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7.君がいることがあたりまえになって

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 仕事終わりに熊谷家に立ち寄った。すぐに帰るつもりだったのに、夕飯を用意しているから、と梨花さんに引き留められる。断るのも失礼だから厚意に甘えることにした。

「タクミ、鈴音も手伝ったんだ。にんじんの皮むきした」
「へー、僕より料理できるんじゃない? ケガしなかった?」
「大丈夫だ。ピーラーっていうのは便利だ。タクミもきっとできる」
「そっか」

 全くと言っていいほど料理をしないから、家にある調理器具はほとんど購入直後の状態のままだ。包丁とまな板、フライパンは一応持ってはいるが、活躍したことは片手で数える程度。鍋もあるけど、卵を割り落とすだけのほとんど具なしラーメンをごく稀に作るくらい。それすら面倒だと思ってしまう。

 だけど、自炊っていうのは本格的に考えたほうがいいかもしれない。鈴音のためにあれこれ買ってしまったから、今月はかなり厳しい。色々と考えているうちに、食卓に座らされた。色鮮やかな料理が並び、ふんわりと出汁の匂いが広がると、食欲をそそられる。

「鈴音がむいたにんじん、これだ」

 鈴音は嬉しそうに煮物のにんじんを指差した。皮むいただけじゃん、なんて言うのは野暮だ。鈴音が指差したにんじんを箸でつまみ、口に運ぶ。

「どうだ、おいしいか?」

 きっと味付けは梨花さんがしたんだろうけど。にんじんの甘みが引き立つようなちょうどよい塩加減で、文句なしにおいしい。

「うん、おいしいよ。鈴音、すごいね」
「そうか。タクミ、家でも作ってやろう」
「え、ひとりで作れるの?」

 鈴音があまりにも得意げに言うから、少し不安になって梨花さんの顔を見る。

「私は隣で指示してただけで、実際に手を動かしていたのは鈴音ちゃんなの。だから、手順さえ覚えちゃえばできるんじゃないかな。あとでレシピ渡すね。鈴音ちゃんね、工藤君に喜んでもらいたいって張り切ってたのよ」
「え、そうだったんだ。すごいな、鈴音は」
「そうだ。もっと褒めてくれ。タクミ、頭も撫でてくれていい」

 鈴音の期待に満ちた目にたじろぐ。熊谷さんたちが見ている前でなんて恥ずかしすぎる。

「えっと……帰ったらね」
「今してあげたらいいのに」
「そうだ。鈴音は今してほしい」

 頭をずいっと僕の目の前に突き出して、鈴音は僕が撫でるのを待っていた。どうして僕がこんなにも振り回されるのか。ちょっとむかついて、鈴音の頭をわしゃわしゃと、それこそ猫を撫でまわすみたいにしてやった。そのせいで、鈴音の髪が少し乱れてしまったけど、そんなの知ったことか。
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