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キックオフ
Episode 6
しおりを挟む「4-1。水澄高校の得失点差は2となった。」
「館華高校は、予選敗退だ。」
監督は表情を変えずに冷たく言った。
_____そんな。
その結果を聞いても言葉はなく、全員の口から落胆のため息だけが漏れた。
高3にとって最後の大事な大会がひとつ、終わってしまった。
強豪校ではない、むしろどちらかと言えば弱い部類に入る館華高校だったが、今年はリーグのくじ運がそこまで悪くなく、予選突破を皆で志していた。
だからこそ、悔しさが例年の何十倍にもなって、たった今館華高校サッカー部にのしかかっているのだ。
ベンチ外とはいえ、真琴も例外ではなかった。悔しさで視線の先の砂粒がぼんやりとぼやけた。
やばい、泣いちゃいそうだ。ベンチ外のアタシが泣くなよ。
そう思っても涙は言うことを聞かずにポタポタと、数滴、地面に逃げ出した。真琴は慌てて襟ぐりを引っ張って顔を拭き、バレないように静かに鼻をすすった。
しかし涙しているのは真琴だけでもないようだった。真琴に続くように鼻をすする音が数人から上がった。それを気遣うように、女子マネージャー達がそっとタオルを置いていく。1年のマネージャー・紺野あかりが、そっと膝を曲げ真琴にタオルを手渡した。
「まこちゃん、大丈夫?」
紺野は真琴を心配そうに見つめた。
部内唯一の同期であり同性である存在で、紺野と真琴が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。紺野はすらりと背が高く、ベルトで膝上にたくし上げられたスカートから伸びる長い脚に真琴はいつも目を惹かれる。セミロングの黒髪を下ろしており、部活の時だけ前髪をピンで止めおでこを見せている。喋り方もゆっくりで、ザ・女の子という印象だ。
澄んだ瞳で見つめられ、同性であるのにもかかわらず思わず目をそらしてしまう。紺野は女子から見ても、めちゃめちゃ可愛い。
「うん、ありがとな」
真琴は顔を背けたままタオルを受け取り、微笑んで礼を言った。
「顔を上げなさい」
重たい空気の中そう声を掛けたのは監督だった。
「お前たちは負けた。お前たちの5月大会は終わった。」
改めて現実を突きつけるような監督の言葉に、再び選手たちはやるせなく視線を落とす。
「だがお前たちはここでは終われない。」
監督は続けた。
「8月には全国への切符を掛けた県予選大会が始まる。それが本当に最後の大会だ。今日、お前たちは負けた。しかしまだサッカーが出来る………いや、やらなきゃいけない。それを幸ととるか、不幸ととるかはお前たち次第だ。」
監督の言葉に、徐々に皆の表情が緩み始めた。もうひと頑張りだ、と青山はパンっと一回手を叩き、ベンチから立ち上がって伸びをした。そうだな~~と荻野も賛同して立ち上がる。夏の大会に向けて、皆が前を向き始めた。
選手たちのそんな姿を見て、監督はほんの少しだけ満足げな表情を浮かべたが、すぐにいつものコワモテの真顔に戻って指示を飛ばした。
「じゃあ、グズグズするな。早く仕事を終わらせて集合だ。今日ベンチ外だった者も集合に参加するように」
「えっ、アタシ達もですか?」
真琴は素っ頓狂な声で聞き返した。というのも、いつもはベンチ入りしたメンバーのみで試合反省ミーティングを開き、ベンチ外メンバーは一通り仕事を終わらせてから全員での集合に合流する形となっているからだ。
「そうだ、来週の練習試合にはお前たちにも出てもらうからな」
「えっ、アタシ達がですか?」
真琴はまたも素っ頓狂な声で聞き返した。監督は黙って頷いた。
「は、はいっ!」
_____とうとうチャンスが来る!
真琴は小さくガッツポーズをして、すぐそばにあったベンチを手際良く片付け始めた。
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