【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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29 ミア

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「普通結婚は男と女でするの」

「なんでや?」

「そうじゃないと子供が産まれないから!」

「そうかー子供って必ず必要なんか?」

「う……でも、後継ぎっていると思うの。ギアナ様は商人なんだし」

「そうかーじゃあきっぱりはっきり断らなアカン。ズルズルにしとくとあかんやつや」 

「あ、うん。そうだね」

 あれ?なんだろう。このモヤモヤした感じ。俺は女の人と結婚して、可愛い子供達に囲まれて暮らしたい。

 だからギアナ様と結婚する訳にはいかない。だから断らなくちゃいけない。断る?断るの?あれ?おかしな、何か痛い……。


 その時、ガシャーン!と何かが割れる音がして屋敷が騒がしくなった。

「なんや?」

「玄関の方みたい。行ってみよう」

 俺はサラやんを頭の上に乗せて、玄関の方に向かった。


 ギアナ様の屋敷の玄関は広い。絵に描いたように広くて、玄関ホールには二階へ続く階段が鳥が羽を広げたように続いているし、小ぶりだがシャンデリアもついている。
 その入り口で屋敷の人と見知らぬ人が揉めている。見知らぬ人は女の人で、頭からぴょんと大きな耳が伸びているウサギの獣人だった。

「お引き取りください!貴方が来て良い場所ではない!」

「うるさいわね!ギアナを出せって言ってんでしょっ?!」

 揉み合いになっている。怖いな、と思うけれど、ウサギ……何か引っかかる。

「帰れ!2度と現れるなと言われているだろう!」

 執事さんだ。怒っている。あの人はいつもニコニコして温和を絵に描いたような人なのに怒るなんて珍しい。

「だからーギアナを出せばいいのよ!どうせあいつの事なんだから!」

 ギアナ……なんであのウサギの人はギアナ様を呼び捨てにするんだ?!何か胸の辺りがむかむかしてきた。

「うるさいぞ!どうした!」

 二階からギアナ様が降りてくる。

「ギアナぁ~こいつらが私を通してくれないよぉ~!」

 くねりとしなを作って媚びた声でギアナ様を呼ぶ。なんて気持ち悪い!
 執事さんの横をすり抜けるようとして、捕まった。

「ミア、ここにはもう来るな。そういう約束だったな」

「え~良いじゃなぁい~そんなどうでも良い事ぉ~」

「そして2度と会わない。それはお前の方から提示した条件だ。それを破ったのはお前。しかも今回で2度目だ。帰れ」

 ギアナ様の冷たい言葉に何故かほっとした。あれ、俺ってばおかしくない?

 ミアと呼ばれたウサギの獣人はギリッと奥歯を噛み締める。

「運命の番様がこうして逢いにきてやってるのに、なんなの!その態度!!どうせアンタのことだ!まだ私の事が忘れられなくてグズグスしてんだろ!え?優しくしてもらいたければ金出しな!相応に可愛がってやるよ!」

「クズが!!」

 執事さんはミアを床に引き倒した。

「痛ーい!なにすんよの!ギアナ!早く助けなさいよ!!!」

 ギアナ様はミアを見下したままだった。

「お前は」

 汚い物を見下す目、愛情など一欠片もない目。運命の番?うそでしょ?

「前回調子に乗って味をしめたのか?あれだけ大量の物や書類金を盗んで逃げたもんな?あの損失を取り戻すのはなかなか骨が折れた」

「良いじゃなーい。運命の番が使ってあげたんだから感謝しなさいよ!」

「それはお前から破棄したではないか」

「私からは破棄したわ!でも貴方はどうなの?忘れられないんでしょう?あの衝動を!私と会うだけで胸を焦がすような愛に包まれるアレを!」

 運命の番は出会えば胸を焦がすような情愛に包まれる。出会えば、それが魂の求める半身だと分かる。そう言うものらしい。

「さあ!ひざまづいて私に愛を求めなさい!私からはお返し出来ないけどね!その魂の熱に浮かされるといいわ!」

 なんて人だ。俺は吐きそうになった。あははは!と笑いながら、がなり立てる。気持ち悪い!

「ミア」

 ギアナ様がウサギの人の名前を呼ぶ。やめて!その人に近づかないで!

「次は衛兵に突き出すと言伝したのは届いているよな?」

「私を忘れられないあんたが、私を突き出せる訳がないじゃない!」

 顔を床に押し付けられたまま、笑みを浮かべてミアは叫ぶ。騒ぎを聞きつけた屋敷の人達が集まって来て、みんな汚い物を見る顔でミアを見ている。

「なぁに、あのウサギ獣人」

「貴方は最近来たから知らないのよね。自分から運命の番を破棄して、ギアナ様に2度と会わないって言って、更にお金までせしめて行ったのよ!3年前に」

「えっ!意味分かんない!払うんじゃなくて、取っていったの??」

 ヒソヒソ、俺の横でメイド修行中のお姉さんが話しが聞こえる。

「あり得ないでしょ?でもギアナ様にしたらはした金だったし、運命の番という繋がりもあったから、そこそこのお金を渡したのよ……」

「うっそー!運命の番を破棄したのに?!ギアナ様どんだけなのー!」

 本当にどんだけだよ!でもその優しい所が大好きなんだよなぁ……そうじゃなきゃ川から瀕死の俺なんか助けてもらえなかっただろうし。

「でね?もっと酷いのが去年なんだけど!あのウサギ、乗り込んで来て少し話をーとかなんとか言って上がり込んで何したと思う?ギアナ様の仕事部屋に乗り込んで、ちょっと目を離した隙に書類やらお金やら手当たり次第に盗んで逃げたのよ!」

「なにそれ!最悪!」

 うえ!ほんと最悪!酷すぎない?!

「だから良くまた顔出せたなって。あり得なくない?」

「ほんとだわ……」

 あの優しいギアナ様があんな目で見るのも納得した……。

「なかなか美味かったぞ?相手をまだ想っていれば苦く、受け入れがたい味だそうだが、美味いと感じたぞ?」

 ギアナ様はヒュンと何かを放り投げた。それはカツンと硬質な音を立てて、床に転がり、床に這いつくばらされているミアと言うウサギ獣人の前で止まった。

「え……な、なんで!なんであんたが!!」

「目の前で破棄されたのに、なんでこちらから想ってやらねばならんのだ?可笑しな奴だ」

「なんであんたが運命破棄薬飲んでんのよ!!!」

 あ、俺はあの瓶を知っている。夜に飲んだ薬の瓶だ。
 
 表情は変わらず、ギアナ様は言う。

「簡単だ。お前より魅力的な相手に出会ったからだ。運命を差し引いてもお前より素晴らしい相手にな?……しかし、運命の番とは本当に質の悪い呪いだな。何故お前のような薄汚い盗っ人を愛しく思ったのか……反吐が出る」

 吐き捨てた!

「嘘!嘘よ!ギアナが運命を捨てられるはずがない!だって!だって!ギアナから金を奪わなきゃ私が旦那に叱られるのよ!」

「ああ、お前の夫の商売、厳しいんだってな。周りの商人に切られちゃやって行けないだろうしな」

「そうよ!だから金!金をよこしなさいよ!!!」

「何故だ?何故お前に金をやらねばならん?俺に返すの間違いだろう?」

「うっ……!」

 ちょうどその時、衛兵がドヤドヤとやってくる。

「罪人が暴れていると連絡がありましたがどいつですか!」

「この女です!」

 執事さんはサッとミアを引き渡す。

「ちが!私は!ギアナの運命の番よ!!」

 衛兵はギアナ様を見上げる。

「それがその女の手口だ。もちろん俺には関係がない」

 ミアは叫びながら連行されて行った。

「みんな、この件はカタがついた!騒がせたがもう安心して良い」

 ギアナ様の宣言のような声を聞いて、屋敷の人達は胸を撫で下ろし、それぞれの仕事に戻って行った。

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