【完結】その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

鏑木 うりこ

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1 公爵、竜巫女に選ばれる

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 この世界の大陸には竜が居る。太古の昔、竜の身体で陸を作ったという神話にあるように、竜は大陸の主で、大地を巡る龍脈を自在に操れる。
 だから、竜は絶対であり、怒れば大陸が吹っ飛んで、そのに暮らす者などひとたまりもなく絶えてしまう。

 だからこの世界の大陸に住まう者は竜の機嫌を取りながら生きているといっても過言ではない。

「で」
「竜巫女のせ、選定でございます……」
「で」

 元々表情筋が死に絶えていると言われている私は呆れと……若干の恐怖にさらに表情を失った。

「それで……あの」

 我が国がある大陸、いやどの大陸でもその陸地の主である守護竜に巫女を捧げる。
 巫女は竜のために生き、竜にどの様に仕えるかは竜次第。ただ竜巫女に選ばれた、捧げられた者は生きて竜巫女の任を解かれたものはいない。
 つまり、人の世とは隔離されるということなのだが。

「で?」
「あ、あの……」

 どの国でも竜巫女になるために何人もの若い娘が修行をしている。巫女とはいえ、平たくいえば生贄だ。巫女を輩出した家には十分な報酬と望めば爵位を与え貴族の一員へむかえいれられるし、家族は一生遊んで暮らせる。
 何せ巫女がいなければ大陸は荒れ果てるのだから。

「それで、今年は我が国から巫女を輩出する年であり、巫女候補の娘達も準備されていた筈だが?」
「ええ! ええ! それはもちろんでございます! 聖女エリーゼ様を始めとして、沢山の巫女候補が神殿に集まっておりました」

 竜には神殿がある。守護竜を奉り、それに仕える神殿に巫女候補が集められ、数十年に一度回ってくる巫女選定の儀式でその中から選ばれてきた。
 巫女は代々清らかな乙女の中から選ばれてきた。だから今年もそうだと誰もが思っていたのにだ。

「で? 我らが大陸の守護竜様は何と?」
「あ、あの……」

 竜神殿の神官達は言い淀む。なにせ前例のないことだからだ。

「ほ、本年の……竜巫女は、あの、その……ルシダール・デフィタ公爵、が、よ、良いと……」
「……で?」
「あの、な、何度も……神託の、竜水晶を見ましても、その、こ、公爵閣下の、お姿が浮かびまして」
「で?」
「ひいいいーー!」

 私とて、神官達を怯えさせるのは本意ではない。しかしだ。今までたくさんの段取りをし、これぞという乙女達を国中から集め、稀有とされる聖女も動員した。
 通年なら集められた乙女達の中から決まる竜巫女に

「なぜ私が選ばれなければならぬ?」
「わ、分かりません、なにせ前例がなく……!」

 2年前激しい派閥争いの末、なんとか宰相補佐の座をもぎ取り、今まで敵対派閥を潰し続け、何とか落ち着いてきた。やっとまともな政治になると父上と共に未来図を描き始めていたところなのに。

「私に竜巫女としてこの世界を捨て、守護竜殿に侍ろと言うのか?」
「ひいっ!」

 このやり取りをもう5回は繰り返していた。





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