半分強化の冒険者

朝山みどり

文字の大きさ
11 / 38

11 ニックの嫉妬

 ポール・セレンが、地獄の狼を倒した?

聞いたとき、俺は笑った。いや、笑おうとした。でも喉の奥に引っかかって出てこなかった。

「そんなわけあるか」

そう言ったのは俺じゃない。ジョンだった。けど、俺も同じ気持ちだった。

 地獄の狼。伝説だろ? 見ただけで死ぬとか、刃が通らないとか、本当なのか?戦士でも震えるような存在だ。それを、ポールが、一人で?あの、半分強化の間抜けが?
そう馬鹿にしようとしたが、心の奥に「さすがポールだ」と言う思いがあった。苦くて黒い。

 ありえない。そんなこと、あってたまるか。

 でも実際に、肉屋に運ばれてきたという巨大な狼の死体を見た時、俺の中で何かが崩れた。信じたくないのに、目の前にあるものが、それを否定させてくれなかった。

「これは・・・まさか、本物か?」

とか、あの肉屋が言ったと聞いた。その時、俺の心は凍りついた。

ポールが?あのポールが?

 はずれの加護持ち。訓練場にも入れてやらなかった。塀の外で黙々と棒きれ振ってた、みすぼらしい姿しか知らない。俺たちが王都を目指して準備していた時、あいつは黙って、誰にも頼らず、訓練を続けていたらしい。

「偶然だろ。たまたまだ。運が良かっただけだ」

何度も言った。口癖のように自分に言い聞かせた。だけど村の連中の目が変わっていた。サイモンもグレンも、口には出さないが、ポールを認めていた。


 悔しかった。苛立った。焦った。

だから、俺は決めた。もう、こんな村にいられるか。俺たちは王都に行く。最初からそのつもりだったが、今はもう理由が違う。ポールから逃げるわけじゃない。あいつなんか、関係ない。ただ、この空気に耐えられないだけだ。

 王都に行けば、もっと強いやつがいる。俺たちの加護だって、一流だ。剣、弓、魔法、槍。仲間と連携すれば、どんな獣だって倒せるはずだ。

それに、王都じゃポールのことなんて誰も知らない。

いや、むしろ、知られるべきだ。

「半分強化」という間抜けなギフトをもらったやつがいてさ、何が強化されるか分からないんだってよ。右手だけ強くなったり、左足だけ早くなったり。運任せで、いつ切れるかも分からない。まるで賭けだろ。そんなギフトをありがたがって、毎日、棒切れ振り回してるんだ。

 俺は王都で、そういって語ってやるつもりだ。

あいつの話を面白おかしく広めてやる。酒場でも、ギルドでも、行く先々で「半分強化のポール・セレン」のことを皮肉混じりにばらまいてやる。


 そうでもしないと、俺のこの気持ちはどこにも行けない。

 あの日、ポールに喉元へ木剣を突きつけられて、俺は初めて「負けた」と思った。けど、口に出せなかった。そんなの、認めたくなかった。

それなのに今度は、地獄の狼だと。笑わせるな。

 俺は、俺たちは、ちゃんと訓練もしてきたし、加護の相性だって最高のはずだ。あんな、一人で棒を振ってたようなやつに、何もかも持っていかれるなんて、あってたまるか。

王都に行く。それが俺たちの答えだ。

 ポールがこの村に残るなら、それでいい。せいぜい、半分強化で頑張ってればいいさ。

でも、もしあいつが王都に来たら?

許さない。追い返してやる。

俺たちは「本物」にならなきゃならないんだ。王都で名を上げて、ギルドに認められて、金を稼いで、地位を手に入れる。

 伝説になるのは俺たちだ。ポールじゃない。

感想 2

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。  発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。  何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。  そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。  残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。