【完結】その婚約破棄、承ります!〜頑張れまりにゃん!自立するその日まで!〜

鏑木 うりこ

文字の大きさ
27 / 60
マリナデット・ウィフラート

26 傷心だにゃん

しおりを挟む
「……」
 
 マリナが働かせてもらおうと思っていた喫茶店は主人が変わっていたり、店の雰囲気が変わっていたり。挙句の果てには

「……お兄様、何をしていらっしゃるんですか……?」

「さ、最近私の仲間の間で、喫茶店のオーナーになるのが流行っていてな??」

 兄がいたときはびっくりした。

「酷いです……お兄様がわたくしの働き先をとってしまうなんて!き、嫌いです!」

 ヴィクトルは死んだ。
さらばヴィクトル、安らかに眠れ!


「エレン!エレナ!聞いてください!わ、わたくし!この国を出ますっ!もう耐えきれませんっ」

「「ええーーー!」」


 国が揺れた。

「号外ー!号外ーーー!まりにゃん国を捨てるってよー!?」

「な、なんだってーーー!」

「どこへ!どこへ行こうと言うのだね?!」

「我が国?!ねぇ!我が国なんてどうかなっ?!」

「発端はヴィクトルがやらかしたよー!あいつは今簀巻きで街はずれでぶら下げられてるから、殴るならいまだよー!」

「あの阿呆!!」



 小さな旅行鞄を一つ持ってマリナは辻馬車乗り場に居た。

「辻馬車の乗り方が分かりませんでした……」

 マリナの知っている馬車は家の前まで来てくれる物だけだ。エレンもエレナも苦笑するしかない。

「どちらへ向かうご予定ですか?」

 一応、エレンは尋ねる。本当に国を出るなら、大変な事になるのだが、南や西であれば問題は大きくならないだろう。あちらは交流もあり、同盟国だ。

「勿論、傷心で向かうのは北です!」

 最悪の決断に双子は頭痛が増した。

「おや、お兄さん?北へ行くのかい?俺っちも北へ帰るからついでに乗せてってやろうか?」

 荷馬車いっぱいに藁を積み込んだ、人の良さそうな農夫が道端で、北を指指してふんぞり返るマリナに声をかけた。

「本当ですか!ありがとうございます」

 人の良さそうな農夫の笑顔にマリナも笑顔で返す。

「藁の上に座ってもらう事になるけど、良いかな?すぐ出るから、乗った乗った!」

「素敵ですね。乗せて貰いましょう?エレン、エレナ」

 待って、マリウス様。そう声をかける前にマリナは荷馬車の上にちょこんと座ってしまう。

「藁の上ってふかふかしていて座り心地が良いのですね?ん?」

「!せぇいっ!!」

 農夫はマリナが乗ると同時に馬に素早く鞭を入れた。突然の号令に馬は大きくいななくと、土を蹴り上げて走り出す。

「ま!マリナ様っ?!」 

「マリナ様!」

 あまりのタイミングにエレンとエレナも反応が遅れる。

「きゃっ!」

 いきなり走り出す馬にマリナも転がり落ちそうになるが、藁の中から出てきた手に捕まれた。

「あ、ありがとうございます?」

「どういたしまして?」

がさ!がささっ!と藁山は崩れ中から甲冑の兵士や、魔導士達が姿を現す。

 魔導士達はもう呪文を唱え始めており、兵士は飛んで来る短剣や矢、魔法も含めて撃ち落としている。

「あの」

「転移します、捕まって!」

「え?あ、はい」

 走り続ける馬車ごと全て、その場から掻き消えた。

「ま!マリナ様!!」

「追うわよ!エレン!」

 エレナは魔法の残滓を捕まえる。

「青殿!ご助力を!」

「捉えました!」

 急がねば!エレナはエレンの手を握る。



「あいわかった!」

 キィン、澄んだ音がしてエレンとエレナに防護の魔法がかかる。礼を述べている暇はない。
 相手の魔導士も恐ろしい使い手。もはや魔法の残滓も消えかかっている。

 エレナは薄くなる痕跡を辿って飛んだ。双子の感覚共有を使ってやっと追えるほどに消されている、マリナが連れ去られた転移の跡。

「ちっ!」

 舌打ちをするしかない、もう先は霧散しているし、魔導トラップも多い。いつから用意された転移魔法か!

「マリナ様……!」

 油断したつもりはなかった。だが、マリナは連れ去られてしまった。

「北……っ!」

 1番面倒で1番厄介な国に、間違いなくマリナはいるだろう。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

処理中です...