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小話

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「ぼ、坊ちゃま!坊ちゃま!ああ、なんとおいたわしや!」

「じい!?じいなのか!」

「ええ!坊ちゃま!お久しゅうございます!じいでございます!」

 なんと、鉄柵の前に私が小さな頃執事をしていたハリソンが現れた。ハリソンは両親が健在だったころの執事であり、私の事を孫のようだと良く可愛がってくれたものだった。確かハリソンは引退してタンバル領で悠々と暮らしているはずなのに……?

「おお、坊ちゃま!この苦しいタンバル領をご視察に参ったのでしょう?それなのにあの女狐めにこのような仕打ちを……じいは、じいは悲しゅうございます!」

「じい!私の事を真に思ってくれるのはじいだけだ!どこかに、この檻を開ける鍵はないのか?!」

 じいは悲し気に目を伏せた。

「あの女狐めがしっかり保管しており、じいでは手が出せませぬ……しかし、必ず隙をつき、坊ちゃまをこのような場所から解放して差し上げます!」

「おお!頼んだぞ、じい!」

 じいさえいてくれればなんとかなる。私はほっと一安心するのだった。


「じい……何か食べるものはないか?」

「お待ちください、坊ちゃま。じいが捜してまいります」

 朝昼晩、確かに食事は届けられる。しかしどれも薄味で量も少なく野菜ばかり。夕食にほんの少し肉があるかどうかの貧しい物だった。到底私の舌には美味しく感じられぬが、腹が減るから仕方がなく全部食べる。しかし足りぬ、全然足りぬのだ。

「坊ちゃま、茹でた芋がありましたぞ」

「そんな不味そうなもの食えるか!」

「……そ、そうですか……しかし……」

 じいが持ってきてくれたから、仕方がなく食べた。こんなものでも腹の足しにはなる。

「次からは肉を持ってきてくれ」

「……分かりました」

 私はその時、じいの顔を良く見ていなかった。


 かなり日にちが経つのに、じいは鍵を手に入れる事は出来なかった。

「あの女狐、相当厳重に隠し持っているらしく……」

「いつまでこんな場所に閉じ込めておくつもりなのだ!リーエンめ!!」

「このじいが、坊ちゃまを……お救い……」

 ふらり、とじいが傾いたと思うと倒れてしまった。

「じい!じい!?どうしたのだ!!じい!誰か、誰かーーーー!」

「ハリソンさん、無理をするから。ここ数日何も食べてないからこんなことになるんですよ」

 なんとすぐにリーエンが連れて来た執事が顔を出して、倒れて気を失っているハリソンを抱え起こした。

「ど、どういう事だ!何もたべていないとは?!」

「あなたが食べたでしょう?ハリソンさんの食事を。だからいつまでたっても樽なんですよ」

 ひょいっと持ち上げられるハリソン。そ、そんなに軽いのか……?

「タンバル領は酷い有様なんですよ、余分な食事などある訳がない。良く考える事ですね、もうハリソンさんはここには来ないようにします。これ以上は本当に死んでしまいますから」

「じ、じいは死ぬのか!?」

「このままではあなたのせいで死にますね。ぶくぶくに肥え太ったあなた、ガリガリにやせ細ったハリソンさん。そこまでしてこの樽に忠義を尽くす心は素晴らしいと思いますが、間違っていますよ」

 小屋の扉はパタンと閉じられた。わ、私が……もっと食べたいと言ったから、じいは自分の食事を私に?しかしあれは食事と呼ぶにはあまり粗末ではなかったか?た、タンバル領は一体どうなっているんだ!?

「……わ、私は……一体今まで、何を……?」

 がっくりと膝から落ち、項垂れるしかなかった。

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