45 / 373
第45話 病気の少年
しおりを挟む
「そんなこと言わないでさぁ~、受けて受けて受けて受けて!!」
「俺はBランクなんだぞ! どうやってAランクの依頼を受けろっていうんだ!!」
「じゃあBにするから!」
「コロコロ変えれるのかよ!」
「多分大丈夫!」
この少女の自信は一体どこから出てくるのだろうか。
いやそもそも、依頼が受け付けられていないのだから、AもBも分からないと思うのだが、一体どうしてAだと言ったのだろうか。
「あのシュウトさん、依頼のランクはギルドで判断するのですが、ヒルデガルドさんの内容はAどころかSでも不可能という判断なので……受付は不可能なんです」
見るに見かねた受付嬢が口を挟んできた。
確かに1日で、仮に数日前から依頼を出していたとしても、そんな短期間で実力が上がるはずもなく、ギルドとしては実行不可能な依頼として却下したのだろう。
ここにそれが可能な人物がいるとも知らずに。
「では仮にだが、実行可能な場合はBランク10個分に出来るか?」
「え? え~っと、Sランクですら不可能と判断した物なので、価値としては10個どころか20個や30個もの価値がありますけど……?」
「よし受けよう」
「ほんと!? やったー! シュウトありがと~!」
「ほ、本気ですか?」
「要は剣闘会で優勝できればいいんだろう? その後の事は知らんがな」
「大丈夫だよ! 剣闘会で優勝できればいいんだから!」
あえて修斗は何も言わなかった。
剣闘会が終わったら元通りの実力に戻すという事を。
「それでは受付をしますが、あの、本当に、本当にいいんですね?」
「大丈夫だ。それよりもBランクの依頼10個分だという事、忘れるなよ?」
「それはもちろん大丈夫です。それでは処理をしますので少々お待ちください」
ヒルデガルドの依頼を受け付け、依頼書が修斗に渡された。
内容は明日行われる剣闘会で、ある人物を優勝させる事。
その人物の名前は『ルッツ』。街の病院で入院中の病弱な少年で、ヒルデガルドはルッツとの結婚を両親に反対されているが、剣闘会でルッツが優勝出来たら許可すると言われ、なりふり構わず可能な人物を探していたのだ。
ただでさえ剣闘会での優勝は難しいのに、そんな状態の少年を優勝させるなど不可能である。
だからこそギルドは受付を拒否していたのだ。
事情を知って唖然とする修斗だが、入院していようが元気だろうが、生きていれば修斗にとってやる事に変わりはなく、逆に好き勝手に出来そうで安心していた。
「それじゃあソイツの所に案内しろ」
「うん! じゃあ付いてきて!」
案内されたのは街にある小さな診療所。
その一室にルッツが居るようだが、街はずれの小さな診療所は廃虚一歩手前の様相だ。
「こんな場所に居るのか? もう死んでるんじゃないだろうな」
「不吉な事言わないでよ! 生きてるに決まってんじゃん!」
大声を出しながら診療所に入っていく。
しかし医者が居る様子はなく、他に患者が居るような気配もない。
騙されたか? そんな事を考えもしたが、見知らぬ少女が修斗を騙す必要は無く、まして実力を知っているのだから騙した時のリスクも理解しているはずだ。
「ここだよ。ルッツ、入るよ~」
建付けの悪い扉を苦労しながら開けると、中にはイスに座った医者とベッドに寝ている少年が目に入る。
医者が見当たらないと思ったら、ルッツの部屋に居た様だ。
「やあヒルデガルドいらっしゃい。ゴホ、そちらの方は?」
ヒルデガルドの顔を見ると表情が明るくなったようだが、それでも気分が悪そうな様子は隠せていない。
時折くちを手で押さえ、咳を必死にこらえている。
「ルッツ喜んで! あなたを鍛えてくれる人を連れて来たわよ!」
ヒルデガルドは喜ぶ、恐らくは喜ばしい事なのだろうが、ルッツの表情は一瞬曇ったのを修斗は見逃さなかった。
「そ、そうなんだ、へー、凄いねヒルデガルド。でも無理をしたんじゃないかい?」
「大丈夫よ! このシュウトが全部解決してくれるわ!」
無責任に全てを修斗に投げつけるヒルデガルド。
どうしてこんな病人を、剣闘会で優勝させられると信じているのだろうか。
あるいは失敗をさせるために呼びつけたのだろうか。
「お前を剣闘会で優勝させてやる。だが一つだけ確認をさせろ」
ここにきて初めて修斗は疑問を口にする。
生唾を飲むヒルデガルドとルッツ。
「剣闘会とはなんだ?」
医者も含めて3人の目が点になった。
剣闘会
魔法は使わずに剣、最近では武器全般の使用が認められたが、武器のみで戦う大会だ。格闘技もある程度は認められているが、あくまでもメインは武器である必要があるため、世界中から様々な人が集まる大会だ。
「ほぅ、それでお前が使う武器はなんだ?」
「僕は武器を使った事がありません」
「ほうほう。それで剣術の経験は?」
「ありません」
「なるほどなるほど。ではチャンバラ程度か?」
「生まれてから運動らしい運動をした事がありません」
「そうかそうか。で、歩く事くらいは出来るんだろう?」
「車イスでの移動しかしたことがありません」
「おいヒルデガルド一つ確認だ。ルッツを剣闘会で優勝させた時点で依頼達成で間違いないな?」
「うん。表彰台に立ったら依頼達成だよ」
「なるほど、よ~くわかった。それではお前を剣闘会で優勝させてやる」
「え!? 今の話を聞いていましたか? 僕は自分で動く事すら出来ないんですよ!?
「構わん。腕一本、いや武器を使える部位があればいい」
「ちょっとシュウト! 不吉なこと言わないでくれる!?」
「五月蠅いぞ。それでは明日剣闘会の前に呼びに来い。じゃあな」
病室を出て行く修斗を、3人は呆然と見送っていた。
「俺はBランクなんだぞ! どうやってAランクの依頼を受けろっていうんだ!!」
「じゃあBにするから!」
「コロコロ変えれるのかよ!」
「多分大丈夫!」
この少女の自信は一体どこから出てくるのだろうか。
いやそもそも、依頼が受け付けられていないのだから、AもBも分からないと思うのだが、一体どうしてAだと言ったのだろうか。
「あのシュウトさん、依頼のランクはギルドで判断するのですが、ヒルデガルドさんの内容はAどころかSでも不可能という判断なので……受付は不可能なんです」
見るに見かねた受付嬢が口を挟んできた。
確かに1日で、仮に数日前から依頼を出していたとしても、そんな短期間で実力が上がるはずもなく、ギルドとしては実行不可能な依頼として却下したのだろう。
ここにそれが可能な人物がいるとも知らずに。
「では仮にだが、実行可能な場合はBランク10個分に出来るか?」
「え? え~っと、Sランクですら不可能と判断した物なので、価値としては10個どころか20個や30個もの価値がありますけど……?」
「よし受けよう」
「ほんと!? やったー! シュウトありがと~!」
「ほ、本気ですか?」
「要は剣闘会で優勝できればいいんだろう? その後の事は知らんがな」
「大丈夫だよ! 剣闘会で優勝できればいいんだから!」
あえて修斗は何も言わなかった。
剣闘会が終わったら元通りの実力に戻すという事を。
「それでは受付をしますが、あの、本当に、本当にいいんですね?」
「大丈夫だ。それよりもBランクの依頼10個分だという事、忘れるなよ?」
「それはもちろん大丈夫です。それでは処理をしますので少々お待ちください」
ヒルデガルドの依頼を受け付け、依頼書が修斗に渡された。
内容は明日行われる剣闘会で、ある人物を優勝させる事。
その人物の名前は『ルッツ』。街の病院で入院中の病弱な少年で、ヒルデガルドはルッツとの結婚を両親に反対されているが、剣闘会でルッツが優勝出来たら許可すると言われ、なりふり構わず可能な人物を探していたのだ。
ただでさえ剣闘会での優勝は難しいのに、そんな状態の少年を優勝させるなど不可能である。
だからこそギルドは受付を拒否していたのだ。
事情を知って唖然とする修斗だが、入院していようが元気だろうが、生きていれば修斗にとってやる事に変わりはなく、逆に好き勝手に出来そうで安心していた。
「それじゃあソイツの所に案内しろ」
「うん! じゃあ付いてきて!」
案内されたのは街にある小さな診療所。
その一室にルッツが居るようだが、街はずれの小さな診療所は廃虚一歩手前の様相だ。
「こんな場所に居るのか? もう死んでるんじゃないだろうな」
「不吉な事言わないでよ! 生きてるに決まってんじゃん!」
大声を出しながら診療所に入っていく。
しかし医者が居る様子はなく、他に患者が居るような気配もない。
騙されたか? そんな事を考えもしたが、見知らぬ少女が修斗を騙す必要は無く、まして実力を知っているのだから騙した時のリスクも理解しているはずだ。
「ここだよ。ルッツ、入るよ~」
建付けの悪い扉を苦労しながら開けると、中にはイスに座った医者とベッドに寝ている少年が目に入る。
医者が見当たらないと思ったら、ルッツの部屋に居た様だ。
「やあヒルデガルドいらっしゃい。ゴホ、そちらの方は?」
ヒルデガルドの顔を見ると表情が明るくなったようだが、それでも気分が悪そうな様子は隠せていない。
時折くちを手で押さえ、咳を必死にこらえている。
「ルッツ喜んで! あなたを鍛えてくれる人を連れて来たわよ!」
ヒルデガルドは喜ぶ、恐らくは喜ばしい事なのだろうが、ルッツの表情は一瞬曇ったのを修斗は見逃さなかった。
「そ、そうなんだ、へー、凄いねヒルデガルド。でも無理をしたんじゃないかい?」
「大丈夫よ! このシュウトが全部解決してくれるわ!」
無責任に全てを修斗に投げつけるヒルデガルド。
どうしてこんな病人を、剣闘会で優勝させられると信じているのだろうか。
あるいは失敗をさせるために呼びつけたのだろうか。
「お前を剣闘会で優勝させてやる。だが一つだけ確認をさせろ」
ここにきて初めて修斗は疑問を口にする。
生唾を飲むヒルデガルドとルッツ。
「剣闘会とはなんだ?」
医者も含めて3人の目が点になった。
剣闘会
魔法は使わずに剣、最近では武器全般の使用が認められたが、武器のみで戦う大会だ。格闘技もある程度は認められているが、あくまでもメインは武器である必要があるため、世界中から様々な人が集まる大会だ。
「ほぅ、それでお前が使う武器はなんだ?」
「僕は武器を使った事がありません」
「ほうほう。それで剣術の経験は?」
「ありません」
「なるほどなるほど。ではチャンバラ程度か?」
「生まれてから運動らしい運動をした事がありません」
「そうかそうか。で、歩く事くらいは出来るんだろう?」
「車イスでの移動しかしたことがありません」
「おいヒルデガルド一つ確認だ。ルッツを剣闘会で優勝させた時点で依頼達成で間違いないな?」
「うん。表彰台に立ったら依頼達成だよ」
「なるほど、よ~くわかった。それではお前を剣闘会で優勝させてやる」
「え!? 今の話を聞いていましたか? 僕は自分で動く事すら出来ないんですよ!?
「構わん。腕一本、いや武器を使える部位があればいい」
「ちょっとシュウト! 不吉なこと言わないでくれる!?」
「五月蠅いぞ。それでは明日剣闘会の前に呼びに来い。じゃあな」
病室を出て行く修斗を、3人は呆然と見送っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる