243 / 373
第6章 ダンジョンから始まる世界交流
第242話 ヤクシの弱点
しおりを挟む
80階の探索が終わり、81階に登るとヤクシの様子がおかしくなった。
階段の途中からおかしかったのだが、登りきると同時に動かなくなる。
「ヤクシ? どうしたんだ?」
ヤクシは怯えていた。
体を小刻みに震わせ、冷や汗を垂らし、しまいにはその場にしゃがみ込んでしまった。
「ヤ、ヤクシさん!?」
呼吸が荒く、何かにすがる様に床に両手をついて探している。
「わ、分からない……何も、何も分からない!!」
今までヤクシは目が見えないにもかかわらず、目以上に色々な物が見えていた。
それは視覚以外の4つの感覚を駆使し、更には魔力や無意識に使っていたスキルによるモノだ。
だがここ81階は、それらを否定している。
一見何でもない全ての壁は音・魔力を吸収し、目が見える者なら問題ないが、少なくともコウモリの様な生き物は存在できない場所なのだ。
今まで様々な物が見えていたヤクシには、ここは暗闇だった。
「が、ガッコウ……シャンディラ……お願いです、助けてください……」
見えない2人に手を伸ばすが、何も無い、何も見えない感じない。
何かが手に触れる。
その瞬間、ヤクシの感覚に光が差し込んだ。
その景色は自分ではない他人の物で、しゃがみ込むヤクシを右から見て手を握っている景色が、左からもヤクシの手を握っている景色が同時に感覚として伝わる。
それは酷くぼやけており、ピントの合っていないカメラのようだ。
そこに何かがある、それが分かるだけでもヤクシには希望の光に見えた。
「ヤクシしっかりしろ! アタシがついてる!」
「や、ヤクシさん、大丈夫ですか?」
左右からヤクシを護る様に手を握り、しきりに心配する2人の少女の手のぬくもりは、伝わってくる光以上の安心感を与えている。
手を握り返し、ゆっくりと顔を上げて2人に顔を向ける。
「ありがとうございます。落ち着きました」
「大丈夫なのかヤクシ、苦しいんなら今日は戻ってもいいんだぜ?」
「そ、そうです、無理はいけません」
「2人のお陰で落ち着きましたから大丈夫です。それよりも調べたい事があるのですが」
手を握ったままゆっくりと立ち上がり、2つの視点から見えている感覚の確認をする。
ガッコウとシャンディラに塔の中を見てもらうと、その景色はヤクシにも感覚としてしっかり見えるのだ。
しかし残念ながら2人が見ている物しか見えない為、あまり融通はきかない。
「以前から近い感覚はありましたが、2つの視点から見えたのは初めてです」
「それってアタシらの目を通じてヤクシが見てるって事か?」
「はい。ガッコウの見えている物がぼやけて見える事がありましたが、条件が分からなかったのです」
「ちょ、直接触れる、じゃ、な、ないんですか?」
「それも何度か試したのですがダメでした。しかし今は……ええ、手を触れれば見えますね」
発動条件は分からないが、今のところ直接肌と肌が触れる事で発動するようだ。
この力の究明は後回しにして、今は他に調べる事がある。
「にしても、なんでヤクシの全感覚が無くなっちまったんだ?」
「それなのですが、壁に寄ってもらえませんか?」
言われて3人は手を繋いだまま壁際によると、ガッコウとシャンディラは何かに気が付いたようだ。
「こ、これ……い、石じゃない……?」
「見た目は石だけど、なんだこれ、少し柔らかいぞ??」
ヤクシは少し戸惑っていた。
今までは視覚情報だけが感覚として伝わっていたが、今は触覚も伝わって来ているのだ。
なので柔らかい石の様なものが何なのか理解できた。
「これは音や魔力を吸収していますね。だから私の感覚が通じなかったのでしょう」
「きゅ、吸収、ですか? じゃあ、ま、魔法を使えないんじゃ」
「げ! マジかよ! ちょっと試してみる!」
ヤクシと手を繋いだまま、空いた右手で拳銃を取り出して1発撃ってみる。
弾は出るのだが、その勢いは急激に落ちて消えてしまった。
「マジかよ……これが使えないんじゃあワタシは……直接攻撃しか出来ないじゃん!」
ガッコウの銃は魔力を弾として打ち出すため、発射したと同時に吸収が開始しなくなってしまう。
しかし直接攻撃しかないとは一体……。
「ふふふ、久しぶりにガッコウの剣技が見れますね」
「疲れるから嫌なんだよな~」
本来は魔法使い殺しのフロア―だが、意外なところでヤクシの弱点が発覚し、そしてもう1人の力が発覚する事となる。
冷静さを取り戻したヤクシは、かろうじて感じ取れる床の感覚を感じていた。
床は硬い石なので、音や魔力が反響して辛うじて見えているようだ。
とは言え壁と天井にほとんど吸収されてしまうため、感じ取れるのはかろうじて人1人が通れる幅だけ。
今までヤクシが罠を発見ていたため簡単に進めたが、ここは歩いて進む事になる。
とはいえ、そろそろ塔の半分に近い為、フロア自体は随分と狭くなっていた。
ヤクシを真ん中にして仲良く手を繋ぎ、まるでハイキング気分だ。
「おっと出てきやがったな。ちょっくら行ってくるぜ!」
ガッコウが目の前に現れたヘビの魔物に、懐から取り出した短剣を持って向かっていく。
ヘビは全長5メートル程で4体、よく見ると上半身を起こすと小さいながらも2本の手があった。
まぁ短剣でキレイなスライス肉が沢山出来たのだが、戦い終わったガッコウが2人に向けてピースをすると、ヤクシとシャンディラは手を繋いでいなかった。
階段の途中からおかしかったのだが、登りきると同時に動かなくなる。
「ヤクシ? どうしたんだ?」
ヤクシは怯えていた。
体を小刻みに震わせ、冷や汗を垂らし、しまいにはその場にしゃがみ込んでしまった。
「ヤ、ヤクシさん!?」
呼吸が荒く、何かにすがる様に床に両手をついて探している。
「わ、分からない……何も、何も分からない!!」
今までヤクシは目が見えないにもかかわらず、目以上に色々な物が見えていた。
それは視覚以外の4つの感覚を駆使し、更には魔力や無意識に使っていたスキルによるモノだ。
だがここ81階は、それらを否定している。
一見何でもない全ての壁は音・魔力を吸収し、目が見える者なら問題ないが、少なくともコウモリの様な生き物は存在できない場所なのだ。
今まで様々な物が見えていたヤクシには、ここは暗闇だった。
「が、ガッコウ……シャンディラ……お願いです、助けてください……」
見えない2人に手を伸ばすが、何も無い、何も見えない感じない。
何かが手に触れる。
その瞬間、ヤクシの感覚に光が差し込んだ。
その景色は自分ではない他人の物で、しゃがみ込むヤクシを右から見て手を握っている景色が、左からもヤクシの手を握っている景色が同時に感覚として伝わる。
それは酷くぼやけており、ピントの合っていないカメラのようだ。
そこに何かがある、それが分かるだけでもヤクシには希望の光に見えた。
「ヤクシしっかりしろ! アタシがついてる!」
「や、ヤクシさん、大丈夫ですか?」
左右からヤクシを護る様に手を握り、しきりに心配する2人の少女の手のぬくもりは、伝わってくる光以上の安心感を与えている。
手を握り返し、ゆっくりと顔を上げて2人に顔を向ける。
「ありがとうございます。落ち着きました」
「大丈夫なのかヤクシ、苦しいんなら今日は戻ってもいいんだぜ?」
「そ、そうです、無理はいけません」
「2人のお陰で落ち着きましたから大丈夫です。それよりも調べたい事があるのですが」
手を握ったままゆっくりと立ち上がり、2つの視点から見えている感覚の確認をする。
ガッコウとシャンディラに塔の中を見てもらうと、その景色はヤクシにも感覚としてしっかり見えるのだ。
しかし残念ながら2人が見ている物しか見えない為、あまり融通はきかない。
「以前から近い感覚はありましたが、2つの視点から見えたのは初めてです」
「それってアタシらの目を通じてヤクシが見てるって事か?」
「はい。ガッコウの見えている物がぼやけて見える事がありましたが、条件が分からなかったのです」
「ちょ、直接触れる、じゃ、な、ないんですか?」
「それも何度か試したのですがダメでした。しかし今は……ええ、手を触れれば見えますね」
発動条件は分からないが、今のところ直接肌と肌が触れる事で発動するようだ。
この力の究明は後回しにして、今は他に調べる事がある。
「にしても、なんでヤクシの全感覚が無くなっちまったんだ?」
「それなのですが、壁に寄ってもらえませんか?」
言われて3人は手を繋いだまま壁際によると、ガッコウとシャンディラは何かに気が付いたようだ。
「こ、これ……い、石じゃない……?」
「見た目は石だけど、なんだこれ、少し柔らかいぞ??」
ヤクシは少し戸惑っていた。
今までは視覚情報だけが感覚として伝わっていたが、今は触覚も伝わって来ているのだ。
なので柔らかい石の様なものが何なのか理解できた。
「これは音や魔力を吸収していますね。だから私の感覚が通じなかったのでしょう」
「きゅ、吸収、ですか? じゃあ、ま、魔法を使えないんじゃ」
「げ! マジかよ! ちょっと試してみる!」
ヤクシと手を繋いだまま、空いた右手で拳銃を取り出して1発撃ってみる。
弾は出るのだが、その勢いは急激に落ちて消えてしまった。
「マジかよ……これが使えないんじゃあワタシは……直接攻撃しか出来ないじゃん!」
ガッコウの銃は魔力を弾として打ち出すため、発射したと同時に吸収が開始しなくなってしまう。
しかし直接攻撃しかないとは一体……。
「ふふふ、久しぶりにガッコウの剣技が見れますね」
「疲れるから嫌なんだよな~」
本来は魔法使い殺しのフロア―だが、意外なところでヤクシの弱点が発覚し、そしてもう1人の力が発覚する事となる。
冷静さを取り戻したヤクシは、かろうじて感じ取れる床の感覚を感じていた。
床は硬い石なので、音や魔力が反響して辛うじて見えているようだ。
とは言え壁と天井にほとんど吸収されてしまうため、感じ取れるのはかろうじて人1人が通れる幅だけ。
今までヤクシが罠を発見ていたため簡単に進めたが、ここは歩いて進む事になる。
とはいえ、そろそろ塔の半分に近い為、フロア自体は随分と狭くなっていた。
ヤクシを真ん中にして仲良く手を繋ぎ、まるでハイキング気分だ。
「おっと出てきやがったな。ちょっくら行ってくるぜ!」
ガッコウが目の前に現れたヘビの魔物に、懐から取り出した短剣を持って向かっていく。
ヘビは全長5メートル程で4体、よく見ると上半身を起こすと小さいながらも2本の手があった。
まぁ短剣でキレイなスライス肉が沢山出来たのだが、戦い終わったガッコウが2人に向けてピースをすると、ヤクシとシャンディラは手を繋いでいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる