ステータスを好きにイジって遊んでたら、嫁たちが国造りを始めました

内海

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第6章 ダンジョンから始まる世界交流

第242話 ヤクシの弱点

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 80階の探索が終わり、81階に登るとヤクシの様子がおかしくなった。
 階段の途中からおかしかったのだが、登りきると同時に動かなくなる。

「ヤクシ? どうしたんだ?」

 ヤクシは怯えていた。
 体を小刻みに震わせ、冷や汗を垂らし、しまいにはその場にしゃがみ込んでしまった。

「ヤ、ヤクシさん!?」

 呼吸が荒く、何かにすがる様に床に両手をついて探している。

「わ、分からない……何も、何も分からない!!」

 今までヤクシは目が見えないにもかかわらず、目以上に色々な物が見えていた。
 それは視覚以外の4つの感覚を駆使し、更には魔力や無意識に使っていたスキルによるモノだ。
 だがここ81階は、それらを否定している。

 一見何でもない全ての壁は音・魔力を吸収し、目が見える者なら問題ないが、少なくともコウモリの様な生き物は存在できない場所なのだ。
 今まで様々な物が見えていたヤクシには、ここは暗闇だった。

「が、ガッコウ……シャンディラ……お願いです、助けてください……」

 見えない2人に手を伸ばすが、何も無い、何も見えない感じない。
 何かが手に触れる。
 その瞬間、ヤクシの感覚に光が差し込んだ。
 その景色は自分ではない他人の物で、しゃがみ込むヤクシを右から見て手を握っている景色が、左からもヤクシの手を握っている景色が同時に感覚として伝わる。

 それは酷くぼやけており、ピントの合っていないカメラのようだ。
 そこに何かがある、それが分かるだけでもヤクシには希望の光に見えた。

「ヤクシしっかりしろ! アタシがついてる!」

「や、ヤクシさん、大丈夫ですか?」

 左右からヤクシを護る様に手を握り、しきりに心配する2人の少女の手のぬくもりは、伝わってくる光以上の安心感を与えている。
 手を握り返し、ゆっくりと顔を上げて2人に顔を向ける。

「ありがとうございます。落ち着きました」

「大丈夫なのかヤクシ、苦しいんなら今日は戻ってもいいんだぜ?」

「そ、そうです、無理はいけません」

「2人のお陰で落ち着きましたから大丈夫です。それよりも調べたい事があるのですが」

 手を握ったままゆっくりと立ち上がり、2つの視点から見えている感覚の確認をする。
 ガッコウとシャンディラに塔の中を見てもらうと、その景色はヤクシにも感覚としてしっかり見えるのだ。
 しかし残念ながら2人が見ている物しか見えない為、あまり融通はきかない。

「以前から近い感覚はありましたが、2つの視点から見えたのは初めてです」

「それってアタシらの目を通じてヤクシが見てるって事か?」

「はい。ガッコウの見えている物がぼやけて見える事がありましたが、条件が分からなかったのです」

「ちょ、直接触れる、じゃ、な、ないんですか?」

「それも何度か試したのですがダメでした。しかし今は……ええ、手を触れれば見えますね」

 発動条件は分からないが、今のところ直接肌と肌が触れる事で発動するようだ。
 この力の究明は後回しにして、今は他に調べる事がある。

「にしても、なんでヤクシの全感覚が無くなっちまったんだ?」

「それなのですが、壁に寄ってもらえませんか?」

 言われて3人は手を繋いだまま壁際によると、ガッコウとシャンディラは何かに気が付いたようだ。
 
「こ、これ……い、石じゃない……?」

「見た目は石だけど、なんだこれ、少し柔らかいぞ??」

 ヤクシは少し戸惑っていた。
 今までは視覚情報だけが感覚として伝わっていたが、今は触覚も伝わって来ているのだ。
 なので柔らかい石の様なものが何なのか理解できた。

「これは音や魔力を吸収していますね。だから私の感覚が通じなかったのでしょう」

「きゅ、吸収、ですか? じゃあ、ま、魔法を使えないんじゃ」

「げ! マジかよ! ちょっと試してみる!」

 ヤクシと手を繋いだまま、空いた右手で拳銃を取り出して1発撃ってみる。
 弾は出るのだが、その勢いは急激に落ちて消えてしまった。

「マジかよ……これが使えないんじゃあワタシは……直接攻撃しか出来ないじゃん!」

 ガッコウの銃は魔力を弾として打ち出すため、発射したと同時に吸収が開始しなくなってしまう。
 しかし直接攻撃ないとは一体……。

「ふふふ、久しぶりにガッコウの剣技が見れますね」

「疲れるから嫌なんだよな~」

 本来は魔法使い殺しのフロア―だが、意外なところでヤクシの弱点が発覚し、そしてもう1人の力が発覚する事となる。

 冷静さを取り戻したヤクシは、かろうじて感じ取れる床の感覚を感じていた。
 床は硬い石なので、音や魔力が反響して辛うじて見えているようだ。
 とは言え壁と天井にほとんど吸収されてしまうため、感じ取れるのはかろうじて人1人が通れる幅だけ。

 今までヤクシが罠を発見ていたため簡単に進めたが、ここは歩いて進む事になる。
 とはいえ、そろそろ塔の半分に近い為、フロア自体は随分と狭くなっていた。
 ヤクシを真ん中にして仲良く手を繋ぎ、まるでハイキング気分だ。

「おっと出てきやがったな。ちょっくら行ってくるぜ!」

 ガッコウが目の前に現れたヘビの魔物に、懐から取り出した短剣を持って向かっていく。
 ヘビは全長5メートル程で4体、よく見ると上半身を起こすと小さいながらも2本の手があった。
 まぁ短剣でキレイなスライス肉が沢山出来たのだが、戦い終わったガッコウが2人に向けてピースをすると、ヤクシとシャンディラは手を繋いでいなかった。
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