57 / 80
動物に異様に好かれる手
57 愛
しおりを挟む
ミシェル達はそのまま街へ走り出す。ジェストから続く道は決まっていて、くるなら東門を必ず通る。
「東門へ!王都から抜けます!」
「はい!」
疾風のように走る獅子の一団は人目を引いたがそれどころではない。
「逃げよ!王宮はまずい!」
ミシェルは声を上げるが人間は首を傾げるばかり。
「急げ!」「逃げるぞ!」
ミシェルの声に反応したのはやはり獣人達だけだった。獣人達は何も持たず、そのままミシェルに続いた。
「え?なに、どうしたの?!」
「うるせぇ!逃げるんだ!」
心通わせたお嬢様を抱き抱え、走り出す者。
「お前は俺に乗れ!子供達はそのまま走れ!」
「あなた?!荷物は……」
「死にたいのか!いらん!」
人間の妻を背に乗せ走る獣人の夫。ご主人様を捨てて我先に逃げ出す獣人。奴隷の獣人ですら、隙をついて逃げ出した。
「後でお仕置き?!今逃げなきゃ死んじまう!」
ぽかんと走り去る獣人を見て、口を開ける人間達。彼等が走り去った後、酷い悪臭が吹き付けて来て、やっと良くない事が起こっていると感じ始める。
「や、やばくないか……?」
「逃げよう……!」
そのまま、獣人達が走り去った方向へ逃げ出す者と
「金!金はいる!」
「そうよ!お金がないと生きて行けないわ」
「お父様ぁ?お母様ぁ?何してんの?」
金庫からお金をかき集める両親。
「あなた達もしたくなさい。王都を出た方がいいみたいよ。執事、馬車を回してちょうだい」
「分かりました」
「父上」
「ゼリアか?部屋から出るなと言うておったろう!」
ゼリアはちょうど王妃と第一王子と一緒に廊下を歩いていた。その廊下の端からゆっくり歩いてきて、ゼリアは口を開く。
「父上、私は父上の息子ですよね?父上は私を認めてくださいますよね?」
ゼリアは手を伸ばす。まだ大人になっていない手だ。あまり綺麗な手ではない。自分で吐いた血で汚れたままだった。
「私も父上の子、私も王子、私にもあなたの愛があったのですよね……?」
その弱々しく伸ばされ、王の服に触れようとした手は無情にも振り払われた。
「?!」
「やめろ!父上に病が移ったらどうする?!」
「兄上……」
手を振り払ったのは王であり、そう言い募ったのは第一王子である。
「お前など弟でも何でもないわ!汚い病持ち!まだ獣の子であるレオニーの方がマシだ!アレは病ではないからな!」
「何故アレらと城を出ていないのです?折角邪魔者を全て追い払う良い機会でしたのに」
「あに、うえ……正妃、さま」
冷たく毒とナイフで出来た言葉がゼリアに無数に突き刺さる。
「ちち、うえ。まこと、で、あります、か?」
絞り出す。もう顔はあげられなかった。予想した答えが返ってくるだろう。ただ、ゼリアのたった一欠片残っている人間の心が必死で訴えている。
「お父様は、お父様だけは私を、僕を見捨てたりしない!笑ってそんな事はない、と言ってくださる!」
そう、喉を枯らしながら、涙を流しながら、必死で訴えている。
「ちち、うえ……」
「……わしの息子はこの子だけじゃ」
そう言って第一王子の肩を抱いた。
「そうですか、ありがとうございます」
顔を上げたゼリアは血の涙を流していた。
「これで心置きなく、闇に沈めます」
ごっ!と黒い闇が渦を巻き、一瞬で三人の大人を巻き込んだ。ゼリアの人間だった物が全て闇に沈んだ瞬間だった。
「痛い痛い!!」「ぜ、ゼリア!うわああ!!」「ぎゃーー!」
闇はねっとりと三人に巻きつき、締め上げた。
「すぐは殺しませんよ。痛み、憎しみ悲しみ。全てを引き出してから死んで下さいね。人間の絶望は非常に心地良い」
嘲笑った。とても清々しい笑顔だった。
「ああ、下僕とか呼べるんだ。ねえ、この城の生き物全部喰いたいんだ」
闇の一部が狼の形になる。
「動物は嫌いだよ!!」
闇は崩れ、真っ黒い人間の姿に変わった。
「行け、全て私に捧げるんだ。城が終わったら王都を喰う。ああ、ミシェルとレオニーと侍女達は生かして連れて来て。特別に可愛いがって上げないと……」
唇がつり上がり、黒い三日月のように歪む。背後に悲鳴を上げ続ける父とその妻、腹違いの兄を巻き込んだ黒い塊を連れて、ゼリアは歩き王座に座る。
「へえ、この椅子あんまり座り心地よくないんだ。まぁ良いか」
あちこちで闇が人間を喰らっている。ゼリアの目の前に大きな黒い穴が開いていて、中に喰われた人間が詰め込まれてもがき泣いていた。
「そこからは絶対逃げられないんだよね。今から少しずつ喰っていくからね。すぐには死なないし、ずっーーっと痛いけど、狂わないように気をつけて上げるから、安心して?」
何十人もの城で働いていた人間が悲鳴を上げる。メイド、料理人、騎士、庭師。大臣に、宰相、司書、講師。職種、身分問わず人間という人間が悲鳴を上げた。
「動物や獣人が少ないね?ちゃんと連れてきて」
犬猫、馬、果ては花壇の花まで現れ始める。
「そう、それで良い。ぜんぶ、ぜんぶ喰ってしまうんだ」
ゼリアは生まれて初めて、自由に振る舞える快感に酔っていた。
「東門へ!王都から抜けます!」
「はい!」
疾風のように走る獅子の一団は人目を引いたがそれどころではない。
「逃げよ!王宮はまずい!」
ミシェルは声を上げるが人間は首を傾げるばかり。
「急げ!」「逃げるぞ!」
ミシェルの声に反応したのはやはり獣人達だけだった。獣人達は何も持たず、そのままミシェルに続いた。
「え?なに、どうしたの?!」
「うるせぇ!逃げるんだ!」
心通わせたお嬢様を抱き抱え、走り出す者。
「お前は俺に乗れ!子供達はそのまま走れ!」
「あなた?!荷物は……」
「死にたいのか!いらん!」
人間の妻を背に乗せ走る獣人の夫。ご主人様を捨てて我先に逃げ出す獣人。奴隷の獣人ですら、隙をついて逃げ出した。
「後でお仕置き?!今逃げなきゃ死んじまう!」
ぽかんと走り去る獣人を見て、口を開ける人間達。彼等が走り去った後、酷い悪臭が吹き付けて来て、やっと良くない事が起こっていると感じ始める。
「や、やばくないか……?」
「逃げよう……!」
そのまま、獣人達が走り去った方向へ逃げ出す者と
「金!金はいる!」
「そうよ!お金がないと生きて行けないわ」
「お父様ぁ?お母様ぁ?何してんの?」
金庫からお金をかき集める両親。
「あなた達もしたくなさい。王都を出た方がいいみたいよ。執事、馬車を回してちょうだい」
「分かりました」
「父上」
「ゼリアか?部屋から出るなと言うておったろう!」
ゼリアはちょうど王妃と第一王子と一緒に廊下を歩いていた。その廊下の端からゆっくり歩いてきて、ゼリアは口を開く。
「父上、私は父上の息子ですよね?父上は私を認めてくださいますよね?」
ゼリアは手を伸ばす。まだ大人になっていない手だ。あまり綺麗な手ではない。自分で吐いた血で汚れたままだった。
「私も父上の子、私も王子、私にもあなたの愛があったのですよね……?」
その弱々しく伸ばされ、王の服に触れようとした手は無情にも振り払われた。
「?!」
「やめろ!父上に病が移ったらどうする?!」
「兄上……」
手を振り払ったのは王であり、そう言い募ったのは第一王子である。
「お前など弟でも何でもないわ!汚い病持ち!まだ獣の子であるレオニーの方がマシだ!アレは病ではないからな!」
「何故アレらと城を出ていないのです?折角邪魔者を全て追い払う良い機会でしたのに」
「あに、うえ……正妃、さま」
冷たく毒とナイフで出来た言葉がゼリアに無数に突き刺さる。
「ちち、うえ。まこと、で、あります、か?」
絞り出す。もう顔はあげられなかった。予想した答えが返ってくるだろう。ただ、ゼリアのたった一欠片残っている人間の心が必死で訴えている。
「お父様は、お父様だけは私を、僕を見捨てたりしない!笑ってそんな事はない、と言ってくださる!」
そう、喉を枯らしながら、涙を流しながら、必死で訴えている。
「ちち、うえ……」
「……わしの息子はこの子だけじゃ」
そう言って第一王子の肩を抱いた。
「そうですか、ありがとうございます」
顔を上げたゼリアは血の涙を流していた。
「これで心置きなく、闇に沈めます」
ごっ!と黒い闇が渦を巻き、一瞬で三人の大人を巻き込んだ。ゼリアの人間だった物が全て闇に沈んだ瞬間だった。
「痛い痛い!!」「ぜ、ゼリア!うわああ!!」「ぎゃーー!」
闇はねっとりと三人に巻きつき、締め上げた。
「すぐは殺しませんよ。痛み、憎しみ悲しみ。全てを引き出してから死んで下さいね。人間の絶望は非常に心地良い」
嘲笑った。とても清々しい笑顔だった。
「ああ、下僕とか呼べるんだ。ねえ、この城の生き物全部喰いたいんだ」
闇の一部が狼の形になる。
「動物は嫌いだよ!!」
闇は崩れ、真っ黒い人間の姿に変わった。
「行け、全て私に捧げるんだ。城が終わったら王都を喰う。ああ、ミシェルとレオニーと侍女達は生かして連れて来て。特別に可愛いがって上げないと……」
唇がつり上がり、黒い三日月のように歪む。背後に悲鳴を上げ続ける父とその妻、腹違いの兄を巻き込んだ黒い塊を連れて、ゼリアは歩き王座に座る。
「へえ、この椅子あんまり座り心地よくないんだ。まぁ良いか」
あちこちで闇が人間を喰らっている。ゼリアの目の前に大きな黒い穴が開いていて、中に喰われた人間が詰め込まれてもがき泣いていた。
「そこからは絶対逃げられないんだよね。今から少しずつ喰っていくからね。すぐには死なないし、ずっーーっと痛いけど、狂わないように気をつけて上げるから、安心して?」
何十人もの城で働いていた人間が悲鳴を上げる。メイド、料理人、騎士、庭師。大臣に、宰相、司書、講師。職種、身分問わず人間という人間が悲鳴を上げた。
「動物や獣人が少ないね?ちゃんと連れてきて」
犬猫、馬、果ては花壇の花まで現れ始める。
「そう、それで良い。ぜんぶ、ぜんぶ喰ってしまうんだ」
ゼリアは生まれて初めて、自由に振る舞える快感に酔っていた。
36
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる