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29 つまらんことは嫌いだ(アリアン
しおりを挟む「黒ちゃん」
「寝てねーと、いざって時出てこれねーぞ、リンカ」
「あははっそうだね。黒ちゃんのやることは突飛だからなぁ」
何だかよくわかんねぇけど、むしゃくしゃした俺はかなりの速度で飛んで、この黒の大陸の中にあるかなり高い山にある良い感じの岩棚に座り込んでいた。
周りは寒い。多分、ルシを連れて来たらすぐに凍え死ぬくらいの寒さで雪に覆われている。だから連れてはこられないな。鱗が禿げた脇腹の一箇所が冷えてジンジンする。手で押さえておくか。
吹雪はうざったいのでちょっとの間雲を切って止めた。
リンカの声が中からじゃなくて外から聞こえる。実体がないのに、無理して外に出て俺に話しかけてるんだ。何してんだ? 意味分かんねー。
「ありがとうね、黒ちゃん。私、毎日楽しいよ」
「ふん、俺は楽しくないね。なんで黒竜アリアン様が人間に媚びて犬みたいにならなきゃならんのだ」
「そうね」
何同意してんだよ! おめーの仕業だろ、クソリンカ!
「でもケーキ美味しかったね?」
「おう! あれ美味いな。今度ルシにいって丸まんま食いたい!」
「うんうん。温泉も悪くないよね」
「あーナディの奴も気が利くしな。風呂上がりのフルーツミルクの再現度も悪くねぇ」
「あれはびっくりしたねぇ、ちょっと説明しただけなのに、次に行ったら出てくるんだもん。しかも冷たいやつ!」
「ああ! 風呂上がりって感じして良いよなぁ。しかも俺は特別に飲み放題だぜ!」
「よっ! 流石天下の黒竜さまっ」
「えっへん!」
リンカとの他愛のない話は楽しい。俺の知らないチキューとかいうところの話を聞くのも楽しい。だから、リンカがしょぼくれてると俺はつまらん。
「ごめんね、私のわがままに付き合わせて」
「謝るこたねぇよ。俺もそれなりに楽しんでる」
「私がルシ様を好き過ぎるせいで!」
「まったくだ! でもまあ……俺もルシダールのこと前より嫌いじゃねーよ。あいつは何かと芯が通ってる」
「黒ちゃん……やっとルシ様の素晴らしさに気がついてくれたのね……いいのよ、リンカ、同担オッケーよ……!」
「おめーみてーに病気じゃねーし!」
「病気なんて失礼ね! そんなちゃちなもんじゃないわよ! こちとら世界超えてまで愛してんだからねっ」
「わーわーわー! やべースイッチ押しちまった!」
それからリンカの一方的なお喋りを聞かされてウンザリした頃に、リンカは笑った。
「帰ろっか。そろそろルシ様、帰ってくるよ」
「良いのか? 帰って他所の女臭くなってたら」
リンカが曖昧な顔をする。本当は顔なんて見えない。ただそんな気がするだけなんだが、リンカなら確実にそうする、俺は分かるんだ。
「仕方がないのよ。ルシ様は人間だもの。人間は歳をとったら死んじゃうの。その前に誰かと結婚して、子供を作って欲しい。私、ルシ様の子供みたいもの。デフィタ家も続いて欲しいし……」
「ルシが他の女に取られてもか?」
「……そうだよ」
リンカは嘘をついた。あんだけ好き好きいってる奴が別の女に取られて納得できるわけねーだろ。俺ならそんな女この世から塵も残さんくらい焼き尽くすね。
現にリンカの心はひどく揺れて、不安と黒い想いがぐるぐる渦を巻いてる。それが俺にも伝わって、俺はこんなところまで飛んできて頭を冷やしているんだけどな。
「でも、私にはどうしようもないもん……だって、私はルシ様と結婚もできないし子供を産んであげることもできない。だって体がないんだもん」
そこでブツンとリンカの気配は消えた。分かってる、俺も分かってんだ。リンカはいつも楽しそうに、嬉しそうにルシを見て笑ってる。でもその先のことを考えてどっかに隠れて泣いてることも。
どんだけ好きでも叶うことがない願い。俺とリンカは俺達が分離できないか散々試した。俺達の力をフルに使っても分離はできず、今もこうして同居生活をしている。
分体でも作ってそっちにリンカを、なんて考えたこともあったけど無理だった。何とリンカに黒竜の本体を取られそうになったんだ。慌ててやめたね。
「女くせールシは見たくねーけど、顔見ねぇと安心できねぇや。リンカ心は複雑だなぁ」
ルシの身に危険があれば分かるようになってるけど、やっぱり落ち着かねえ。
「帰るか。んで風呂でゴシゴシ洗ってやろ。リンカ特製高級ボデーソープとやらでな」
変な匂いのするルシ様は許せんとか必死で調合してたっけ。まあ、俺も嫌いな匂いじゃねぇし、良いけどよ。
「あーあ。どっかにルシの子供を産んでくれるリンカが納得する女はいねーもんかなぁ?」
まあ、生半可な奴じゃ俺もやだしなぁ、難しいかな?
俺は翼を開いて飛び立つ。リンカが凹んでると本当につまらんから元気にしてやりたいんだ。
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