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4 迷子の狐

1 対がいない狛狐

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「ぽんきちの兄貴ぃー!」

「うるさいぞ、馬鹿狐」

「そんな事言わんで下さいよぉ!」

 おやおや。ぽんきち先生の小上がりの差し向かいに座っているのは狐のこんたさんだ。

「小春ーこのジモティアンに出品されてるコレ、買ってやれ」

「え?」

 ちょうど一週間前に地元密着型不用品取引案内所をタブレットで見ていたぽんきち先生が、小さな黒い指で指差した。

「狐の置物ですか?」

「うむ。置物と言うかこれは狛狐だ」

「こまきつね?狛犬ではなく?」

「ああ、しかも何の因果か片方だけだな……」

 タブレットを覗き込むとお行儀良く座ったポーズの狐の置物の写真が載っている。不安そうで寂しそうな顔をしていてとても可哀想です。

「500円じゃし、駅前で取引っつーことだ。行ってやってくれ」

「分かりました。手続きお願いしますね」

「任せておけ」

 こうして僕は駅前で何故か家にあったと言う方からこの狐の置物を買い取り、お店に連れて来たのだった。

「本当あん時はありがとう!小春!なんか断捨離?とか言うのでゴミに捨てられそうになったんだ!助かったぁ!」

「おい、小坊主。相方はどうした」

 助けたにも関わらず、ぽんきち先生は無愛想。照れていらっしゃる。

「それが離れ離れになっちまって……」

 こんたさんの話によると、どうもこんたさんは長年とあるお家の神棚に祀られていた狛狐だったらしい。

「すげー大事にして貰ってたんすけど、結構前の地震で、俺だけ神棚からどたーって落ちちまって」

「災難でしたね……壊れなくて良かったです」

 とりあえずきつねそばをお出しした。ぽんきち先生にはたぬきそば。ぽんきち先生がお蕎麦が好物なのでうどんはないけどお蕎麦はある。だからおあげを乗せるのはうどんじゃなくて蕎麦になりました。

「うひゃあ!美味そう!いただきます!」

 こんたさんは最近お供えもなくお腹が空いていたそうで、きつね蕎麦を三杯も召し上がりました。

「じゃから、相方の話だ!」

「あ!すいません!たぬきの兄貴!そんでですね。棚から落ちた俺はその家に住んでた婆さんじゃなくて、婆さんちにやってきたおばさんに連れられて……巡り巡って捨てられる寸前だった訳っす」

「すると、そのお婆さんの家に対になる方が残っているんですね?」

「おう!俺の弟のこんすけな!」

 こんたさんは細い目を更に細くして、にぱっと笑いました。笑顔の可愛らしい方です。

「なんとかそのおばあさんの家が分かればいいのですが……こんすけさんも寂しがっているでしょうね」

 対になる相方がいないとなるととてもつらく寂しい事でしょう……。

「おい、小坊主。お前その家の事何か覚えてないのかい?」

「それが、さーーーっぱり!婆さんの名前がキヨって事しか覚えてないんす。なんせ、家の神棚から降りた事なかったんで!狛狐っすからねー!職場放棄は御社様に怒られちまう!」

 うん、こんたさんのいう事は正しい。

「僕もそれとなく探してみますが、分かるまで食堂にいてくださいね」

「小春~助かる~~~!あ、でももう一杯くれ」

「はい、お持ちしますね」

「いや~お揚げさんはうどんが好きだけど、蕎麦も良いもんですね~!狸の兄貴!」

「お前の兄貴になったつもりはない!」

 あ、やっぱりぽんきち先生は照れていらっしゃる。弟が出来てきっと嬉しいんでしょうね、先生にばれないように小さく笑ってしまった。

「小春ぅ!私にもおかわり!」

「あっ!はーい」

 バレちゃいました。


 
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