上 下
32 / 88
4.君と繋いだ手を離したくなかった

4

しおりを挟む
 人が良さそうな笑顔に安心する。落としたリボンを拾いながら、質問する。

「あの、髪を結ぶにはどれくらいの長さがいいんでしょうか?」
「そうね……リボンで直接髪を結ぶのかしら? 先にヘアゴムで纏めた上に結んであげるか、髪飾りにしてしまうという方法もありますけど」
「そうですね……直接結ぶのは結構苦労しました。髪飾りは一度作ってしまえば結ぶときは楽そうですね……僕じゃ作れそうもないですが……」

 店員さんはしばらく考え込んだ後、にこりと笑った。

「そんなに手の込んだものじゃなければ、針と糸使わなくても作れちゃいますよ。少しだけ時間いただけるようでしたら、作り方教えてあげられますけど、どうですか?」
「ぜひ、お願いします」

 店員さんは僕の返答に頷くと、店内の隅のテーブルに案内してくれた。どうやらここでワークショップなどもやっているらしい。今はちょうど空いている時間だそうだ。椅子に座らせてもらって、きょろきょろと周りを見ていると、店員さんが小さい籠を持ってすぐに戻ってきた。

「ワイヤーとグルーがあれば簡単にリボンの形にできちゃうんですよ。あと、こういうカットしたリボンは切り口からほつれちゃうので、ライターで軽く炙るといいですよ」

 店員さんは手早くリボンをカットすると、輪っかを作るようにクロスさせた。中央部分をつまむようにして、そこにワイヤーを巻き付ける。それだけでもうリボンの形に見える。形を整えると、ワイヤーの余分な箇所をぱちんと切った。

「あとは、このワイヤーを隠すようにリボンを巻き付けてグルーで留めれば完成です。ヘアゴムにするなら、このタイミングで巻き込むといいですね」

 簡単に説明しながら、リボンを巻き付け、接着剤のようなもので留める。そして、下に垂れたリボンの切り口にライターの炎をかざすと、先端が溶けて固まった。

「グルーが完全に乾いたら完成です。簡単でしょ?」
「すごいですね、たしかにこれくらいなら僕でもできそうな気がします」
「簡単だけど今の手順を書いたメモもお渡ししますね。既製品買うと高くなっちゃうので、作れると安く済むのでおすすめです。愛着も湧きますしね。貰う方も喜んでくれると思いますよ」

 鈴音の喜ぶ様子を想像する。きっと、瞳を輝かせてぎゅうっと抱きついてくるんだ。それはちょっと困るけれど……。会計を済ませ、袋に詰めてもらっている間に時間を確認する。そろそろ向こうの買い物は終わっただろうか。思ったよりも時間が経っていて、小走りで店を後にした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

宇宙との交信

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:597pt お気に入り:1

悪役令嬢は勝利する!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,001pt お気に入り:154

レヴシャラ~夢想のくちびるは魔法のキスに抱かれて~

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:12

婚約破棄されました。あとは知りません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,996pt お気に入り:476

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,584pt お気に入り:1,525

リセット結婚生活もトラブル続き!二度目の人生、死ぬときは二人一緒!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:3,578pt お気に入り:42

処理中です...