いかけている。
今日は、サンダース侯爵夫妻も交えて庭でお茶をすることになった。
アレクは侍女と護衛の手をすり抜けて、走ってやって来た。
「おじいさま、こーにちぁ」とアレクは頭を下げた。
「アレク様、こんにちは、お元気でなによりです」とサンダース侯爵はアレクを抱き上げた。そして
「重くなりました」とアレクを下ろした。
「せきにぃのおもみ」とアレクが答えた。
「責任の重み」その言葉にサンダース侯爵は驚いた。誰が教えたのだろうか?
有能な孫などいらぬ。それにこいつは血筋ではない。こいつは排除だ。
にこにこ笑いながら、お茶を飲み、大きくなった腹を撫でる娘に話しかけながら侯爵は決心した。
[これで大丈夫とか、大丈夫じゃないわよ!正気?]
[あぁ、あの女のところの怨念と悪意が使えるやつらでな。お前の腹から出たのを取り込んでな。王妃の腹に入り込んだ]
[入り込んだ?!]
[そう、文字通り。はいれた。うまく行った]
[そうなんだ。喜ばせるのは嫌だけど]
[そう言うな。あの男の種にママが血肉を与えたのを。怨念と悪意と恨みと妬みが育てるんだ。あの女の腹でな!どんな怪物が出るのか。楽しみだ。あの女から生気を吸い取ってやるみたいだぜ]
[確かに・・・楽しみね]
[これから、王宮は面白くなる。ママ! うんと楽しんで]
[そのつもり]
[そうこなくっちゃ。ママ]
王妃の懐妊がわかると国王は驚くとともに嬉しかった。妊娠が嬉しかったと言うより自分の判断が正しかったと胸を張れるのだ。正直、妊娠するとは思っていなかったが・・・
「エミリー。辛い目に合わせた。だが、診断は間違いだった。この子は大事な我が子だ」と王妃の腹を撫でた。
王妃の実家であるサンダース侯爵は、第一王子アレクの披露を大々的に行ったことを後悔していた。
国王の青い目とエミリーの金髪の王子。世継ぎとなるべく受け継いだ色合いだ。お披露目には生母は体調が悪いと欠席させた。アレクの金髪と青い目を見て、まるでお二人の子供のようだと皆が誉めそやした。侯爵は得意の絶頂だった。だのにエミリーが懐妊した。今更だ。今更だが、やはり血を分けた孫に期待してしまう。
「あの邪魔な王子が事故に遭わなければいいが・・・」孫を心配する祖父の独り言は大きかった。
そんなある日、アレクが庭で倒れていた。首に指の跡がつき意識不明だった。
「アレク様は動くのが早くてすぐに見失ってしまいます」
「元気は嬉しいですが、追いかけるのが大変です」
「皆さん気をつけましょうね」
そんな会話が交わされていた矢先の出来事だった。
幸い駆けつけた医者の手当で、すぐに息を吹き返した。
命を取り留めて胸をなで下ろしたが、アレクはその小さな手にボタンを握り締めていた。
それは侍女の制服の袖口に付いているボタンだった。
ただちに部屋の侍女の制服が調べられたが、全員ボタンは揃っていた。ただ、手首周りに引っかき傷のある侍女がいた。
パトリシア・スミスだ。彼女は傷をこう説明した。
「歩いていたら、誰かに押されて生垣に飛び込んだんです。傷はそのときのものです。先ほどのことです。そのとき、袖口が汚れたので着替えました」
「まぁそう言うことなら、その制服を見せてちょうだい。それで解決ね」とクッションに寄りかかっていた王妃が言うと護衛がパトリシアと一緒に出て行った。
しばらくして二人は戻って来た。護衛の手にある制服の袖口にボタンはついてなかった。
「違うんです。ちゃんとボタンはついていました。誰かがボタンを取ったんです」とパトリシアは涙ながらに言った。
そのとき知らせを聞いた国王が部屋に入って来ると先ず王妃に向かい
「アレクが心配なのはわかるが、エミリーも大事な体だ。このような場にいるのは良くない」と言った。すぐにジョシーが動き王妃を寝室に連れて行った。
目に見えて王妃は衰弱している。金髪は色褪せて艶がなくなり、肌も分厚くかさつき今にも粉を吹きそうだ。侍女長の指示のもと手入れをしているが、追いつかない。
王妃が姿を消したのを確認して国王が
「そのほう、銀灰宮を追い出されて王妃に拾われたと聞いたが」と国王が睨みつければ
「はい、王妃殿下には深い恩がございます」とパトリシアは泣き伏したが
「王家のものを殺そうとした・・・伯爵家の考えか?」と国王は続けた。
「違います・・・」とパトリシアは泣きながらも必死に言った。そこへサンダース侯爵が現れた。
「聞きました。陛下。アレク様が害されたと・・・この女が犯人ですか?銀灰宮にいたものですね。無礼を働いたのを王妃殿下が慈悲を持って雇われたと言うのに恩知らずな・・・」
「いいえ。いいえ・・・そんな・・・」とパトリシアは嗚咽でなにも言えなくなった。
「なんということだ。おまえの父親の伯爵は王家に忠実であるので、娘のお前がこんなことをするとは・・・」
「そうなのか?」と国王が言うと
「左様です。この娘の私怨です。銀灰宮にいるときから、あちらの妃殿下に楯突いていました。妃殿下に対する気持ちをいたいけな幼子に向けたのでしょう」とサンダース侯爵は言った。
パトリシアは即刻、籍を抜かれて平民となった。ただ、王妃の侍女が王子を殺そうとしたことは伏せられた。そして王妃の懐妊中に血なまぐさいことを起こしたくないということで、下手なことを広めないようパトリシアはサンダース侯爵家があずかった。
アレクは元気になった。侍女だけでなく護衛もアレクのあとを追いかけている。
今日は、サンダース侯爵夫妻も交えて庭でお茶をすることになった。
アレクは侍女と護衛の手をすり抜けて、走ってやって来た。
「おじいさま、こーにちぁ」とアレクは頭を下げた。
「アレク様、こんにちは、お元気でなによりです」とサンダース侯爵はアレクを抱き上げた。そして
「重くなりました」とアレクを下ろした。
「せきにぃのおもみ」とアレクが答えた。
「責任の重み」その言葉にサンダース侯爵は驚いた。誰が教えたのだろうか?
有能な孫などいらぬ。それにこいつは血筋ではない。こいつは排除だ。
にこにこ笑いながら、お茶を飲み、大きくなった腹を撫でる娘に話しかけながら侯爵は決心した。
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