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2.君の温もりを僕は知ってしまった

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 いつもより早い時間に帰ることができたから、黒猫を迎え入れる準備をすることにした。とは言っても、近くにはペットショップなんてないから、スーパーの一角にあるペットコーナーに立ち寄った。スマートフォンで必要なものを調べると、トイレ、キャットフード、爪とぎなんかは買っておいたほうがよさそうだとわかった。そんなに広くないはずなのに、陳列されている商品の種類が多くてどれを買えばいいのか見当がつかない。棚の前で立ち尽くしていると、大きなキャリーバッグを持った女性がやってきた。中には猫がいるようで、「なーん」と声が聞こえてきた。

大福だいふく、どれがいい? 病院、頑張ってえらかったからご褒美においしいやつ買ってあげる」

 女性はキャリーバッグの小窓を覗き込みながら話しかけていた。まるで本当に会話をしているように「えー、それはさすがに高すぎるよ」なんて言いながら、僕の近くにあった猫缶に手を伸ばした。じっと見すぎていたのか、女性と目が合って気まずくなる。もう少し後でまた来ようかと踵を返す。

「あの、何か困ってます?」

 振り返ると、女性がこちらを見ていた。僕に向かって言ったのだろう。彼女は微笑んで、僕の返事を待っている。

「猫を飼うことになって、必要なものを揃えにきたんですけど、よくわからなくて」
「なるほど。よければお手伝いしますよ」

 彼女がそう言うと、キャリーバッグの中の猫が不機嫌そうな声で鳴いた。病院に行ってきたみたいだし、早く帰りたいのかもしれない。彼女は猫をなだめつつ、おすすめのものをいくつかピックアップしてくれた。細かいことはよくわからないから、その中から値段が手ごろなものを選んで買うことにする。

「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。猫ちゃんとの素敵な生活を」

 レジで会計を済ませ、次は百円ショップに向かう。フードボウルや首輪は安くて可愛いものが売っていると先ほどの女性が教えてくれたのだ。フードボウルは、ある程度高さのあるもののほうが食べやすいと調べたサイトには書いてあった。ある程度重量もあるほうが、安定していいとも書いてあったけれど、百円ショップではプラスチック製の軽いものしか置いていないようだ。滑り止めのついたものを選んでかごに入れる。

 首輪はそんなに迷わなかった。真っ黒な体によく映えそうな鮮やかな赤。正直、これ以外には考えられなかった。気に入ってくれるといいけれど。
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