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1.君との出会いは偶然だった

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 今にも黒猫を蹴り飛ばしそうな勢いだった。僕は黒猫を抱きしめた。怒声に驚いたのか、腕の中で小さく震えている。僕が守ってやらなきゃと思った。

「わかりました。勝手に餌なんかあげて、ご迷惑をおかけして、すみません。この子は僕が飼います。でも、これから仕事に行かなきゃいけないので、一日だけ猶予をください。お願いします」

 おじさんの気分を損ねないように、とにかく頭を下げた。すぐそばまで来たおじさんの呼気は、アルコールの匂いが混じっていて、気持ちが悪い。正直、こんな人とは関わり合いたくもなかったけれど、放っておいたら黒猫がどんな目に遭うのかわからない。

「ったくよ。明日もその猫見つけたらすぐに処分してもらうからな」

 吐き捨てるようにして、おじさんは自分の家へと帰っていった。とりあえず、引いてもらえてよかった。腕の中の黒猫は、僕のことを不安げに見上げてきた。頭を撫でてやると、小さな声で鳴く。そっと地面に下ろしてやると、僕の足首に纏わりついてきた。

「僕、もう行かなくちゃ。帰りに絶対迎えに来るからそれまで待っててくれる?」
「にゃあん」

 いつもよりか細い声で鳴く黒猫が心配だった。背を向けて歩き出した僕の後をよたよたとついてくる。再び立ち止まり、ショルダーバッグの中から財布を取り出した。落としたときにすぐに気づけるようにとファスナーにつけていた鈴を外して、黒猫の前足に軽く結びつける。

「絶対、迎えに来るから。約束の印。頼むよ、いい子だから待っててくれ」

 何度も撫でてやると、少し落ち着いたようで、震えが治まった。ゆっくりと、一歩踏み出す。角を曲がるまでは心配で、何度も後ろを振り返った。しばらくして、黒猫は僕に背を向けると、ちりりん、と鈴の音を鳴らしながら、路地のすみに身を隠すように消えていった。
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