ステータスを好きにイジって遊んでたら、嫁たちが国造りを始めました

内海

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第45話 病気の少年

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「そんなこと言わないでさぁ~、受けて受けて受けて受けて!!」

「俺はBランクなんだぞ! どうやってAランクの依頼を受けろっていうんだ!!」

「じゃあBにするから!」

「コロコロ変えれるのかよ!」

「多分大丈夫!」

 この少女の自信は一体どこから出てくるのだろうか。
 いやそもそも、依頼が受け付けられていないのだから、AもBも分からないと思うのだが、一体どうしてAだと言ったのだろうか。

「あのシュウトさん、依頼のランクはギルドで判断するのですが、ヒルデガルドさんの内容はAどころかSでも不可能という判断なので……受付は不可能なんです」

 見るに見かねた受付嬢が口を挟んできた。
 確かに1日で、仮に数日前から依頼を出していたとしても、そんな短期間で実力が上がるはずもなく、ギルドとしては実行不可能な依頼として却下したのだろう。

 ここにそれが可能な人物がいるとも知らずに。

「では仮にだが、実行可能な場合はBランク10個分に出来るか?」

「え? え~っと、Sランクですら不可能と判断した物なので、価値としては10個どころか20個や30個もの価値がありますけど……?」

「よし受けよう」

「ほんと!? やったー! シュウトありがと~!」

「ほ、本気ですか?」

「要は剣闘会で優勝できればいいんだろう? その後の事は知らんがな」

「大丈夫だよ! 剣闘会で優勝できればいいんだから!」

 あえて修斗は何も言わなかった。
 剣闘会が終わったら元通りの実力に戻すという事を。
 
「それでは受付をしますが、あの、本当に、本当にいいんですね?」

「大丈夫だ。それよりもBランクの依頼10個分だという事、忘れるなよ?」

「それはもちろん大丈夫です。それでは処理をしますので少々お待ちください」

 ヒルデガルドの依頼を受け付け、依頼書が修斗に渡された。
 内容は明日行われる剣闘会で、ある人物を優勝させる事。
 その人物の名前は『ルッツ』。街の病院で入院中の病弱な少年で、ヒルデガルドはルッツとの結婚を両親に反対されているが、剣闘会でルッツが優勝出来たら許可すると言われ、なりふり構わず可能な人物を探していたのだ。

 ただでさえ剣闘会での優勝は難しいのに、そんな状態の少年を優勝させるなど不可能である。
 だからこそギルドは受付を拒否していたのだ。

事情を知って唖然とする修斗だが、入院していようが元気だろうが、生きていれば修斗にとってやる事に変わりはなく、逆に好き勝手に出来そうで安心していた。

「それじゃあソイツの所に案内しろ」

「うん! じゃあ付いてきて!」



 案内されたのは街にある小さな診療所。
 その一室にルッツが居るようだが、街はずれの小さな診療所は廃虚一歩手前の様相だ。

「こんな場所に居るのか? もう死んでるんじゃないだろうな」

「不吉な事言わないでよ! 生きてるに決まってんじゃん!」

 大声を出しながら診療所に入っていく。
 しかし医者が居る様子はなく、他に患者が居るような気配もない。
 騙されたか? そんな事を考えもしたが、見知らぬ少女が修斗を騙す必要は無く、まして実力を知っているのだから騙した時のリスクも理解しているはずだ。

「ここだよ。ルッツ、入るよ~」

 建付たてつけの悪い扉を苦労しながら開けると、中にはイスに座った医者とベッドに寝ている少年が目に入る。
 医者が見当たらないと思ったら、ルッツの部屋に居た様だ。
 
「やあヒルデガルドいらっしゃい。ゴホ、そちらの方は?」

 ヒルデガルドの顔を見ると表情が明るくなったようだが、それでも気分が悪そうな様子は隠せていない。
 時折くちを手で押さえ、咳を必死にこらえている。

「ルッツ喜んで! あなたを鍛えてくれる人を連れて来たわよ!」

 ヒルデガルドは喜ぶ、恐らくは喜ばしい事なのだろうが、ルッツの表情は一瞬曇ったのを修斗は見逃さなかった。

「そ、そうなんだ、へー、凄いねヒルデガルド。でも無理をしたんじゃないかい?」

「大丈夫よ! このシュウトが全部解決してくれるわ!」

 無責任に全てを修斗に投げつけるヒルデガルド。
 どうしてこんな病人を、剣闘会で優勝させられると信じているのだろうか。
 あるいは失敗をさせるために呼びつけたのだろうか。

「お前を剣闘会で優勝させてやる。だが一つだけ確認をさせろ」

 ここにきて初めて修斗は疑問を口にする。
 生唾を飲むヒルデガルドとルッツ。

「剣闘会とはなんだ?」

 医者も含めて3人の目が点になった。

 剣闘会
 魔法は使わずに剣、最近では武器全般の使用が認められたが、武器のみで戦う大会だ。格闘技もある程度は認められているが、あくまでもメインは武器である必要があるため、世界中から様々な人が集まる大会だ。

「ほぅ、それでお前が使う武器はなんだ?」

「僕は武器を使った事がありません」

「ほうほう。それで剣術の経験は?」

「ありません」

「なるほどなるほど。ではチャンバラ程度か?」

「生まれてから運動らしい運動をした事がありません」

「そうかそうか。で、歩く事くらいは出来るんだろう?」

「車イスでの移動しかしたことがありません」

「おいヒルデガルド一つ確認だ。ルッツを剣闘会で優勝させた時点で依頼達成で間違いないな?」

「うん。表彰台に立ったら依頼達成だよ」

「なるほど、よ~くわかった。それではお前を剣闘会で優勝させてやる」

「え!? 今の話を聞いていましたか? 僕は自分で動く事すら出来ないんですよ!?

「構わん。腕一本、いや武器を使える部位があればいい」

「ちょっとシュウト! 不吉なこと言わないでくれる!?」

「五月蠅いぞ。それでは明日剣闘会の前に呼びに来い。じゃあな」

 病室を出て行く修斗を、3人は呆然と見送っていた。
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