傾国王子スピンオフー転生したら婚約者に売り飛ばされ闇オークションで競りにかけられていたー

とうこ

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オークションの目玉商品だと?

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 は!?


「なんだこれは?」
 薄暗い室内、そこだけ照明が当たる壇上に立たされた俺は混乱していた。
 さっきまで駅にいて、電車遅延に苛立っていた筈だった。それが何故、こんな状況に。



 友人に連れられ興味本位で行った地下アイドルのライブ会場を思い出す。照明もそうだが、こちらを見つめる人々の熱気が似ている。
 だが観客はオタクの正装たるチェックのシャツも痛Tも着てはいない。目に入る範囲の全てが西洋コスプレ軍団だった。
 ……全員外国人に見えるのだが。
 自分を見てみれば絹っぽいガウン姿。
「なんだこれは」二度目。
 既におっさん年齢手前、普通の男である自分がこれを着るのは視界の暴力ではないか。
 だから皆して自分を眺めてこそこそと囁いているのか?


 何か一発芸をやらされる流れだろうか。
 不可解な現状に頭痛がし始めた頃、司会者っぽい格好の男が現れた。
「さあ皆様、よくご覧いただけたでしょうか! どうですかこの端麗な容貌、さすが社交界を賑わせた「宵月姫」の、……おっと失礼。この名も知れぬ令息を手に入れたい方、こぞって競りにご参加ください!」
「お前は何を言っている」
 こんな状況だが真顔で突っ込んでしまう。聞いちゃいないな。


『ごめんなさい』
 誰かの謝罪が聞こえたかと思うと、走馬灯のように頭を駆け巡る情報。
 俺は駅のホームから転落しかけた少年を助けようとしたが、どちらも命を落としたこと。   
 先に生まれ変わる俺に無理やりくっ付いてきた彼が、表層意識に出てしまったこと。
 結果として二十年間、この身体を乗っ取ってしまう形になっていたこと。
 どうやら事故以降の記憶が抜けていたようだ。いや待てよ生まれ変わりだと? またなんそれ案件じゃないか。
 死んだと気づいたら生きていた。シュールだな。
『あのそれから、ここ僕らからすると異世界です』
 なんだそれは。トンデモ過ぎてさっきからこの言葉しか出てこないぞ。


 悪気からじゃないんです。
 最期に手を伸ばしてくれて嬉しかった。優しい人と一緒にいたかった。もう独りは嫌。
 流れ込むそんな想いに胸が痛む。


 その少年の生前も少し見えた。居場所のない冷たい家庭、絵が得意で読書好き、勉強は普通の彼を両親は認めようとしなかった。虐められたりはしなかったが、人見知りな彼は学校でも孤立していた。


『乗っ取るつもりはなかったんです。だからいつかあなたが戻った時に大丈夫なように、僕も努力したんです……けど全然ダメでした』
 死ぬほど勉強し剣も魔法も死に物狂いで頑張った。けれど何故か身につかない。
 今世の父は既に見切りをつけ、再婚した妻の産んだ優秀な異母弟だけ可愛がった。義母には徹底して嫌がらせをされ使用人には見くびられて。


 そして今いるのは闇オークション会場。
 なぜ競りにかけられようとしているのかも判明した。
 婚約者の第五王子に売られたからだ。まともな奴がいやしねえ。
 ……しかしこのデジャヴ感はなんだろう。俺に似た男、家族からの虐待。どこかで聞いた、いや、見て聞いたような。



「嫉妬からロリィに嫌がらせをした貴様を許す訳にはいかない!」
 全く身に覚えのない、いわゆる冤罪。好きでもない婚約者の恋人に嫌がらせするか?
『追って沙汰を下すまで地下牢に入ってろ』
 その沙汰がオークション行き。王子が何故あからさまな闇組織と関わりがあるんだ。



(嫌がらせで牢屋とは独裁国家なのか、……婚約者が男って突っ込みどころが多いがとにかくお前、後でより詳しい説明をしてくれ)



 目を閉じて呼吸を整える。瞼を開けば夢オチだったとならないか期待したが、相変わらずの景色。既に競りが始まっていた。
「三千」
「四千!」
「六千五百!」
 少年の記憶が徐々にインストールされてきて、貨幣価値も分かった。
 1ベイルが一円。
「俺は六千五百円とかで売買されそうなのか」
『あの、違います。あれ一千万単位です』
「なんだそれ」
 いかん、このままでは語彙が死ぬ。


 安すぎるのも高すぎるのも微妙だ。いやそれ以前に人を売り買いするな。中世か。


「一億!」
「一億と五百」
 吊り上がる競り値。現実逃避したくなり、ふと舞台袖に目をやれば鏡があった。
 こちらを見返すのはブルーグレイの瞳。
 なんだこ(略
 髪は黒のままで容貌も前と似たような感じだ。より色白ではある。
『僕の時よりキリッとしてます。中身で違うんですね』
 うん、目つきは前世と同じく鋭い。目は心の窓というしな。



「さあ皆様盛り上がって参りました! ここで一旦ストップし、もうひとりの特推しの競りも交互に行います! 金と黒の競演、お好みはどちらでしょうか!」



 アナウンスが入り、またひとり連れてこられた。見たこともないくらいに綺麗な少年だった。
 煌めく金髪に黄金色の瞳、艶やかな色を纏うゴージャスな美人だ。怯えた様子はないが疲れた顔をしている。
 不可解なことに、かれを見た客の何人かが声にならない悲鳴をあげた。
「ひっ……、な、な」
「こいつらは阿呆か?! よりによって…! わ、私はもう帰るっ」
 そいつらはあたふたと席を立ち出口へと消えていく。何やら「へぶっ」と呻き声がしたような。
「ん? え、なんで帰っ……、さ、さあ皆さま続きを致しましょう! 金額と共に金か黒を宣言して下さいね!」



「あー、やっぱ俺を知ってる奴はいるか。まあいいけど」
 混乱のなか、少年がぼそりと呟いた。俺の視線に気づくとスッと寄って来る。
「大丈夫? すぐ終わるから。しかしウチ以外で黒髪って珍しいね」
「そうなのか?」
 絶世の美形の割に口調は気安い。
「随分落ち着いているな」
「君も。けど三脈の法って当たるんだなあ」
 三脈の法だと?
「この世界にもあるのか」
「えっ」
「漢方医、と言って解るか不明だが知り合いにいる。昔そいつに聞いた」
「えーと、もしかして転生者? だから髪も黒いのか」
 驚いたことに言い当てられた。


「なんで───、」
「うわっびっくりした!! ハヤテ、おまえ

何処行って、、ん? へえ、そうか」
 いきなり独り言を始めたぞ、危ない奴かも知れん。
「ごめん。君のなかにもうひとりいるんだってね? で、どっちも転生者」
「『!!』」
「いきなり悪いけど、高校生かな? の方はすぐその体から出て。なんで解るかとかは話す時間がないから、なるはやで」
 いつの間にかまた競りが始まっていた。金髪もすぐ俺と同価格まで上がっている。
『ぼ、僕?』
「君が入るべき子が産まれたけど魂がないから体が死にそうなんだ、急いで。出たらそこ行けるから」
『───すみません、僕行きます!』
「ああ、おまえの努力は無駄じゃなかったのを俺が証明してやる」
『……本当にありがとうございます』
「一応聞くが俺の名はリュシーアだな?」
『はい。リュシーア・デストラーダ子爵令息です』
 会話の間に思い出したこと、これは重要だ。この不思議美形に聞きたいことは多々あるが後回しにする。


「かれ、行った?」
「ああ。ところでキスの経験は?」
「えっ、ないけどなんで今??」
「必要情報だ」



 前世のある日、腐女子の妹が縋り付いてきた。堅物と言われる俺に似ずおおらかな子だ。
「お兄ちゃん助けて!!」
「なんだ、また金欠か」
「違うの、リュシー様を助けたいの!」
 ゲームのヘルプ要請だった。


「お前の趣味は否定せんが、俺とはフィールドが違う」
「このミニゲームだけ! RTAが難しいのっ。あっ他にもあるからヨロ……制限時間有りのばっかだから焦っちゃう」
「間に合わなかったらどうなる?」
「リュシー様が娼館に売られちゃったり襲われたりするう!」
 腐女子的には美味しいのでは?
「それは別腹、同人でいい! てか失敗して何度も男娼デビューや陵辱シーン見ましたご馳走様です!! 萌えるけどリュシー様可哀想なんだもん! 本編で幸せなら同人では遊べるけど、不幸だといじるのは不可能だもーん!!」
 本ルートで幸せだからこそ同人ではっちゃけ闇ルートを読める! と力説された。
 しかし身内とはいえぶっちゃけ過ぎだ。大丈夫かこいつは。若い女が男娼だの陵辱だの叫ぶんじゃない。


 BLゲームではあるが少し変わった作りだった。薄幸の美青年リュシーアを救え! がコンセプトで謎解きやミニゲームでピンチを切り抜ける。普通のクイズもあるが種類豊富で内容が変わるという。
 プレイヤーはお助け妖精らしい。
「壁になりたいんでは?」
「女として存在するのは嫌だけど妖精ならセーフ。ミニゲームクリア報酬で家族に仕返しできるんだよ。あと攻略対象との甘々シーン!」
 課金したらミニゲーム難易度が下がるアイテムがあるという。それで小遣いすっからかんなのか……。


「課金前に頼めよ」
「……リュシー様がちょっと似てるから頼み辛くて……か、家族で萌えとか人としてオワタ案件だしっ、いやあのたまたまなの!! お兄でナマモノ萌えしてる訳じゃなくって! 兄受け萌えーとか言ってたのは友達のノリに合わせただけで!!」
「お前は何を言っている」
 妹が錯乱し出した。大丈夫じゃなかった。



 理解は諦め言われるままにミニゲームをこなす。俺のようにゲーム慣れした奴なら簡単だが、乙女ゲーやボブゲ専門だと確かに難しいだろう。
「リュシーア様は継母に虐待されてるの。父親は無関心アホで婚約者の王子はクズでね」
 横で解説してるのを聞き流す。
「リュシー様ってなにをやってもダメダメなんだけど、それには理由があってね───」



 腐妹よ、感謝する。この情報があれば勝てる。



『継母にかけられた呪術のせいなの。本当はチートなんだよ! お助けフェアリーはリュシーアを不憫がってこの解呪を設定したの。解呪には───、」


『「自分から男にディープキス」が必要』



 壇上から飛び降り騒めく周りを見渡す。
「あっきみ、勝手に動かないで!」
 司会は無視だ。せめてなるべく嫌悪感の湧かないヤツ。本当なら壇上の美形がいいんだが、ファーストキスが見知らぬ男では気の毒なので経験がありそうなのにしよう。
 警備をしているイケメン騎士でいいか。かれも若者だが職務上の負傷と思ってくれ。ここにいるからには売買組織の一員だし構わないだろう。


 イケメンの前に行き素早く首に腕を回す。逃してなるか。
「え!?」
「えっ、オスカー?」
 美形がなんか言った、知り合いか?


 
 そのまま勢いで口付け舌を絡める。
「!??」
 離れようともがくのを渾身の力で引き留める。こちらは人生が掛かっているんだ、悪いな。


 浅かったから無し、とかは御免なので念入りにやる。男とのキスを厭うヒマなんかない。売られて性奴隷より百倍マシだ。



「な、なんだ……余興か?」
「情熱的ですな。伶俐な美貌とのギャップがたまらん」
 何かが逆流し俺のものが還ってくるような感覚。電流が走ったような感じに思わず背筋がしなり唇が離れた。
 だが体はくっついたまま。いつの間にか抱きしめられ密着していた。いやこれは逃げられないよう拘束か。
「……これには理由があるので。悪いな」
 だから離せと匂わせれば、男は何故か舌打ちをし小声で話しかけてきた。
「君のせいで計画が狂った。せめてここで大人しくしてくれ」
「なんの話だ? 今から全員ぶちのめすつもりだ、まずあんたから」
「待って待って!! オレは味方!」
 その時だった。


「誰も動くな!!」
 本来綺麗な声なんだろうがドスが効いている。入り口から姿を現したのはとても美しい少女だった。
 この世界では違和感しかないサイバーパンク的な格好をしていたが。


「え……」
「う、う、嘘だろ、なぜあの方が!」



 少女の手には……銃?
「お楽しみ中のところ失礼。私はグレイシア家嫡男の妻マリアよ。そこで競りに出されているのは義弟のカズサ。よくもウチの身内に手を出してくれたわね、無事に帰れると思うなよ下衆どもが」
「マリア、完全にヤ◯ザの脅し文句」
「ヒロイン役は黙って! あら? あなたは確かデストラーダ家の」
 客席で突っ立っている俺と美少女の目が合った。末端貴族まで把握してるのか。というか妻? この世界の結婚は早いんだろう。まだ高校生くらいなのに人妻か。
「婚約者の第五王子に売られたってさ」
「ああ、あの側室の馬鹿ガキ……。セクハラ野郎よ。王の弁明が楽しみ」
 カズサの説明にマリアと呼ばれた美少女が黒い笑みを浮かべた。見たところ十七、八なのでここでは成人だが前世の感覚に引っ張られているし少女としか言えないな。


「王も人を見る目がやらしいからね。抉り出して治癒を無限ループしてやろうかあの狸ジジイ」
 儚げな見た目と異なり過激な性格のようだ。



 グレイシアか。知識として知っている。
 嫡男の結婚式に招待されようと義母が躍起になっていた。賄賂らしきモノを送り返されていたっけ。
 資産は大陸一と言われる名家にそんなもの通用するか。頭の悪い女だ。


「あ、あれは、……、冷酷無比と評判の……」
 マリアという女性の後ろからヌッと現れた背の高い黒ローブに殆どの者が顔色を失くす。
「ツェリの悪阻が重くなった……絶対お前らのせいだ、呪う……、僕らの愛の結晶に変態どもと同じ空気吸わせたくない……! 息するなよ、吸うのはいいが吐くな───」
 悪阻? 妻か。完全に八つ当たりだ。魔力の威圧が凄いな。とんでもない魔力量だ。
「つ、悪阻と私たち関係ないよね!?」
「息吐けないと死ぬけど! 死ねって……ことか」
「魔術師団長のアレスターか!」
「ドラゴンを単独征伐するというあの!?」
「怪しい呪術を操るとか……」
「ぐ、グレイシアの魔王───」



「わた、私は知らん!! グレイシアに楯突いたのはオークション関係者だ! 私じゃないっ」
「ちょっと! 逃げると危ないわよ!」
 マリアの制止も聞かず、恐怖に耐えかねた客の男が逃走を計るが見えない壁にぶち当たり悲鳴を上げた。


「っぎゃああああ!!」


 あーあ、とマリアが転げ回る男を目にし呆れ声を出す。
「聖結界を張ったから悪人さんは四肢の骨がバッキバキに折れるわよ、罪なきもののみ胸を張り通れ。ってね」
「聖結界にそんな機能つくのおかしい。やっぱ魔女だろ」
「アレスターにだけは言われたくない……、さあ降参して。私としてはアレスターの造った魔導銃の試し撃ちがしたいから抵抗してくれてもいいけど。痛覚最高値、負傷なしバージョンで。あ、痛みでショック死はあるかも」
 恐怖で客は誰一人動けない。俺を抑え込んでいた青年が奴らを拘束し始めた。
「マリア様! アレスター様! 我々を置いて突入しないで下さいっ」
 騎士が雪崩れ込んできたがもう誰も抵抗する気力はないようで、あれよという間に制圧完了した。俺も色々試したかったがまあいいか。



 売られていた者が保護されていくのを眺めていたら、不思議美形改めカズサが話しかけてきた。ガウンだけなので寒いなと思っていたが、先程の騎士(まだ見習いらしくカズサの友人だとか)が上着を貸してくれている。
 俺を見たカズサが服を調達してきてくれたので物陰で着替えた。
「お疲れ様、変なコトに巻き込まれて大変だったね。デストラーダ子爵令息」
「名前で呼んでくれ。前世? とやらをさっき思い出していきなり貴族とかついていけてない」
「じゃあ俺もカズサって呼んで。ねえ、なんでオスカーにキスしたの?」
「……カズサも転生者か」
「違うけど色々知ってる。ウチの初代が日本人なんだよ」


 話すべきか迷ったが、隠す理由もない。せっかく日本に所縁のある人間に会えたのだから。
「その初代とは時代が違うから分からんかも知れないが、どうやら俺は日本にあったゲームの主人公だ」
「は?」
「妹がやっていた、男の恋愛モノのな」
「ボブゲ? まさか俺もキャラなの? ああ、初代は三百年前の人だけど平成生まれだよ。あっちと時間軸ずれるんだ」
「なるほど。そうだ、BLゲームだ。カズサのキャラは記憶にないというか妹に頼まれてミニゲームしかやってない」


 義母にかけられた術を解くために男にキスする必要があったと説明する。
「うわ、さすがボブゲ。てか義母だけどまた母親の呪術かよー。母怖い」
「?」


 やる事もないので場が収まるまで立ち話を続ける。
「ゲームの主役はカズサのような麗人こそ相応しいのにな。俺みたいな普通の男でなく」
「えっ、いやリュシー美形じゃん」
「どこがだ。前世とほぼ同じ顔だぞ。よくそういう冗談で揶揄われていたものだ」
「あー、うん、それ冗談じゃないと思うな」
 カズサに言われてもなあ。


「とにかく俺は力を取り戻した。俺の中にいた少年を虐待していた奴らに地獄を見せないとな」
「どんな術かけられてたの?」
「それがだな───」

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