【完結】この手なんの手、気になる手!

鏑木 うりこ

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動物に異様に好かれる手

57 愛

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 ミシェル達はそのまま街へ走り出す。ジェストから続く道は決まっていて、くるなら東門を必ず通る。

「東門へ!王都から抜けます!」

「はい!」

 疾風のように走る獅子の一団は人目を引いたがそれどころではない。

「逃げよ!王宮はまずい!」

 ミシェルは声を上げるが人間は首を傾げるばかり。

「急げ!」「逃げるぞ!」

 ミシェルの声に反応したのはやはり獣人達だけだった。獣人達は何も持たず、そのままミシェルに続いた。

「え?なに、どうしたの?!」

「うるせぇ!逃げるんだ!」

 心通わせたお嬢様を抱き抱え、走り出す者。

「お前は俺に乗れ!子供達はそのまま走れ!」

「あなた?!荷物は……」

「死にたいのか!いらん!」

 人間の妻を背に乗せ走る獣人の夫。ご主人様を捨てて我先に逃げ出す獣人。奴隷の獣人ですら、隙をついて逃げ出した。

「後でお仕置き?!今逃げなきゃ死んじまう!」

 ぽかんと走り去る獣人を見て、口を開ける人間達。彼等が走り去った後、酷い悪臭が吹き付けて来て、やっと良くない事が起こっていると感じ始める。

「や、やばくないか……?」

「逃げよう……!」

 そのまま、獣人達が走り去った方向へ逃げ出す者と

「金!金はいる!」

「そうよ!お金がないと生きて行けないわ」

「お父様ぁ?お母様ぁ?何してんの?」

 金庫からお金をかき集める両親。

「あなた達もしたくなさい。王都を出た方がいいみたいよ。執事、馬車を回してちょうだい」

「分かりました」



「父上」

「ゼリアか?部屋から出るなと言うておったろう!」

 ゼリアはちょうど王妃と第一王子と一緒に廊下を歩いていた。その廊下の端からゆっくり歩いてきて、ゼリアは口を開く。

「父上、私は父上の息子ですよね?父上は私を認めてくださいますよね?」

 ゼリアは手を伸ばす。まだ大人になっていない手だ。あまり綺麗な手ではない。自分で吐いた血で汚れたままだった。

「私も父上の子、私も王子、私にもあなたの愛があったのですよね……?」

 その弱々しく伸ばされ、王の服に触れようとした手は無情にも振り払われた。

「?!」

「やめろ!父上に病が移ったらどうする?!」

「兄上……」

 手を振り払ったのは王であり、そう言い募ったのは第一王子である。

「お前など弟でも何でもないわ!汚い病持ち!まだ獣の子であるレオニーの方がマシだ!アレは病ではないからな!」

「何故アレらと城を出ていないのです?折角邪魔者を全て追い払う良い機会でしたのに」

「あに、うえ……正妃、さま」

 冷たく毒とナイフで出来た言葉がゼリアに無数に突き刺さる。

「ちち、うえ。まこと、で、あります、か?」

 絞り出す。もう顔はあげられなかった。予想した答えが返ってくるだろう。ただ、ゼリアのたった一欠片残っている人間の心が必死で訴えている。

「お父様は、お父様だけは私を、僕を見捨てたりしない!笑ってそんな事はない、と言ってくださる!」

 そう、喉を枯らしながら、涙を流しながら、必死で訴えている。

「ちち、うえ……」

「……わしの息子はこの子だけじゃ」

 そう言って第一王子の肩を抱いた。

「そうですか、ありがとうございます」
 
 顔を上げたゼリアは血の涙を流していた。

「これで心置きなく、闇に沈めます」

 ごっ!と黒い闇が渦を巻き、一瞬で三人の大人を巻き込んだ。ゼリアの人間だった物が全て闇に沈んだ瞬間だった。

「痛い痛い!!」「ぜ、ゼリア!うわああ!!」「ぎゃーー!」

 闇はねっとりと三人に巻きつき、締め上げた。

「すぐは殺しませんよ。痛み、憎しみ悲しみ。全てを引き出してから死んで下さいね。人間の絶望は非常に心地良い」

 嘲笑わらった。とても清々しい笑顔だった。

「ああ、下僕とか呼べるんだ。ねえ、この城の生き物全部喰いたいんだ」

 闇の一部が狼の形になる。

「動物は嫌いだよ!!」

 闇は崩れ、真っ黒い人間の姿に変わった。

「行け、全て私に捧げるんだ。城が終わったら王都を喰う。ああ、ミシェルとレオニーと侍女達は生かして連れて来て。特別に可愛いがって上げないと……」

 唇がつり上がり、黒い三日月のように歪む。背後に悲鳴を上げ続ける父とその妻、腹違いの兄を巻き込んだ黒い塊を連れて、ゼリアは歩き王座に座る。

「へえ、この椅子あんまり座り心地よくないんだ。まぁ良いか」

 あちこちで闇が人間を喰らっている。ゼリアの目の前に大きな黒い穴が開いていて、中に喰われた人間が詰め込まれてもがき泣いていた。

「そこからは絶対逃げられないんだよね。今から少しずつ喰っていくからね。すぐには死なないし、ずっーーっと痛いけど、狂わないように気をつけて上げるから、安心して?」

 何十人もの城で働いていた人間が悲鳴を上げる。メイド、料理人、騎士、庭師。大臣に、宰相、司書、講師。職種、身分問わず人間という人間が悲鳴を上げた。

「動物や獣人が少ないね?ちゃんと連れてきて」

 犬猫、馬、果ては花壇の花まで現れ始める。

「そう、それで良い。ぜんぶ、ぜんぶ喰ってしまうんだ」

 ゼリアは生まれて初めて、自由に振る舞える快感に酔っていた。

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