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39 なんとも腹立たしい(元の国、宰相視点)

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 片時も離さぬらしいーー。

「ちっ!」

 報告書を見て私は舌打ちをするしかなかった。

「皇帝と常にあり、その寵愛を一身に集めている」

「色々なものを作り出し、仕事もしっかりこなす。無能などとんでもない」

「正妃とも仲が良く、帝国始まって以来の平穏さ」

 どれもこれも、どれもこれも我が国から売られたあの無能ディエスを褒め称える物ばかり。

「何せ姿形が良い。少し控えめに皇帝の後ろに立ち、常ににこやかに笑っている。そのあやめアイリスの様な姿に老若男女はほぼ魅了されているーー冗談だろう?」

 あの落ち着きもなく、黙って立っていることすらできなかった阿呆が?確かにアレの母親は美しい女で、躾もなっていたから我が国の使えない王に充てがった。その血を濃く継いだのだろう……アレは確かに見目は良い。現在の王太子であるエイダン様より遥かに人の目を惹きつける顔をしている。

「早まったか?いや、そんな事はない」

 私は判断を誤った……?いや、私が判断を誤る事などない、ただもっと高値で売りつければ良かった。十分高値で売ったつもりだったのに、まだ値を吊り上げる事が出来たかもしれん。

 アレの母親は息子の失態を機に側妃の座を降り、田舎の領地に帰って行った。王はかなり引き留めたようだが、固辞した。
 あの女が後宮でかなり肩身の狭い思いをし、正妃より虐めを受けていた事も知っていた。気づかなかったのは王くらいなものだったから、この好機をあの女は逃さなかったのだろう。
 田舎に引っ込んで出てこないのならばこちらの体制には何の影響もない。未練たらたらの王も新しい令嬢でも与えておけば静かになるはず。
 その際には間違っても子を成さぬ為にあの女同様薬を盛らねばならないだろうがな。

「問題はエイダン様だ」

 アレの良い噂が聞こえれば聞こえるほど、エイダン様の覇気が無くなってゆく。

「最初から華のない御方だが」

 エイダン様は華がない、誰もが凡庸な印象しか抱かない御方であった。アレが紫に金目という派手な色合いなのも良くなかったのだが、茶色髪にほぼ茶色の金茶の目……王そっくりの色合い。
 背もそこそこに低く、きちんと姿勢良く立っているのになぜかだらしない印象。それは大食漢でもないのに出た腹のせいか……?それすら王にそっくりだ。
 運動もせずだらだらと暮らしていたはずなのに手足は長く、スッとした体付きのアレとは全く違う……。

「きちんと教師も付けたのに」

 教師達の報告もいつも決まっていて

「真面目に取り組んでおられます」

 だった。それだけ、つまりそれ以外なにも取り柄がないのだ。

「我が娘を婚約者に据えたのに」

 王太子エイダンが廃嫡されたディエスより有能でなければならないのに、日を追うごとにディエスの名声が響いてゆく。なんとも腹立たしい状況だった。

「何とかせねば……」

 私は帝国にくれてやったアレをどうにか引きずり降ろさねばならなかった。




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