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84 ディエス無双(皇帝ラムシェーブル視点
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「いやあああああっ!!私の子!私の赤ちゃん達!!!連れて行かないで!!私の赤ちゃん達ーーーー!!!」
ソレイユの取り乱した声がここまで聞こえるが、私は目を閉じるしかない。
双子は凶事であり禁忌。
それが定めだ。多分、先に産まれた方が残され、後に産まれた方が……産まれなかった、いなかった事になる。
「ふ、双子……、まさか、まさかだけど。双子は良くない物だとか信じられてない、よな?」
ディエスが私を見るが、気が付いているだろう?周りの人間全てがあの二つの産声を聞いて青褪め、白くなり……メイドは何人も倒れ気を失って転がっている者もいる。私はディエスの金色の目を真っ直ぐに見なければならない。
「双子など、産まれて来てはおらぬ。赤子は一人、そう言う事なのだ」
「し、信じられない!信じられない!!!じゃあもう一人はどうなるんだ!?ふざけんな!!!」
王家の長い歴史の中で双子がいた事はない。一度もないのだ。だからこれからもないし、あってはいけないのだ。
「返して!私の赤ちゃん達を返して!!いやあああ連れて行かないで!!誰か、誰か助けて!私の赤ちゃんを、助けて!!!お願い連れて行かないでーーーーー!!!」
ソレイユの必死の叫びが木霊する。それでもその言葉には諦めが混じっていることを私は知っている。双子は禁忌。ソレイユも知っている事だ。ソレイユはもしかしたら日々大きくなっていく自分の腹をどんな気持ちで見ていたのだろう。まさか、いやそんなはずはと否定しながら、怯えながら暮らしていたのかもしれない。
「駄目!!だめえええええっ子供を、赤ちゃんを助けて!!お父様っお母様っ!!ラムーー!お願い、私の赤ちゃんを助けて!」
それでもあきらめきれないソレイユの心が悲痛な叫びをあげる。ソレイユ……駄目なのだ……王家に、双子は存在してはならないのだ、分かってくれ、ソレイユ……。
「お願いたすけて!!助けてディエス!!!!」
「任せろ!ソレイユ様っ!!!」
ディエスが弾かれたように走り出し、部屋の扉をぶち破った。
「赤ちゃんを返せーっ!!!」
「うわ、うわああああ!なにを、何をするのですッ側妃様!」「側妃様と言えど、うわーーーー!」「きゃー!」
「おぎゃー!おぎゃー!」「おぎゃー!」
「寄越せーーーっ!」
「いやああああっ!!」
あの力など欠片もなさそうなディエスが……相手は医者や産婆だったが、それらと大立ち回りを演じている。そしておくるみにくるまれた赤子を二人確保するとソレイユに抱かせ、その前に立ちはだかった。
「双子は!縁起が悪いなんて!嘘だ!!!」
「側妃様!いけません!双子は禁忌!王家に仇なす存在です」
「誰が決めたッ!!たまたま二人一緒に産まれただけじゃないか!」
誰が、決めたか。分からぬ……でも言い伝えは、双子は禁忌である、だ。同じ運命を分け合うのだから、取り合いが起き、それが紛争になる……そんな感じだった気がするが、誰が決めたのかそれは私にもわからなかった。
「あああ!私の、私の赤ちゃん達……ディエス、ディエスありがとう、ありがとう!」
「まだ安心するのは早いです!皆!ソレイユ様を守って!」
呆然と立ち尽くしていたメイドや侍女達がはっと顔を上げ、ディエスの前にソレイユとディエスを庇うように立ちはだかる。
「わ、私達はソレイユ様のメイドです!ソレイユ様のご意思を守ります!」
「例えクビになっても、斬られてたとしても!私達はソレイユ様の盾になります!!」
ディエス一人ならば力づくで排除も出来ただろう。しかし、メイドや侍女合わせて20人弱、それに加えて女性騎士が数人では医者や産婆ではどうしようもない。
「へ……陛下……ど、どうしたら……」
全員の視線がこちらを向く、当然だ。この場を収拾するのにふさわしいのは私以外いない。
双子は禁忌であり、王家に仇なす存在である。
「ソレイユ、出産ご苦労だった。そなたが無事である事を嬉しく思う」
「あ、ありがとう、ございます。ラムシェーブル陛下」
怒りで興奮した犬のように唸り声を上げそうなディエスを置いて、私はまずソレイユを労い、そして尋ねた。
「ソレイユ、どうしたいのだ?」
「わ、私は!私はこの子達を守りたい!私の可愛い子供達を死なせたくない!!その為なら私は……」
「分かった」
その先に何かとてつもない決断をしそうだ。母となった者は強い、私も知っている事だ。ソレイユの言葉を途中で遮る。
「ディエス」
「双子が不吉な物なんて嘘だ!見ろよ、めちゃくちゃ可愛い赤ちゃんじゃないか!絶対不吉なんてない!!」
大きな声で泣いている赤子。ソレイユの髪の色そっくりな綺麗な金髪で、顔立ちもソレイユに似ている。きっと美しい子供になるに違いないな。
おろおろと狼狽える産婆に声をかけた。
「女か?」
「だ、男子でございます……」
ついておったか。武力を行使すれば無理やりにでもあの赤子をソレイユから取り上げることは出来る。しかしそんなことをするとディエスは一生私を許さぬであろうな。それは……それは困る。
「今日産まれた子は一人と発表せよ」
「ラムっ!!!お前っまさかーーー!!」
ディエスが射殺しそうに睨んでくるが、その表情も悪くないな。
「ソレイユ、今は時期が悪い。その子供のせいで作物が取れぬと言われかねん、分かるな?」
真っ青な顔、ソレイユも気がついているのだ。間違いなく誰かは言う。正妃の腹に双子がいたから、小麦は取れなかったのだと。私はそんな事は信じていないが、そう言い出す輩は必ずいる。
「わ……わかり、ます……でも、でも嫌……嫌です、ラム……お願い、お願いだから、この子を殺さないで」
ソレイユが泣いた。泣かぬようにと厳しく躾けられたソレイユが。間違えて鞭で手を叩かれた時も、足を捻ってねん挫した時も泣かなかったソレイユが大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、私に懇願してくる。
暫く忘れていた子供の頃と同じソレイユの顔で。
「ディエス……双子の凶事は嘘だと言ったな?」
「当たり前だ!!」
「ではお前がそれを証明せよ」
「へ?」
場に似合わぬ素っ頓狂な声を上げるのがまたディエスらしい。
「お前がその赤子を導いて、双子は凶事ではなく慶事であることを証明せよ。出来るな?」
「で、出来る!!双子は可愛い!可愛いのが二倍なんだから可愛いに決まってる!!」
全く仕方がない奴だ。
「この寒さを乗り切り春になり……天候が回復してから発表すれば民は赤子のせいだと思わないだろう。それまで隠して育てよ」
「ラム!!!じゃあ赤ちゃんは大丈夫なんだな!?」
「片方は誰かに預けるのだぞ、ソレイユ。夏頃に戻せるであろうよ」
「ラム……ラムシェーブル陛下っ!!ありがとう、ありがとうございます!!」
わぁっとソレイユの涙は増加したが、先程までとは意味が違うものだ。
「皆もこの事は夏まで口外せぬよう、肝に銘じるがいい。不要に民に不安を生じさせることはならぬ」
「「「はっ!!心得ましてございます!!」」」
「では戻るぞ、ディエス。ここに我らがいてもこれ以上何の役にも立たん」
「分かった……ソレイユ様、赤ちゃんと離れるのは辛いけど辛抱して……」
「ええ!ええ!大丈夫、耐えられるわ!この子達が無事なら私は大丈夫……ディエス、ディエス……本当にありがとう!」
「へへ、当然の事をしただけですよ!」
何が当然だ。お前は帝国の歴史に残る偉業をやり遂げるかもしれんのだぞ?私もほとほとディエスに甘くていかんな、そう思いながらも正妃宮を後にした。
ソレイユの取り乱した声がここまで聞こえるが、私は目を閉じるしかない。
双子は凶事であり禁忌。
それが定めだ。多分、先に産まれた方が残され、後に産まれた方が……産まれなかった、いなかった事になる。
「ふ、双子……、まさか、まさかだけど。双子は良くない物だとか信じられてない、よな?」
ディエスが私を見るが、気が付いているだろう?周りの人間全てがあの二つの産声を聞いて青褪め、白くなり……メイドは何人も倒れ気を失って転がっている者もいる。私はディエスの金色の目を真っ直ぐに見なければならない。
「双子など、産まれて来てはおらぬ。赤子は一人、そう言う事なのだ」
「し、信じられない!信じられない!!!じゃあもう一人はどうなるんだ!?ふざけんな!!!」
王家の長い歴史の中で双子がいた事はない。一度もないのだ。だからこれからもないし、あってはいけないのだ。
「返して!私の赤ちゃん達を返して!!いやあああ連れて行かないで!!誰か、誰か助けて!私の赤ちゃんを、助けて!!!お願い連れて行かないでーーーーー!!!」
ソレイユの必死の叫びが木霊する。それでもその言葉には諦めが混じっていることを私は知っている。双子は禁忌。ソレイユも知っている事だ。ソレイユはもしかしたら日々大きくなっていく自分の腹をどんな気持ちで見ていたのだろう。まさか、いやそんなはずはと否定しながら、怯えながら暮らしていたのかもしれない。
「駄目!!だめえええええっ子供を、赤ちゃんを助けて!!お父様っお母様っ!!ラムーー!お願い、私の赤ちゃんを助けて!」
それでもあきらめきれないソレイユの心が悲痛な叫びをあげる。ソレイユ……駄目なのだ……王家に、双子は存在してはならないのだ、分かってくれ、ソレイユ……。
「お願いたすけて!!助けてディエス!!!!」
「任せろ!ソレイユ様っ!!!」
ディエスが弾かれたように走り出し、部屋の扉をぶち破った。
「赤ちゃんを返せーっ!!!」
「うわ、うわああああ!なにを、何をするのですッ側妃様!」「側妃様と言えど、うわーーーー!」「きゃー!」
「おぎゃー!おぎゃー!」「おぎゃー!」
「寄越せーーーっ!」
「いやああああっ!!」
あの力など欠片もなさそうなディエスが……相手は医者や産婆だったが、それらと大立ち回りを演じている。そしておくるみにくるまれた赤子を二人確保するとソレイユに抱かせ、その前に立ちはだかった。
「双子は!縁起が悪いなんて!嘘だ!!!」
「側妃様!いけません!双子は禁忌!王家に仇なす存在です」
「誰が決めたッ!!たまたま二人一緒に産まれただけじゃないか!」
誰が、決めたか。分からぬ……でも言い伝えは、双子は禁忌である、だ。同じ運命を分け合うのだから、取り合いが起き、それが紛争になる……そんな感じだった気がするが、誰が決めたのかそれは私にもわからなかった。
「あああ!私の、私の赤ちゃん達……ディエス、ディエスありがとう、ありがとう!」
「まだ安心するのは早いです!皆!ソレイユ様を守って!」
呆然と立ち尽くしていたメイドや侍女達がはっと顔を上げ、ディエスの前にソレイユとディエスを庇うように立ちはだかる。
「わ、私達はソレイユ様のメイドです!ソレイユ様のご意思を守ります!」
「例えクビになっても、斬られてたとしても!私達はソレイユ様の盾になります!!」
ディエス一人ならば力づくで排除も出来ただろう。しかし、メイドや侍女合わせて20人弱、それに加えて女性騎士が数人では医者や産婆ではどうしようもない。
「へ……陛下……ど、どうしたら……」
全員の視線がこちらを向く、当然だ。この場を収拾するのにふさわしいのは私以外いない。
双子は禁忌であり、王家に仇なす存在である。
「ソレイユ、出産ご苦労だった。そなたが無事である事を嬉しく思う」
「あ、ありがとう、ございます。ラムシェーブル陛下」
怒りで興奮した犬のように唸り声を上げそうなディエスを置いて、私はまずソレイユを労い、そして尋ねた。
「ソレイユ、どうしたいのだ?」
「わ、私は!私はこの子達を守りたい!私の可愛い子供達を死なせたくない!!その為なら私は……」
「分かった」
その先に何かとてつもない決断をしそうだ。母となった者は強い、私も知っている事だ。ソレイユの言葉を途中で遮る。
「ディエス」
「双子が不吉な物なんて嘘だ!見ろよ、めちゃくちゃ可愛い赤ちゃんじゃないか!絶対不吉なんてない!!」
大きな声で泣いている赤子。ソレイユの髪の色そっくりな綺麗な金髪で、顔立ちもソレイユに似ている。きっと美しい子供になるに違いないな。
おろおろと狼狽える産婆に声をかけた。
「女か?」
「だ、男子でございます……」
ついておったか。武力を行使すれば無理やりにでもあの赤子をソレイユから取り上げることは出来る。しかしそんなことをするとディエスは一生私を許さぬであろうな。それは……それは困る。
「今日産まれた子は一人と発表せよ」
「ラムっ!!!お前っまさかーーー!!」
ディエスが射殺しそうに睨んでくるが、その表情も悪くないな。
「ソレイユ、今は時期が悪い。その子供のせいで作物が取れぬと言われかねん、分かるな?」
真っ青な顔、ソレイユも気がついているのだ。間違いなく誰かは言う。正妃の腹に双子がいたから、小麦は取れなかったのだと。私はそんな事は信じていないが、そう言い出す輩は必ずいる。
「わ……わかり、ます……でも、でも嫌……嫌です、ラム……お願い、お願いだから、この子を殺さないで」
ソレイユが泣いた。泣かぬようにと厳しく躾けられたソレイユが。間違えて鞭で手を叩かれた時も、足を捻ってねん挫した時も泣かなかったソレイユが大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、私に懇願してくる。
暫く忘れていた子供の頃と同じソレイユの顔で。
「ディエス……双子の凶事は嘘だと言ったな?」
「当たり前だ!!」
「ではお前がそれを証明せよ」
「へ?」
場に似合わぬ素っ頓狂な声を上げるのがまたディエスらしい。
「お前がその赤子を導いて、双子は凶事ではなく慶事であることを証明せよ。出来るな?」
「で、出来る!!双子は可愛い!可愛いのが二倍なんだから可愛いに決まってる!!」
全く仕方がない奴だ。
「この寒さを乗り切り春になり……天候が回復してから発表すれば民は赤子のせいだと思わないだろう。それまで隠して育てよ」
「ラム!!!じゃあ赤ちゃんは大丈夫なんだな!?」
「片方は誰かに預けるのだぞ、ソレイユ。夏頃に戻せるであろうよ」
「ラム……ラムシェーブル陛下っ!!ありがとう、ありがとうございます!!」
わぁっとソレイユの涙は増加したが、先程までとは意味が違うものだ。
「皆もこの事は夏まで口外せぬよう、肝に銘じるがいい。不要に民に不安を生じさせることはならぬ」
「「「はっ!!心得ましてございます!!」」」
「では戻るぞ、ディエス。ここに我らがいてもこれ以上何の役にも立たん」
「分かった……ソレイユ様、赤ちゃんと離れるのは辛いけど辛抱して……」
「ええ!ええ!大丈夫、耐えられるわ!この子達が無事なら私は大丈夫……ディエス、ディエス……本当にありがとう!」
「へへ、当然の事をしただけですよ!」
何が当然だ。お前は帝国の歴史に残る偉業をやり遂げるかもしれんのだぞ?私もほとほとディエスに甘くていかんな、そう思いながらも正妃宮を後にした。
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